出逢ったのは、知らない世界の人間
新キャラ
最初は一人称視点から入ります。
私の名前は桐谷 早香 歳は17。 ごく普通の美術高校に通う高校生・・・だったんだけど。
今は自分が立っている場所や周りの風景が明らかに日本じゃない。 何て言うか、中世ヨーロッパに来たような感覚だった。
だけどどうしてこうなったんだろう? ・・・確か私は帰りの電車に乗るために駅のホームで待ってて、それで・・・後ろから誰かに突き飛ばされた?
じゃあ私、あの時誰かに押されて、電車に轢かれたの? だったらこれは夢? それとも噂に聞く異世界転生とかの類い?
周りをよく見れば、中世ヨーロッパの格好にしては明らかに重たそうな格好をしてる人間が多い、上裸マッチョも見受けられたし、腰の剣も不自然だった。
でもここが異世界だとして、私はどうすればいいんだろう? そもそもこの世界で生きていけるのかな?
そう思っていたら、不意に誰かが肩を叩いてきた。
―――――――――
「ここは相変わらず賑やかだねぇ。」
「そうですね。 冒険者にとって、欠かせない必需品を、扱っている商店も、多いですし。」
「魔物用の食事や躾用のアイテムもこの辺りですしね。」
「自分も何回かこの場に来ていますが、何時来てもこの賑わいは変わらないですね。」
「大人数、はぐれやすい。 固まって動くのが、賢い選択。」
周りの喧騒の中で、会話をしているサガミ一行が歩いているのは街一番の大通り商店。 冒険者はもちろん、主婦や料理人なども数多く集まるこの商店街で、彼らも彼らなりに自分達の消耗品の為に買いに来たのだった。
「師匠は何を買われるので?」
「適当な薬草と新しい乳鉢。 今使ってるのは粉が混ざりすぎてるから、粉砕して棄てないと面倒なことになるんだ。」
「今度は、何をなさるの、ですか?」
「超能生成で、錠剤の開発と、その前段階の作成。」
「シルクちゃんも知ってるんですね。」
「そこまで危険な作業でもないと思ってるし、シルクは僕が没頭し過ぎないようにするためのストッパーの役割を担って貰うつもり・・・うん?」
「どうかしましたか?」
サガミの目に止まったのは、何かを探すようにキョロキョロとしている女子だった。
茶髪のツインテールで、眼鏡を掛けている。 背丈としてはそこそこ高い部類だが、サガミ程ではない。 そんな姿を見たサガミは、彼女に声をかけに行った。 後のみんなも同じ様に続いていき、サガミは少女の肩を叩いた。
「えっと、何かお困りかな?」
困惑気味の少女は、不意に叩かれたことに身体を強ばらせつつも、こう答えたのだった。
「言葉が・・・通じる? ねぇ! ここは何処なの? 私はどこに来ちゃったの?」
相手はかなり混乱状態に陥っている事を悟ると同時に、サガミは彼女の言葉から、ある1つの結論に至った。
「もしかしてあなた・・・この世界とは違う場所から来たのですか?」
その言葉に、今度は少女が驚く番となった。
「え? な、なんで・・・」
「ああ、すみません。 別に怖がらせるために言ったのではないんです。 僕らの国には勇者パーティー一行がおられるのですが、その方達があなたと同じかまでは分かりませんがこの世界に何らかの方法で来た方達なのです。」
話をするには場所が悪いため、サガミ達はハヤカ(名前は教えて貰った)を連れて自分達が利用するいつものギルドハウスに連れていくことにした。 買い物をする予定ではあったが、それよりもいきなり自分と住んでいた場所とは違う場所に連れてこられたハヤカの理解が先だった。
「はぁ・・・本当に異世界って感じ・・・魔法使いの格好をした人もいる・・・」
この世界の人間に興味津々なのか、ギルドハウスの中にいる人を観察している。 そんな彼女を連れてサガミ一行はカウンターに付いて、いつものようにユクシテットを見つける。 ハヤカは目の前のスキンヘッドにビクついてしまったが。
「ユクシテットさん。」
「ん? おお? お前ら、今日は買い物じゃなかったのか?」
「予定が変わったんです。 彼女が困っていたので。」
「誰だ? そいつは?」
みんなに一斉に見られてハヤカは後退りしてしまうものの、自分の事だと分かると、気持ちを切り替えた。
「えっと、私は桐谷 早香と申します。 信じて貰えないかもしれないんですけど、私はこの世界の人間じゃなくって、気が付いたらその、街のど真ん中で立っていたんですけど・・・」
「この世界の人間じゃない? ・・・なるほど、勇者パーティーと同じなんだな。」
「そうらしいんです。」
「で、なんでお前が連れてきた?」
「なんでって・・・困っていて、いきなりここに来たって説明されて放っておけます?」
「はん。 お前はまた面白いものを拾ってくる。 ちょっと待ってろ。 判定器と職業登録証を持ってくる。」
そう言ってユクシテットはカウンターの奥に引っ込んでいってしまった。
「えっと、あの人は?」
「あの人は、このギルドハウスの、管理人さん、です。」
「普通に優しい人ですよ。 ちょっと見た目が怖いだけで。」
ハヤカの疑問にマニューとシンファが答える。 ハヤカもその言葉にホッとする。
「おーい、持ってきたぞ。 とりあえずハヤカと言ったか。 この水晶に手を翳してくれ。」
「は、はい。」
ハヤカが水晶に手を置くと、水晶は色を変え始めた。 それをユクシテットは読み取るのも、仕事の1つである。 判定器と職業登録証がある理由としては、このような特例があるのもそうだが、元々は職業変更や軽犯罪者への措置等に使われることが多い。 適性職業だけで生きていけるような世界ではないようだ。
「なるほど、魔力はそこそこ大きいから、「魔法使い」や魔力を媒体に載せて攻撃する「魔法騎士」何て言うのが適性にあがっているな。」
「ほ、本当ですか? 私に、この世界で魔法の才能が・・・」
「だが一番の適性は「魔法美術家」と書いてあるな。」
「・・・魔法美術家?」
「そうだ。 ちゃんと説明も書いてある。」
『職業:魔法美術家
自分の魔力を還元し、魔力を通した紙に、魔力を通した筆で描いたものを物理的に出すことが出来る。
還元する魔力が多ければ多いほど、描いたものはより鮮明になり、質量も上がっていく。
出現した絵画物は魔力切れもしくは著しく破損した場合、その物質は無くなる。
また描くために使用した材料の物理法則は、スキルの向上により無効にすることも出来るようになる。』
ユクシテットが説明文を見せると、皆がみな疑問に思い始めた。
「これって普通に絵を描くのとどう違うんですかね?」
「紙に描いた物を、物理的に取り出せるように出来る、というところでしょうか?」
「魔力を還元するって言うのも、言い回しが難しいですね。」
「自分の中の魔力を使って、魔法の力で物質を作り出す。 要約するとこんな感じ?」
そんな予測をみなで立てつつ、ユクシテットはハヤカに問うことにする。
「さて、後はお前さん次第だ。 一番の適性職業を選んでもよし。 そこのサガミみたいに敢えて適性職業から外してもいい。 生き方、やり方は人それぞれだ。」
これはユクシテットが語る常套句である。 一度でも同じ様に自分の進む道に迷ったり、今まで通りいかなかった人達に、諭すように今の言葉を並べているのを、サガミ達も見てきた。 故に
「「僕みたいに」は余計です。」
「自分から嫌われ職業に行く奴のそこなんか知らねぇよ。 だが実際に功績を出しているのも事実だかな。」
納得がいってないように睨むサガミを尻目に、ハヤカは結論を出した。
「私は魔法美術家を選びます。 前の世界での学校の事もあったので、絵を通じてなにかが出来るのならば、それに準じたい。」
「・・・決意は決まったみたいだな。 よし。 それじゃあ職業登録証に「魔法美術家」と書く。 その後にお前さんの名前と、人差し指を押し付けるんだ。 それでお前さんも冒険者になれる。」
「はい。 ・・・書きました。」
そして人差し指を紙に押し込んで、これにより登録が完了することとなった。
「よし。 じゃあまずはDランクの依頼から始めて貰おう。 本来なら半年程は依頼をこなし続けなければならんが、お前さんは異世界人という特例持ちだ。 恐らくは1ヶ月でCランクに行けるだろう。」
「自分と同じくらいに昇格するんですね!」
「それで、分からんことがあったらそいつに聞け。 大抵の事は説明してくれるからよ。」
「え? 僕に丸投げですか?」
「お前が連れてきたんだ。 面倒は見てやれ。 俺達じゃ手に負えん職業かもしれないかな。」
やりたくないだけでは? とサガミは感じてしまったが深く考えるのはよそうとも思ったので、仕方なくハヤカを連れていく事にした。
「とりあえずまずは買い物を終えないと。」
買い物の途中だった事を思い出して、みんなと一緒にギルドハウスを出るサガミであった。
主人公は変えるつもりはありません。
物理法則は無視できないようにしようと思ったのですが、この後の展開の矛盾を解消するために、記述を書き換えました。




