まずは慣れるところから
まず始めにやること、それは、自己、紹介、だ!
一先ずの買い物を終えて、ギルドハウスに戻ってきて、いつもの席に座るサガミ達。 あまりの動きの精密さに驚きつつも、用意された席にハヤカも座るのだった。
「こうなってしまった以上は、僕も見放すわけにもいかなくなっちゃった。 だからまずは、僕達の事を知って貰うために自己紹介から始めよう。」
クランリーダーな事もあってか、サガミは指揮を取り始めた。
「僕はサルガミット・コーナン。 歳は18になります。」
「私よりも歳上の方だったのですか。 先程は申し訳ありませんでした。」
「取り乱していたこともあったから、謝ることはないよ。 職業は「調成師」。 物質の生成分解が主な職業で、冒険者ランクはBになってます。」
「生成分解なら、錬金術師でも同じな様に感じますけど?」
「僕のスキルは「超能生成」で、石材や木材から作るのはもちろん、鉱物から液体、今は空気中の分子からでもある程度の物は作れるようになってるんだ。」
「す、凄い・・・分子レベルにまで手を加えられるなんて・・・」
「そうなんですよ! 師匠は本当に凄いんです! だけど「調成師」だからって理由だけで忌避されるなんておかしいと思いませんか!?」
「な、なんでこの子がそんなに興奮しているの?」
「それは自己紹介で分かるよ。 ほらネルハ。 自分から切り出したなら、自己紹介しないと。」
サガミの言葉に大人しくなるネルハ。 咳払いをして、姿勢を正す。
「先程は取り乱して申し訳ありませんでした。 自分はネルハ・クォーター。 師匠と同じ「調成師」なんです。」
「あ、それじゃあ師匠って言うのは・・・」
「私はサルガミットさんよりも後に「調成師」になったので。」
そう胸を張るネルハ。 その事に関して言えば、あまり関係は実のところ無かったりするのだが、彼女が誇れるならばそれでいいと、サガミも流していた。
「では次は私が。 シンフォニア・グレナース。 シンファって呼んでください。 私は「魔物使い」になります。」
「その割には魔物らしい魔物をみないのですが?」
「ちゃんと別の空間で生活しています。 身体の大きい魔物もいますので。」
その説明に納得したようにハヤカは手を叩いた。 恐らくハヤカが想像していた「魔物使い」は、魔物達に囲まれながら生活しているのだろうと考えていたからだ。 実際にそう言った魔物使いも存在はするので、一概に否定は出来ない。
「それでは私ですね。 マニュー・アンバスタ。 私はこの世界では珍しい「治療師」を職業にしています。」
「ということは回復がメインってこと?」
「魔法でも出来ますが、私の本質は薬の調合によるものです。 ですがそれ以外にも、自分なりに身体について勉強していますので、身体のケアも行えるんですよ。」
「それは大変だったことだと思います。 それにしても珍しいというのは?」
「同じ職業を持つ人がそんなに多くいない、というのが現実です。 0というわけではないのですが、引っ張りだこなのは変わらないです。」
マニュー自体に非はない。 だがなってしまった以上は欲しいのは当たり前。 マニューはそう言った意味では疲弊せざるを得なかった。
「貴女も苦労なされたのですね。」
「申し訳ございません。 この世界に来たばかりの人間を、不快にさせるような事を話してしまって。」
「いえいえ、みなさんの事が分かって、いいんです。 ・・・それで貴女は?」
そう言ってハヤカはシルクの方を見てやる。 彼女はハヤカにとっては異質だった。 子供のような姿で、何より額に一本角が生えているのだ。 正しく異世界らしくなったと感じていた。
「ボクはシルク。 父さんに、育てて貰ってる。」
シルクはハヤカに対して言葉を選んでいた。 「使役」といってサガミの事に嫌な感情を含んで欲しくないと言う、シルクなりに考えた答えだった。
「なんで「父さん」って呼んでいるの?」
「ボクは拾われた。 そもそも最初は人じゃなかった。 竜の姿で見つかって、そこで育てられた。」
「そう・・・元の親のところに帰りたいとは・・・」
「思わない。 ボクは今の生活が好き。 でも捨てたとは思ってない。 会った時は「ちゃんとやれているよ」って、伝えるんだ。」
その言葉にハヤカはサガミの事を本気で信じようと、確信が出来たのだった。 ハヤカからすれば、女子に囲まれている男となると、少し抵抗があった。 異世界だからと納得することが簡単には出来なかった。 だからこそ本人も含めて聞きたかったのだ。
「僕らの紹介はここまでだね。 それじゃあ僕は依頼書を見てくるから、その間みんなはゆっくりしていて。」
そう言ってサガミのみ席を立ち、そのまま掲示板のところまで歩いていってしまった。
「ねぇ・・・あの人っていつもあんな感じなの?」
「うん。 あんな感じ。 欲が無い。」
「驕らないのは他の冒険者よりも好感が持てる1つです。」
ハヤカの疑問にシルクとシンファは答える。 サガミの今の状況なら女子に囲まれてハーレム状態なのにも関わらず、それに媚びないどころか、誰に対しても平等に扱っているかの姿に、安心を覚えるハヤカであった。
「サルガミット君、どのような依頼を持ってくるのでしょうか?」
「ハヤカさんの事があるので、採取依頼とかかと。 まだ自分もハヤカさんもランクはDなので、それ以上の依頼は受けてこない筈です。」
「改めて思うけど、本当に申し訳ないことをしてる気がするの。 なにも知らない私のために、ここまでしてもらって。」
「なにも知らないからこそですよ。 先輩はそう言った方に特に寛容なんです。」
そんな軽いガールズトークをしているうちにサガミが依頼書をもって戻ってくる。 ハヤカにとって、始めての依頼が始まる。
「って、少しは期待していたんだけどなぁ・・・」
そうガッカリした様子を見せるハヤカ。 無理もない。 今回の依頼は「調合用の薬草を取ってきて欲しい」というありきたりかつ誰でも出来る依頼だった。 ハヤカ自身も仲間を苦難を乗り越えて、といった冒険に淡い期待を持っていただけに、拍子抜けどころかテンションがガタ下がりになってしまっていた。
「まあまあハヤカさん。 Dランクの依頼なんてこんなものですよ。」
「でもなんかこう・・・不完全燃焼にならない? モンスター討伐とか、新しい鉱石を見つけてきてくれ、とか。 そう言うのがあってもいいと思ったんだけど。」
「下積みも無しにそんなものを受けたって、最終的に何も得られないのがオチですよ。 絵描きだって、相当の努力があってこそ、認められる様になったのではないですか?」
サガミの正論に、ハヤカは自分の考えを悔いた。 ハヤカはまだ美術学校に通う生徒の1人。 認められるための努力を惜しんではいなかった。 だからこそサガミの言葉に胸が痛くなった。
「・・・そうね。 努力をすることから逃げてはいけないわよね。 貴方の事を傷つけてしまったのなら謝るわ。 軽率な言葉を言ってごめんなさい。」
「気にしないで。 慣れてるから。」
慣れたと言ってもサガミの場合、「努力しても無駄だ」という、罵りの意味合いではあるのだが、ハヤカに気を遣わせたく無かったので、話を変えることにした。 依頼自体は既に終わっているので。
「それで、今回はハヤカの職業について、色々とやってみたいとおもってるんだ。」
「あ、それでこの草原だったのね。」
そうハヤカは納得した。 見張らしよし、魔物無し、障害物は岩があるがその程度。 練習場所にはうってつけなのだ。
「書くものについてだけど・・・そもそも前の世界ではなにを書いていたの?」
「私はデッサン画を書いていたわ。」
「デッサン?」
「目の前にある物を本物に近い形で模写をすることね。 だから私人とかは上手く書けないの。」
「物が書ける、十分凄い。」
「ありがとう、シルクちゃん。 それで魔力を流すって言うのが分からないんだけれど、どうすればいいのかしら?」
そうハヤカから疑問をぶつけられたサガミを始めとした皆も、うーんと唸ってしまった。
「あれ? どうしたの?」
「そういえば、僕達のパーティーって、魔法関連は誰もいなかったなぁって改めて思って。」
「私の治癒魔法とは、勝手が違いますから、私も専門外です。」
その言葉にさすがにハヤカも「えー?」という表情になる。 ここまで来て期待を外されるのも、結構堪えるものがある。
「魔力の流れは分からないけれど、こう、筆先に魔力を集める雰囲気でやってみてもいいんじゃないかな?」
「曖昧な表現ね。 でもなにもやってみないよりはマシかな。」
サガミの言葉に呆れつつも、それなら出来るだろうと、ハヤカは念を込めつつ、適当な物を描いてみる。
「絵を描くって、それだけ時間と労力が掛かると思うんだけれど、実際のところはどうなんですか?」
「そうねぇ。 立体的に描こうと思ったらその物の影とか見せるための書き方とか色々とやってみると時間なんてあっという間よ。」
そう喋りつつも筆を走らせているハヤカ。 ハヤカ自身も「あれ? こんなに早く描けたっけ?」と思いつつもスラスラと完成に近づけていく。 そして待つこと数分。
「出来たわ!」
そう言ってハヤカは持っていたスケッチブックを自分の所から離す。 そしてそのあとすぐに描かれていた背もたれつきの椅子が出てきた。 出てきたが・・・
「ギャッ!」
絵の方向から勢いよく飛び出してきて、それがハヤカの顔面に直撃。 そしてそのままハヤカは気絶をしてしまい、椅子も消失してしまった。
そんな悲惨な現状をみたサガミは、そう簡単に目が離せなくなったと、少しばかり落胆するのだった。
作者は画力は皆無です。 1つの作品を書くことの難しさは伝わる程度にしか分かりません、悪しからず




