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魔物使い シンファ

第二ヒロイン

 サガミは不思議に思っていた。 というのも何時ものごとくギルドハウスに入ったのだが、なにやら雰囲気がいつもと違っていたのだ。


「今日はどうしたんだろ? なんだか普段見かけない人達もいるんだけど。」


 サガミの言う「見かけない人」というのは、冒険者を稼業としていない人間の事である。 この世界は必ずしも冒険者になれる職業を持たない人もいる。 だがそう言った人材は別のところでお店を開いていたりする。


 例えば「料理人」という職業が出たならば、冒険者としてやっていくにはメリットが少なすぎる。 そこで救済措置として、同じ様な職場の就職を徹底しているのが、この世界の理なのだ。


 しかしそう言った人材がギルドハウスに足を踏み入れることはまず無いことはサガミも知っている。 なので余計に不思議がっているのだ。


「よぉサガミ。 今日は凄い人だかりだろ?」

「ユクシテットさん。 この集まりはなんですか?」

「あぁ、今回の依頼の中に、魔物の変異種が出たとの情報があってな。 みんなそれ目当てでくる連中さ。」


 魔物の変異種。 同じ環境でも育ち方や敵によって本来の魔物の特徴とは全く異なった特徴を持つ魔物が生まれることがある。 それが変異種である。 そしてその変異種については誰も調査をしていないがゆえに、多種多様な人物が目をつけに来た、というのが人だかりの理由であることをユクシテットは説明していた。


「なるほどそれでですか。 ちなみになんの魔物の変異種なんですか?」

「魔物はウッドシャークだ。 サガミなら勿論分かるな?」

「木目に擬態して獲物を待ち伏せる鮫ですよね。 そいつの木目は彫刻家も絶賛する程の綺麗な木目だとも認識しています。 生息地は当然森、もしくは山林ですね。」

「あぁ。 ところがだ。 そんなウッドシャークの奴が、なんと竹林に現れたらしい。」


「竹林に? 確かにそれは妙ですね。」

「まあ、変異種だから生息環境に合わせたんだろうが、強さや特色はまだ調べられてないんだ。 だから依頼書はあそこに貼ってあるんだが・・・」


 ユクシテットの濁った言葉にサガミは疑問符を浮かべる。


「その依頼書を持ってくる奴がまだいなくてな。 Bランカーでも強さの分からない相手とはやりたくないんだろうよ。 無鉄砲さが無くなったのはいいが、こういう時くらいは率先して来て貰いたいものだ。」


 そうため息を洩らすユクシテット。 このギルドハウスも、昔よりは無謀に挑んで、無惨な形となって還ってきた者も多かった時代もあった。 今でこそそう言ったものは徹底して無くしてはいるものの、少なからずまだ名残はあるようだ。


「ユクシテットさん。 その依頼って僕のランクでも受けられるんですか?」

「うん? おお。 あくまでも調査をするだけなら、Cランカーでも構わん。 何らかの方法で素材が手に入れば、報酬は上乗せされるだろうよ。」

「・・・ふーむ。 調査だけでもいい・・・か。 でもさすがに1人で行くのも、他の人の依頼を取ってるみたいで申し訳が立たないなぁ。」

「そう言いつつも依頼書は取ってくるんだな。」


 サガミの性分なのだろうか、無意識に依頼書を自分の手元に引き寄せていた。 「やらない」という意志は彼には無かったようだ。


「ならいつも通りに1人で行くか? 変異種の討伐依頼じゃないし、上もお前が倒した証拠を持ってきても文句は言わんだろ。」

「そうなんですけどねぇ・・・」

「どうした?」

「いえね。 ここで僕が依頼を受けたら、他の人の興味は、一体どこに行くんだろうと思って。 彼等だってこの変異種については知りたいはずなのにこうして依頼書を持っていこうともしてない。 それってあそこにいる人達にとってこの変異種は・・・痛て。」


 これ以上はダラダラと話が長くなるかと感じ取ったのか、ユクシテットはサガミの頭にげんこつを喰らわす。 最も威力なんてものは無い軽いものだが。


「お前が他人の事なんて気にするなって何時も言ってるだろ。 「調成師」を選んだのはお前の意志。 その自分の意志を貫き通せってな。 お前は他人の言葉や行動に意識を持って行きすぎなんだ。 お前の悪い癖だ。」


 ユクシテットは彼が「調成師」に成り立ての頃からずっと面倒を見てきた。 時に依頼内容を詳しく聞きに来たり、この世界での資格の勉強のために力になったこともある。 故に彼の長所と短所も見極めている。


「あそこにいる連中なんざ、お前と同じCランカーだが、どいつもこいつも度胸が足りん。 お前よりも年齢が上の奴だってあそこには山ほどいるんだぞ。」

「慎重なのは良いことでしょう。 無駄に死にに行くような特攻隊じゃないんですから。」

「阿呆。 Bランカーになりたいんだったら、少しでも命懸けで行ってこいってんだ。 最近少なくなってきてんだよ。 Bランカーの昇格試験を受ける奴が。 別にサガミみたいにソロで行けって行ってる訳じゃないんだしよ。」


 その言葉に「アハハ」と笑うサガミ。 その心中は「他人事なんだけど、無視できない」と言った具合だろう。


「ま、お前が行ってくれるなら俺は歓迎するぜ。 だが今回は誰か連れていけ。 監視役なんか必要無いだろうが、上の考えもある。 念のためな。」

「誰か・・・ですか・・・パーティーとしては行きたくないけど、なるべく分かる人に・・・あっ。」


 誰と一緒に依頼を受けに行くかと依頼書の前にいる人を見定めていると、1匹の()()()()()を肩に乗せている1人の冒険者の元にサガミは歩みを寄せて、アルマジロの乗っていない方の肩を叩いた。


「・・・っ! 誰・・・? あ、先輩。」

「やあシンファ。 君も変異種の依頼を受けに来たのかい?」


 サガミはその人物に優しく声をかけた。


 癖っ毛の強い黒柿色のセミロングで丸眼鏡をかけて、冒険者には向かない風な格好をしているのはシンファ。 シンフォニア・グレナース。 女子である。


「はい。 魔物使いとしては、変異種は見ておきたいので。」


 さっきまでのびくついた態度や様子はなく、普通に接していた。


 サガミとシンファはある依頼を来なそうと依頼書を取ったときに、たまたま近くに行くことが判明して、同行した経緯があり、以降は年齢上サガミが歳上になるので、「先輩と後輩」という立ち位置になっているのだ。


 そして彼女の職業「魔物使い」は、魔物と話したり出来るという特技を活かして、自分の従者にさせることが可能なのだ。 ただし従者と言っても必ずしも戦える魔物を引き連れているとは限らない。 「魔物使い」はそれなりにありふれているので、十人十色な職業でもあるのだ。


「それなら僕と一緒に行く? これから僕も行こうと思ってたんだ。 討伐は出来ないけど、今回は観察だから危険は少ないし、もしなにかあっても僕がある程度は守ってあげれるから、じっくり調べられてシンファにとってはメリットだらけじゃない?」

「それはそうですけど・・・それだと先輩にとってのメリットが無いような・・・?」

「損得勘定で動いていたら、結局は損するだけだよシンファ。 僕はそれに何度もやられてきた。」


 サガミの言葉にシンファは同情をせざるを得なかった。 実際に彼女も何度かサガミが自分の都合で入ったパーティーでの扱いが酷かったのを近くで見ているからである。 自分の都合とは言えあまり団体行動を好まないサガミと、「調成師」という謎の職業の人間をいれざるを得なくなったパーティーの利害など一致するわけもなく、結果的にサガミに最小限の報酬の分け前で解決した経緯がサガミにはあるのだ。。


「分かりました。 ついていきます。 あたしとしても変異種は視てみたいし、モージローも先輩の事を気に入っていますので。」


 そう言って肩に乗せている相棒を指差した。


「なら決定だな。 依頼書は俺が受け取ろう。 頼んだぞ2人とも。」

「はい。」

「は、はい。」

「シンファ・・・俺がまだ慣れないか?」


 ユクシテットが来た辺りでサガミの後ろにシンファは隠れてしまい、その事を若干ショックに思うユクシテットとそれの間で取り繕っているサガミの姿があったのだった。

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