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帰省前の来客

 話を総合した結果、とりあえずただじっとしているのはサガミにとってはあまり効果がないということだった。 そんなわけでお昼ご飯を食べ終えた後に、シルクと最初に入ったおもちゃ屋に来ていた。 ここに来た理由としては細かいパーツを組み合わせて、1つの作品を完成させる、この世界で言うところのプラモデルを買いに来たのだ。 キット等もついでに購入することになっている。


 とはいえサガミには興味はあるものの手を伸ばさなかった理由がある。 冒険者になるということは、事実上は大人であるし、サガミの貯蓄額の事を考えれば、これぐらい買っても痛くはないし、時間もかなり長く使える。


 では何故手を伸ばさなかったのか。 その理由はサガミがコツコツと作り上げ、そこそこハイペースでプラモデルを作っている時に起こる。


 まずは適当に簡単だと思ったプラモデルを買って作っていて、夕方前に2つ程作り終えた辺りでサガミは手に持っていたピンセットを一度机に置いた。


「・・・細かい作業は好きだけど、やっぱりこう時間を掛けて作るよりなぁ・・・」


 そう言ってサガミは、先日作った翻訳用の鉄塊(小型化するために外の大きい物から1/4程分解した)から「超能生成」によって一部を取り出して、自分で作ったプラモデルを左手に乗せて、右手に鉄塊を持つ。


 そしてその鉄塊を右手の「超能生成」を使って動かしている。 1分程で左手に乗っているプラモデルとほぼ変わらない物を作る。


 細部までは出来なかったが、まさしくプラモデルを鉄で作ったものになる。

 そう、サガミは「超能生成」があるので、このようにわざわざパーツ毎で組み立てなくても出来てしまうのだ。 手を伸ばさなかった理由はおもちゃ位ならば自分1人で出来てしまうという観点から、店潰しになりかねないと思っているからである。


 そんなことで溜め息をつきながらも、買ったものは作らなければ勿体ないので、残りの1体を作るためにキットを開けるのだった。


「なんだか不完全燃焼な感じですね。 先輩。」


 夕食時、サガミの様子が少しおかしいと思ったシンファが声をかけた。


「まあちょっとね。 向いてないことをしちゃったなって感じてね。」

「作る遊びは、父さんに向かなかった。」

「仕事でもないのに作ってることに虚無感を覚えてね。」

「普通は逆だと思うのですが・・・」


 サガミは不満を愚痴りながらも、今後どうするかをあれこれ悩んでいた。 趣味の1つや2つは持っていなければ、もしかしたら将来的に楽しみが無くなってしまうかも知れないと、サガミはほんの少しだけ危惧していた。 ワーカホリック故の弊害とも言えるが。


「でも、明日で皆さん、帰ってこられるん、ですよね。」


 マニューが話題替えの為にそう切り出す。 長かった1週間の屋敷での生活も明日の夕方前に当主家族とそのお付き一行が旅行から帰ってくる。 依頼としてこなすのはそこまでだ。


「どんなお話が聞けるでしょうかね。 師匠。」

「楽しみ。」


 みんな残る気満々だ。 確かに依頼としてはそこまでなのだが、話を聞いたりする分には特に制限はない。 ちゃんと依頼達成報告をすればそれでよいのだから。


「ここの魔物達と会えなくなってしまうのは、寂しく感じますが・・・」


 そんな中でも、シンファだけは魔物達との別れを惜しんでいる。 彼女としては当然の事だろう。 そこでサガミはこういった提案をしてみることにした。


「シンファ。 今生の別れって訳じゃないなら、レリース様に魔物達と会うことを許可して貰えばいいんじゃないかな? 勝手に来るのは駄目かもしれないけれど、許可があれば、ある程度は許容してくれるかもよ?」


 そう提案するとシンファは「その手があったか」と言わんばかりに驚いていた。 恐らくは別れを惜しみすぎてそこまでの考えにいたらなかったのだろう。 魔物の事となると周りが見えなくなる、実にシンファらしい反応だ。

 そして夕食後はみな思い思いに時間が過ぎるのを待ち、就寝時間になった時、サガミもこれで最後だと思うと、寂しさを覚えてしまっていた。 それは屋敷から離れることなのか、依頼主との関係なのかまでは分からないが、どうにも珍しく落ち着かない様子になっていた。


「僕にとって、この依頼の後の事は、どう転ぶのか。 それは帰ってきてから・・・じゃ・・・ないと・・・」



「・・・んん。」


 サガミはいつの間にか寝てしまっていたようで、目を覚ました時には既に日の出が見え始めていた。 そこに鼻腔をくすぐるように流れてくるのは小麦の香り。 誰かがパンを焼いているようだ。


 階段を下りてみると、そこには朝ごはんを作っていたマニューの姿だった。


「・・・あ、おはようございますサルガミット君。」

「おはよう。 あの人に渡す為のご飯かい?」

「ええ。 今日は早く起きたみたいなので。」

「そっか。 他のみんなはまだ寝てるのかな?」

「今日が最終日ですので、ゆっくりさせてあげてください。 サルガミット君ももう一度寝てきても大丈夫ですよ?」

「僕は起きたらあんまり寝ないんだ。 仮眠は取るけど。」

「サルガミット君らしいですね。」


 そんな夜明け前の朝の会話を終えて、みんなが起きた後に朝食を食べて、帰る準備をして、領主達が帰ってくるまで色々とやっていた時の事だった。



「パーッパラッパー、パッパッパー」


 そんなけたたましいトランペットのファンファーレの音が聞こえてきた。


「な、なんだ?」


 正門が見える位置の窓から外を見ると、ファンファーレを鳴らしていたのは数名で、その中央には明らかに肥えているであろう身体を持った人物がそこに立っていた。 仁王立ちでである。


「出てきておくれクラリス嬢。 君の愛しき愛人であるモードレッド・パイロがお出迎えにあがったぞ。 1週間ぶりの再開を味わおうではないか。」


 ふてぶてしさをそのまま言葉に出したかのような声に、サガミ達も疑問を持った。


「ちょっとちょっと。 まだ帰ってきてないのに、なんで来客があるのさ?」

「確かに1週間とは言っていましたが、いつ帰ってくるかまでは分からないですから。」

「愛しき愛人って・・・なんかクラリス様が好みになるような品格をしていないのですが。 魔物達も吠えること無くガン無視ですよ。」

「面倒な来客が来てしまいましたね。」

「多分クラリスも会いたくないかも。 お帰り願うのが一番。」

「僕らで決めていいことじゃない・・・って言いたいところだけど、モルスディア様達もあのままじゃ帰れないだろうし。 一旦退いて貰おう。」


 帰り支度のために集まっていたサガミ達の気持ちは1つになり、玄関を出て対話をすることにした。


「む? 君は誰かな? ここはクラリス嬢、マワロット家の屋敷であるが?」

「ええ、存じております。 紹介が遅れました、自分はサルガミット・コーナンと言います。 稼業は冒険者となっております。」

「冒険者が何故マワロット家の屋敷にいるのだ? お前のような身分の入れるような場所ではないぞ。 まさかお前・・・マワロット家の金品を狙った盗賊か!?」

「自分達はマワロット家御一行様が旅行をしている間の屋敷番として依頼を受けたものです。 本日で皆様も帰ってはこられると思われますが、今しばらくお待ちになるか、日を改めてお越しになって下さい。」


 モードレッドの質問に対して淡々と返していくサガミではあるが、本音を言えば、屋敷の門の前であるため、まずは早急に退いて貰いたいと思っている。 話など帰ってきてからいくらでも出来ることだろうし、サガミはモードレッドに対して下手に出過ぎる必要は無いと感じていた。 本物の領主であるモルスディアを知っているので、サガミの「敵観察」の眼を持って、どの程度の身分か大体分かるようになっていた。


「ふん。 こちらは1週間もクラリス嬢と会えていないのだぞ。 少し位は気を遣ったらどうだ?」

「そう申し上げましてもまだ帰省なされていないのですから、お時間は必要かと。」

「ならば帰りを急がせれば良いではないか。 私が待っていると書けばすぐにでも帰ってくることだろう。」


 この時点でサガミは、クラリス嬢に会わせるわけにはいかないと思っていた。 自分の思い通りに動くと勝手に思っている輩に、将来など任せられないのではないか。 それはモルスディア様達も感じているのではないかと予測したからだ。 それにモードレッドはサガミ()()見ていない。 後ろにマニュー達4人もいるのにだ。 つまり周りが見えていないと悟ったのだ。


 物理的にご退場願うこともサガミには朝飯前だが、向こうは仮にも貴族の端くれ。 亀裂が入りかねないと、話を聞くばかりであった。



 そんな時に1つの馬車が到着する。 そしてそのドアが開かれると、そこにはクラリス嬢が乗っており、その美しいフォルムのままを保つかのように、階段に足をかけて馬車から降りてきた。


「おお、我が愛しきクラリス嬢! 私めがいることをかけつけて帰ってこられたのですね! あぁ! いつ見てもお美しゅうございます。」

「え? モードレッド・・・様?」

「あぁ、旅行となれば私もご参加したかったのです。 さぁ、次はどちらに行かれるのですか!? 今度は是非とも私もご参加を・・・」

「お話のところ失礼します、モードレッド様。 先程帰省なされたマワロット家御一行様はお荷物などがございます。 申し訳ないのですが、道をお開けになり、馬車を中に入れさせてあげてはいかがでしょうか?」


 あまりのやり取りに痺れを切らせたサガミが門を開けてそう言った。 しかひモードレッドは退くどころか逆に機嫌を損ねたように顔を歪ませた。


「なんなのだねお前は。 私とクラリス嬢の再開を邪魔をすると言うのか? 依頼で呼ばれただけの冒険者が。 余計な口出しはしないで貰おう。」

「余計な口出しというのならば、それはあなたの方ですわよ、モードレッド様。」


 クラリスはモードレッドを避けてサガミの方に寄ると、そのサガミの腕を掴み、身体を寄せたのだ。 そしてここにいる誰をも震撼させる爆弾発言を投下した。


「私、この方と()()を申し込もうと思ったのです。 中々に誠実な方ですし、冒険者にしておくのが勿体無い位です。」


『・・・はぁ!?』


 あまりに唐突なことでサガミもモードレッドも、他の4人も声を出さずにはいられなかった。 そんなことを知ってか知らずか、サガミの腕を引っ張り、庭に入っていくクラリス。


「さぁ、一度お屋敷に戻りましょう。」


 そうクラリスは言って門を閉める。 モードレッドはなにかを訴えようとした時に、庭の魔物達が威嚇し始めたのでモードレッドは退散していった。 だがそれはこの屋敷の主達以外全員同じで、誰も彼もが理解が追い付いていないまま、屋敷に戻されたのだった。

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