面倒見高い系男子
「・・・うっ・・・う?」
ハヤカが目を覚ますと、先程までの草原とはうってかわって、木造建築物の中にいた。 そさて自分は寝かされていることにも気が付けた。
「目が覚めた?」
声のした方を向くと、そこには読書をしていたサガミが佇んでいた。
「あれ? 私・・・」
「君が書いた物がぶつかったと思ったらすぐに消失してしまってね。 恐らくは魔力切れか魔力を流した人物から生体反応が消えると跡形もなく消失しちゃうみたい。」
「スケッチブックの方は?」
「紙が1枚破られたように無くなっていたから、魔力は紙媒体で物質を作るために使われたんだろうね。」
「そう・・・」
サガミの言葉にハヤカは気を落としていた。 しかしサガミはそんな彼女を優しく見ていた。
「人間誰にだって失敗は付き物じゃないか。 1回の失敗くらいじゃ、僕達は責めないよ。 それに今回の事で絵の飛び出し方と、相応の質量があることが分かったのはとてもいい収穫だと思うんだ。」
「そう・・・よね。 まだ初めての事だったし、最初なんて失敗してなんぼじゃないの。」
そんなサガミの声に、ハヤカも落ち込むのは止めたようだ。 そこに更にサガミは言葉を重ねる。
「失敗を糧にしなければなにも出来ない。 失敗を恐れた挑戦ほど無価値な物はない。 でも完璧をこなせる訳じゃない。 そんなことの繰り返しで、ようやく自分を見つけられるんじゃないかな。」
「貴方って詩人のようね。」
ハヤカの言葉にサガミは首を傾げた。 「こんなことで詩人?」と言わんばかりに。
「でもありがと。 貴方が励ましてくれなかったら落ち込んだままだったかも。」
「それならよかった。 あ、そろそろご飯の時間だけど食欲はある? そういえば泊まる場所も用意してあげないとね。 後は衣服かな? お風呂はあそこに行けばいいから・・・」
それだけ色々と考えているサガミの姿を見てハヤカは、この世界で最初に出会ったのが彼で良かったと心底思った。 ハヤカもここまで面倒を見て貰うのは、親でももう無くなっている。 だからこそサガミに甘えてもいいなら甘えたいと思ったハヤカはおもいっきり首を横に振った。 邪な考えを持った自分を払拭するために。
「あ、目が覚めたのですね。」
階段を下りるとマニュー達も待っていた。 ギルドハウスの部屋だったことを確認したハヤカは、少し居心地が悪く感じた。
というのも、自分の職業の為に付き合って貰ったにも関わらず成果どころか足を引っ張る形になってしまったので、やるせなさが押し寄せてきている。
「ねぇ、みんな・・・私・・・」
「お怪我の方は大丈夫でしたか? 他にお怪我はなされていませんか?」
「みんなで担ぐのも大変だったから、私の魔物で途中までは運んだの。 後は先輩が背負ってくれたんですけど。」
「最初は上手く行かないことなんてあることですよ。 次も頑張っていきましょう。」
「依頼は達成してた。 気にせず戻ってこれた。」
みんなの言葉にハヤカは驚きながらも「ああ、こう言う人達なんだ」と認識をした。 自分の事に対して誰も責めるものはいないと。 間違っていても誰も咎めないと。
「師匠、次はどちらに行かれますか?」
「うーん。 1個だけ調査依頼があったんだよねぇ。」
「調査依頼。 どのあたり?」
「前に行った草原の更に奥。 確かあの先は渓谷だった筈だけど・・・向こう側に行くための橋が出来上がったのかな?」
サガミ達は色々と模索している。 そんな時にハヤカが声をあげる。
「調査してみてもいいと思います。」
「え? いや、確かに調査依頼はランクは関係ないけれど・・・」
「私もなにかやってみたいんです。 この世界に来て、なにも出来ないまま皆さんと一緒にいるのは嫌なんです!」
その意気込みにサガミ達だけでなく、ギルドハウスにいた全員が、ハヤカの方に目を向ける。 様々な視線を浴びつつもハヤカの決意は変わらなかった。
「あぁ、やっぱり橋が出来上がってる。」
草原を抜けて、崖のすぐ近くにやってきたサガミ達は、石造りで出来た立派な橋をお目にかかる事となった。
「凄いわねぇ。 橋ってここまで短期間で出来ちゃうのね。」
ハヤカも驚嘆の声をあげていた。 ちなみにここに来るまでに描いては出して、描いては出してを繰り返しているうちに、新たなスキルを獲得していた。 スキルというよりは身体能力向上に近いものだが。
「スキル:速写
描写する速度が上がる。 スキル向上あり。」
このスキルは一見地味なようにも感じるが、背もたれつきの椅子を15分で描いていたのが、約半分の7分半で描けるようになっているのだ。 そして向上ありとなれば、描けば描くほど速度が上がっていく計算になっていく。 スキル発現時のハヤカは、この機会を逃してなるものかとバリバリに描いていた。 お陰で魔力切れを考えておらず、貧血ギリギリの状態までひたすらに描いていたのはご愛嬌だ。 魔力の入った錠剤を飲んだことで凌いだが、自分がぶっ倒れるまでやる必要はないとサガミに釘を刺されたので、ここまでの道のりは少しずつ描いていた。
「ほとんど魔法の力だけどね。 浮力魔法、粘着魔法、固定魔法を使えばこれくらいなら1週間で出来ると思うよ。 まあ、それぞれが違う魔法だからその分の人材はいるけど。」
「それにここまで運んでくるのにも、力持ちの冒険者や魔物を使ったりしますものね。 結構大変だと思います。」
サガミの答えとシンファの検討に、ハヤカはかなり安直な答えだったなと認識させられた。
「さてと、このまま橋を渡ろうと思うんだけど・・・」
「なにか問題?」
「シンファ、暗闇でも視界が効く魔物を召還出来ないかい?」
「渓谷の偵察ですね。 それならこの子達を出そうと思います。」
そう言ってシンファが出してきたのは、羽がマントのようになっているコウモリ「マントバット」の群れを渓谷へと放った。
「よし、今のうちに行こうか。 ネルハ、念のため橋には触らないようにね。」
「はい。 触って壊れてしまったら、元も子もないですからね。」
そう言いながらサガミ達は橋の中央を歩きながら進んでいく。 すると後方を歩いているシルクが転びそうになったのを、サガミは素早く振り返り受け止めた。
「大丈夫?」
「うん。 ちょっと段差があっただけ。」
「怪我はないね。 足も大丈夫そうだ。 ん。 ちょっと出っ張っちゃってるね、このブロック。 ・・・よし。 もうこれで転ばないでしょ。」
一連の流れを見ていたハヤカは、サガミがごく自然にやっていることだと認識した。 誰のためでもない。 自分のためにやっているのだ、と。
そして橋を渡り終えて、シンファが「マントバット」を返した辺りで、サガミは橋のほんの一部分を「超能生成」で掴み取り、その石を使って机を作った。
「うーん。 椅子ばっかりは石で作ると硬くなるし・・・かといって立たせるわけにも・・・」
「それなら私が出すわ。」
ハヤカがそう言うと、スケッチブックに勢いよく描いていく。 本人も気が付いていないことなのだが、彼女は何度も絵を描いている事を繰り返しているうちに、無意識的に筆先に魔力を注ぐことが出来るようになっていた。 そしてスケッチブックに描いては千切り、千切った紙が木製の椅子へと変貌する。 それを後5回ほど繰り返して、ついでにティーカップを人数分用意した所で、彼女は椅子に座った。 椅子はしなることなく質量を持って座ることが出来た。
そして「ピロン」という音が鳴った。 スキル発現の音である。
「スキル:消費減少
発現させる為の媒体、魔力の消費が通常の2/3になる。」
消費減少はありがたい事で、魔力を多く注ぎやすくなったことで、より大きな物を描いても、魔力切れになりにくくなった。 これもスキル向上型なので使用すればする程練度が上がっていく。
やりきったと言わんばかりに深く腰掛けたハヤカの前に、紅茶の入ったティーカップと淡い焼き色をしたクッキーが用意された。
「お疲れ様。 紅茶と煎った魔力草を砕いて入れたクッキーだよ。」
「あ、ありがとう、ございます。」
「もし紅茶が苦いって感じたら、砂糖とミルクも用意するから、遠慮なく言ってね。」
「いえ、そのままでも飲めるので、大丈夫です。」
そう訂正するハヤカに微笑みかけてサガミは、自分もハヤカが用意してくれた椅子に座り、優雅に休憩時間を楽しんだ。 ほかのみんなもそれに習うように楽しんでいる。 そのやり取りを見ながら、ハヤカはただサガミの方を見ていた。
「サガミさん、頼れるお兄さんって言うよりも、お母さんに近いかも。」
ハヤカは自分が思ったことをそうポツリと呟いて、自分も紅茶とクッキーを堪能するのだった。




