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話だらけの依頼終わり

「・・・つまり僕はあのモードレッドを追い返す為に使われたって事なのですね。」

「打ち合わせも無しにあのような行動を取ってしまって、申し訳ありませんですわ。 お母様もお父様もお止めになら無かったものですから。」

「あいつはそもそも好かなかったからな。 確かに正式に断ってないからなんとでも言えるが、ああしつこいのも面倒だったんでな。」

「そう言うことですわ。 ですからその・・・私を目の敵にするのは、そろそろお止めくださると嬉しいのですが・・・」


 あの後何故クラリスがあのような行動を取ったのかと言う経緯を説明している間、サガミ側にいる女子4人(内一人は竜人族)はクラリスのことを警戒態勢バリバリで見ていた。 話を聞き終わった後でもその警戒が解けることはまず無かった。


「・・・しかし我々が旅行の間はよく屋敷を守ってくれた。 いや、それだけではなく屋敷自体も心なしか綺麗になったようだよ。」

「定年劣化しているものでない場所は修復をしておきました。」

「はっはっはっ! いやぁそこまでして貰えるとは思わなかった! 通常報酬や土産話だけでは申し訳が立たなくなるな!」


 モルスディアは豪快に笑っている。 とはいえ今出されている茶菓子も彼らが旅行先で買ってきた物の一部であり、普通の冒険者では簡単には手が届かない代物を頂いている。


「旅行先ではどのようにお過ごしになされたのですか?」

「主に観光地巡りをしてきましたわ。 見上げる程に高い建物の集合地、夕日が重なりオレンジに輝きを見せる滝、見下ろせば森と村のアンバランスさが目を奪う山頂。 どこもかしこも本当に素晴らしい風景でした。 写真もいっぱい取ってきたのですよ。 今見せられないのが残念です。」


 レリースはうっとりとした表情からしょんぼりとした表情に変わる。 表情豊かな人だなと他人事のように感じているサガミである。 ちなみにこの世界での投影術は魔法とそれを残す媒体で構築されており、両方が無ければ形を残せないのだ。


「楽しんでいただけたのならなによりです。」

「うちの使用人達も久々にリラックス出来たみたいだからな。 本当に有意義な旅行だったよ。」

「そんなに忙しなく働いているのですか?」

「それは逆なのですよ。 何かしなければとあれこれと緊張気味になってしまっていたのですよ。 確かに使用人としての勤めも大事ですが、それでも1人の人間。 気を張ってまでなにかを成し遂げる必要などありませんことよ。」


 つまりはこの屋敷の主であるマワロット家に不自由無く過ごさせるために、あれやこれやと考えてくれていることが、ありがた迷惑という事になっているのだろう。 余計な気苦労で倒れたら元も子もないと言った具合に。


「それでは僕達の依頼はここまでになります。 依頼書の方に依頼達成の為のサインをここに。」

「あぁ、承知した。」


 そしてモルスディアは了承サインを書いていく。 これにてサガミ達の依頼は達成となるのだが、その証書をすぐには渡さなかった。


「ちょっと来てくれるか?」


 モルスディアが立つと、レリースとクラリスも立ち上がる。 訳が分からないままサガミ達も立ち上がると、モルスディアは歩きだし、サガミ達に手招きをしてきた。


 それに従うようにサガミ達が歩いていくと、書庫へと案内された。


「折角だから、どれか1つ持っていっても構わないぞ。」

「・・・え!? いや! それは流石に・・・!」

「ご心配なさらなくても、私達はこの書庫で読む本は限られております。 腐らせてしまうよりは、勤勉な方に渡った方が、本としても価値を見いだせると思いますよ?」

「それはそうかもですけど・・・希少価値の本とかも確か置いてあったような記憶が・・・」

「その辺りは流石に渡すことは出来ないがこの屋敷の面倒と綺麗にしてくれたお礼だ。 後で追加報酬も申し訳程度だが出すし、君達のクランに個人契約を結びたいとも思っている。」


「こ、個人契約?」

「契約と言っても、毎日のように働くとかの意味でありませんの。 お互いに困った時に、互いに力を出す。 そのような契約となりますわ。 なので冒険者稼業はそのまま継続してもらって構いません。」

「それにその契約書には簡単には盗難、紛失、焼却、亡失しないよう、保護魔法もかけるから、契約を切らない限りは、決して無くならないというおまけ付きだ。」


「・・・物凄くお手付きしますね?」

「君のような人材は後々とんでもない事を起こしそうだからね。 先行投資というやつさ。 人柄だけじゃない、その「調成師」という職業も、皆に認められた時の第一人者だと言うのならば、勧誘もひっきりなしになるとは思わないか?」

「そんなところまで考えますかね?」

「先行投資というのは間違いではないけどね。」


 そうモルスディアは笑いかけるが、サガミには正直実感が無かった。 もちろん同じ様に会話を聞いていた4人も同様に。


 上のランクになればなるほど、依頼は貴族まがいで来ることも多くなるし、依頼難易度がかなり上がる分報酬も大きい。 そしてそう言ったランカー、又はクランには貴族などから契約を結ぶことによって、依頼をある程度優先的に行えるようになることもある。


 だがサガミ達のような個人契約は類を見たことがない。 サガミにとっても初めての事例だったりする。


 他のみんなが色々と本を探したり話を聞いたりしている間にサガミは考える。 契約内容としては普通ならば貴族の依頼が優先されるが、この場合はサガミ達冒険者側に優先権がある。 その上で支給などをしてくれるとサガミは頭の中に簡素的に入れる。 そして考えた末に出した答えは・・・


「・・・そこまでお考えになられているのなら、結ぶのも悪くないと思います。」

「ふふん。 中々に見る目がある。 それでは契約書を作ろう。 少し待っていてくれ。」


 そう言ってモルスディアは書庫を後にした。


「レリース様。 つかぬことをお聞きしますが、モルスディア様って、こう、思い立ったら即行動! みたいな人なのですか?」

「あながち間違いではありませんね。 おかげで色んな場所に振り回されることもありましたわ。 今でこそ落ち着いてはいますが、若さは変わっていないようですし。」


 サガミはああ言った直情的な人間はあまり得意ではない。 ないがモルスディアの場合はちょっと違って見えた。


「レリース様も大変だったのではないですか?」

「ええ、最初は本当に。 一度助けて貰っただけで婚約を決めさせられるのはどうかとも思いましたが、その分はモルスが頑張ってくれたからこそ、私もこの人に付いていきたいと思うようになったのです。」

「良いお話ですね。」

「まあ・・・少々激しすぎる部分もありますが・・・」


 そう言うとレリース様は少し内股になった。 それが何を意味するのかは・・・サガミ達には分からなかった。


「待たせたな。 こちらからもサインを頼むぞ。」

「はい。」


 そうしてサガミとマワロット家の間での契約が結ばれたのだった。


「よし、確認が取れたぞ。 これで馬鹿な貴族どもから少しは牽制できるな。」

「牽制? なんのですか?」

「・・・お父様、そのようなことまで考えられていたのですか?」


 モルスディアの言い分ご分からないサガミとなにかを理解できたクラリス。 相反する反応をする2人に、モルスディアが答える。


「先程のモードレッドのように、クラリスを嫁にしたがる貴族は少なからずいる。 だが言わせて貰えば、親の七光りで偉くなった男に娘を渡すなど虫酸が走る。 ましてや政略結婚だとしてもだ。」

「それはそうですね。 私も、好きな人と、結ばれたいです。」

「しかしこうして「既に許嫁は決めている」ということを突き付ければ少しは減るかもと思ってな。 まあ、クラリスの親としては、君を婿として迎え入れても歓迎する・・・」

「あなた。 あまり言い過ぎると後ろから刺されますよ。」


 レリースが話を遮りサガミの方を見るモルスディア。 するとサガミの後ろにいる8つの目がモルスディアを警戒の目で見ていた。


「おっと、これは失礼した。 いや、奪おうとは思ってはいないのだがね。 君が来ることは現実的ではないかな。」


 サガミもなにが現実的なのか分からないが、とりあえずの危機は去ったようで、ホッとした。


「それじゃあな。 また遊びに来いよ!」

「今度はそちらのお話もお聞かせ下さいね!」

「皆さんごきげんよう!」


 そしてサガミ達は帰りの馬車に乗り、自分達の街に帰るところで、マワロット家みんなで送迎されながら走らせたのだった。


「なんだか思わぬ報酬を貰ってしまいましたね。」


 シンファの言うように、追加報酬としてはかなり量が多かった。 とは言えサガミも今回ばかりは色々と疲れていた。 主に精神的に。


「これが普通の冒険者なら、悠々自適に、みたいな事を言うんだろうなぁ。」

「父さん、しばらくは休む。 父さんがいなくても、依頼は無くならない。」

「そうですよ。 それに今回は大きい依頼でしたので、ゆっくりしてください。」


 シルクとマニューから指摘されて、これは本当に休まないとまたなにか言われるなと直感的に思うサガミだった。

話の区切り的にはよかったので投稿しました。

次は新しい話も予て、間幕のような話をちょこちょこ投稿していきます。

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