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悪食家からの食材依頼 2

 スピッツの背びれに掴みながら移動をすること数分。 サガミが1つ提案を出す。


『シンファ。 僕は一度船に戻って舵を取り直すから、もしまたパールオクトを見つけたら合図を送って。』

『分かりました。 水圧が強いので、お気をつけて。』


 サガミは浮上していき、そのまま海面へと顔を出した。 するとシルクが船から梯子を出してくれる。


「ありがとうシルク。」

「獲物、いた?」

「いたはいたよ。 でも僕らが狙ってる個体とは違うみたい。」

「シンファは?」

「スピッツと一緒に別のパールオクトを探してる。 海域的にはいるのは間違いないけど、見誤ると通常個体と遭遇しちゃうからね。 下手に見つけられないよ。」


 船に登った後にサガミは操縦室に入り、舵を握る。


「父さん、どうするの?」

「今はどうにもしないけど、なにか相手を捕縛できる物が欲しいかな。 とはいえ、持ってくる物がそんなに多くなかったから、僕の「超能生成」でも作られる物は限られるけど。」


 サガミもその件に関しては後悔をしているばかりである。 船に乗るため荷物は最小限にしたのが仇となったが、あまり海に不法投棄もよくない。 色々と悩みどころではあった。


 そんなことをしていると、遠くの方でなにかが飛び上がったのが分かる。 持ってきていた双眼鏡で覗くと、スピアドルフィンことスピッツと一緒にシンファが海上に飛んでいたのだ。


「あ、見つけたのかな? シルク、ちょっと双眼鏡で位置を教えて。 それにあわせて舵を取るから。」

「分かった。」


 双眼鏡をシルクに渡して、船を動かす。 粗方位置の目星は付けているので、まずはその方向に進めば問題はない。

 問題は見つけた震度だとサガミは思っていた。


「もう一度飛び上がってくれれば、まだ時間とかを使って把握できるんだけど。」


 そんな誰だろうと無茶な要求を考えていたサガミは、シンファとスピッツが飛んだ辺りまでやってきて、再度潜水を行った。 すると近くに待っていたかのように、シンファとスピッツがサガミの近くに寄ってきた。


『わざわざ出迎えてくれてありがとうシンファ。』

『いえ、これくらいのことは。 それにすぐに来て欲しかったので。』

『例の個体だったのかい?』

『そうです。 元々警戒が薄い個体になるのですが、今回のは特に警戒心が薄いようなのです。』

『・・・警戒心に濃い薄いがあるなんて初めて知ったけど・・・』


 そんなことを考えても仕方ないかと言わんばかりに、サガミはスピッツに乗った。


 そして深海に潜ると、そこには確かにパールオクトが存在していた。


『確か前の個体はこの距離だけでも墨を吐いてきたよね?』

『はい。 パールオクトの警戒範囲は広いですから。』

『でもあいつは攻撃をしてこない・・・ 例の個体で間違いなさそうだね。』


 距離としてはかなり離れていて、この広い海の中でポツンと白い点を見つけるのは至難の技である。


『よし、このまま近付いていこう。 だけどどこで相手が警戒を始めるか分からない。 懐に最速で行くのも悪くないと考えたけれど、その分相手の攻撃も近くなるからね。 慎重にかつ迅速に、かな。』


 そう言ってスピッツの背びれを掴みながらゆっくりと泳ぐのだった。


『結構近くまで来たけど、本当に攻撃してこないね。』

『まさしく外れ物。 同族からはあまりよろしく思われてなかったのでしょう。』


 そう言いあっているうちにパールオクトの横目と目が合う。 どうやら向こうも標的を捉えたようだ。


『普通のパールオクトなら、ここで墨を吐いてくるんだけれど・・・』


 サガミが身構えていると、パールオクトは小さい吸盤の付いた8本足をサガミ達に伸ばしていく。 下手に傷を付けないようにナイフなども今はしまってある。 そうなる前にとサガミはナイフの柄を持った状態で待機する。 そしてうねうねとうねらせる、パールオクトの足を見ているが、攻撃する気配はない。 それどころかこちらを観察しているようにも見える。

 そしてその行動は突然訪れた。 パールオクトの足が動いたかと思いきや、物凄い速さでサガミとスピッツを拘束したのだ。


『うっ! 油断していなかったとはいえ、速い!』


 サガミとスピッツは身体全体を足1本で拘束されてしまう。 ここから攻撃してくるかと思いきや、俺達が捕まったのを察して別の魔物を呼ぼうとしていたシンファがパールオクトに目をつけられる。 足はまだ6本ある。 俺達よりも拘束しやすいであろうシンファも瞬く間に拘束されてしまった。 ただし俺達とは違い、足を4本使い手足それぞれを拘束する。


『な、なにをする気?』


 シンファも戸惑っている。 そしてパールオクトは残りの2本の足をシンファに近付けて・・・お腹の部分から防水服の中へと侵入させたのだった。


『な、なにを・・・ふぁ!?』

『シンファ!?』

『どこ・・・触って・・・ん・・・擦ら・・・ないで・・・いや! そこは・・・駄目・・・!』


 どうやら防水服の中で身体をまさぐられているようで、シンファの口から色っぽい声がサガミに聞こえてくる。 しかしサガミにはそんなのを聞いている余裕はない。 防水服が脱げているということは、そこから水が浸水し、最終的に溺れてしまうからだ。


『くっ! 一体どうすれば・・・』


 シンファの貞操と命の危機の2つを救うために策を練っているサガミは、1つ思い出した事がある。 自分は攻撃に対処するためにナイフの柄を持っていた。 そしてそのナイフを手にしながら拘束されていることを。


『身体が捕まってるせいで、手首の可動範囲では自分の拘束は解けない。 でも投げることは出来る。 なら・・・!』


 サガミはありったけの力でナイフを投げる。 その方向は、スピッツが拘束されている足に向かってだった。 そしてそのナイフは命中し、スピッツは拘束から解かれて、一気にパールオクトの眉間に自分の槍に近いくちばしを刺した。


 パールオクトは絶命し、シンファの拘束も解かれる。 力なく沈んでいくのを見て、サガミはすぐにシンファの元に泳ぎに行き、その身体を掴むと、同時にパールオクトを刺したままのスピッツがサガミ達の方にやってきて、そのまま浮上していく。


「ぷはっ!」


 サガミは自分のヘルメットを外すと、すぐにシンファのヘルメットも外して、顔を何度か軽く叩いてやる。


「・・・う、あれ・・・けほっ、けほっ!」


 するとすぐにシンファも意識を取り戻した。


「ふぅ。 とりあえずは目標は達成したかな。 何て言うか、最後の最後でとんでもない敵だったな。 まあ、ああなっちゃったら、さすがにどうにも出来ないだろうけど。」


 そういってシルクの元で動かなくなったパールオクトを見ながら、サガミはそう呟いた。


「とはいえ攻撃は受けていたから心配だな。 シンファ、どこかに傷はない? 身体は動かせる?」

「あ、だ、大丈夫です。 ただ、船は少し遅めに走行してくれると、ありがたいです。 スピッツ、今日はありがとうね。」


 シンファがスピッツを元の空間に帰した後に、パールオクトが落ちないように船に固定させて、船を港に向けて出発するのだった。



「いやぁ、本当にありがとう。 パールオクトはその触手のぬめりを取り除けば絶品の食材だからねぇ。」


 そして依頼主の男のところにパールオクトを持っていくサガミ達。 その男の部屋は、一言で現すなら「異質」とも言えるだろう。 様々な魔物が保存液の中で漂っているからである。 いくつもの、何体もの魔物がである。


「それじゃあ初期報酬に・・・このパールオクトの大きさだと・・・ちょっと待っててくれ、追加報酬分を持ってこよう。」


 そう言って奥に入ってしまった男を見送った後にシンファの事を見るサガミ。 シンファは魔物使いであるため、魔物を食べることには思うところもあるのだろう。


「シンファ・・・」

「私は気にしていませんよ、先輩。 食物連鎖においては魔物も魔物を食べます。 それが人間に置き換えられただけですから。」


 そう言ったシンファを見ながら男が帰ってくる。


「ではこれが追加報酬で・・・おや?」


 帰ってきたと同時に、培養液に浸けられている魔物を見ていたシルクに男は目を向ける。


「君、もしかして竜の血が流れてるっていう竜人族かい?」

「うん。 ボクはフレムドラコっていう竜人族。」

「へぇ、凄い。 初めて見たよ。」


 そう言って男はシルクの手を取る。 まるで初恋の人を見つけたときの様に。


「・・・なに?」

「是非とも君の血を提供してくれないかい? いや血じゃなくても構わない。 鱗、牙、爪、どのような部位でもいいんだ。 竜の肉というものを生涯に一度食べてみたいというのが自分の夢でね。 それに竜人族の血を飲めば不老になるという逸話もあるんだ。 ちゃんと提供料金は払おう。 だから・・・」


 そう興奮している男の首元に鋭く尖った注射針があった。 後一歩男が踏み出していたら頸動脈に刺さっていたことだろう。


「興奮してるところ悪いんですがねぇ。 うちの娘に非合法的な手を出そうっていうのなら、僕はあんたの血を致死量まで吸い上げなくちゃならなくなるんだけど?」


 サガミの声色は優しいものの、言っていることとやっていることのギャップに男は青ざめる事になる。 そしてすぐにシルクの手を離した。


「言っておくけど、僕はあんたにいくら積まれようと、シルクの血一滴たりとも提供する気はない。 どんな地位だろうと、ランクが上だろうとだ。」


 そう言ってサガミはシルクとシンファ、そして報酬金の入った袋を持って、その場を後にするのだった。


「シルクちゃんを竜人族だと見抜くところまでは共感は持てたんですけど。」


 ギルドハウスへの帰り道、シンファが口を開いた。


「竜人族の血を飲むと不老になれるって話、信じる気?」

「まさか。 あんな逸話に心は動きませんよ。 それにシルクちゃんから血を抜こうなんて言語道断です。」

「魔物使いも、大変。」


 そんなシルクの感想は沈み行く太陽と共に、小さくかきけされたのだった。

シルクの事になると少々容赦がなくなるサガミです。

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