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治療師の優しさ

 砂漠を歩いて数時間。 砂漠の砂が足元を掬われるし、上と下からの熱で体力を奪っていく。 そんな地帯に二人は当然やられていた。


「・・・ふぅ。 極限薬草を手に入れるよりも先に、サンドアルミラージを倒した方が断然にいいね。 その方が採取が楽だし。」


 汗を拭いつつも依頼の打診をするサガミ。 優先順位は必要だ。 その判断を誤れば、命など尊く奪われてしまうのだから。


 そこでサガミは、足元を厚底の靴にしたお陰で沈むことはない。 上からの日光も前の村で買った布をさらに作成し直して、通気性の良いコートにした。 これによって少しの風でも涼しく感じることが出きるようになった。


「マニュー、大丈夫かい?」


 サガミは後方にいるマニューに声をかける。 冒険者とは言え女子であるマニューに、足並みを揃えているのだ。 普段の彼ならそんなことはしないのだが、今回のサガミの任務はマニューの護衛。 彼女に何らかの支障を来すわけにはいかないのだ。


「はい。 サルガミット君がくれたこのコートのお陰で、暑い砂漠でも項垂れる事なく歩けています。」

「そっか。 もし少しでも調子が悪くなったら言ってよ。 対応はするから。」

「そんな! 申し訳ないです! ここまでしてもらっておいて、これ以上は・・・」

「僕の護衛任務にはマニューの体調管理も入ってるの。 遠慮されて死んじゃったら、それこそなんのための護衛なんだって言われるから。」


 サガミはこれまでも依頼はきっちりとこなしてきた実績がある。 それに治療師というのはなりたくてもなれない職業の分類に入るので、余計に立ち回りを考えざるを得ないサガミなのだ。


「それに僕だってマニューに頼ることだってあるよ。 サンドアルミラージを倒すのに苦戦するかもしれないし、死んでしまったら元も子もないからね。」

「死なせはしませんよ。 サルガミット君が守ってくれるなら、私も守りたい。」


 その言葉にサガミは少し頭を掻いた。 サガミとしてはそういった「あなたがやるなら私もやる」みたいなものは苦手なのだ。 サガミがパーティーを組まない理由の1つである。


「この辺りだっけ? 極限薬草が採れるのって。」

「そのはずですが・・・見当たりませんね。 砂漠ならすぐに見つかると思ったのですが。」


 極限薬草は劣悪環境でも育つ植物な上、そこそこ特徴的な見た目をしている。 まるで「見つけてください」と言わんばかりの見た目なのだが、今はそれが一切見えない。


「先に誰かが採ってしまったのでしょうか?」

「どうだろう? 確かに極限薬草は希少だけど、医療機関に提出しないのは実質違法だからね。 それにまだサンドアルミラージも見かけてない。 極限薬草を狙ってる可能性もある。 位置を移動してみようか。」

「そうですね。」


 そうしてまた2人は砂漠地帯を歩くのだった。



 そんなことをしている間にすっかりと日が暮れてしまったので、捜索は明日に引き継がれた。 依頼と言っても期間があるものの方が少ないし、そこに時間なんてかけていたら、質が落ちるかもしれない。


 砂漠地帯は灯りがほとんどないので、むやみやたらに歩いて、二重遭難をしてしまったら目も当てられない。 今回は2人での依頼なので、サガミはソロの時以上に慎重に依頼と向き合っている。


「いいんですか? 私だけテントを借りてしまって。」

「サンドアルミラージは夜に出てこないのは僕の「敵観察」で分かってるけど、砂漠には色んな魔物がいるから、脅威になるかもしれない。 未知の魔物っていうのはこの辺りだと基本聞かないけど、万が一ってこともあるしね。」

「なら私も・・・」


 そう言ってテントから出ようとしているマニューをサガミは制止させる。


「今回は君の依頼だし、僕は護衛の依頼だから僕のことは気にしなくていいから。 それに君は僕達みたいに冒険者寄りの体つきじゃないから、体力は温存しておかないとね。 見張りは任せて。」

「よ、よろしくお願いいたします。 ではおやすみなさい。」

「うん。 おやすみ。」


 そう言ってテント内のランプが消えたのを確認すると、サガミは自分で調合した身体を温める飲み物を口にする。


「夜は長いし、この辺りである程度歩く先は目星して置かないとね。」


 そう言って取り出したのはサガミお手製の「暗視双眼鏡」である。 サガミの「超能作成」で作れるようになってから、今はサガミ専用になっているが、後々は量産も視野に入れているサガミ。 サガミこういったもので特許を取って利益を成している部分が多かったりする。


「うーん、暗視状態だと「目標索視」が使いにくいんだよな。 量産する分にはいいけど、僕専用に特注にしちゃうかな。」


 独り言を喋りながら見渡していると、ふと視界に砂漠の地平線とは違った突起が見えた。 その時サガミは確信した。 あれが極限薬草なのだと。 サガミ自身も何度か遭遇しているので特徴などは知っている。 だからこそなかなか見つからなかった時は肝を潰しかけた。


「あの距離だとそんなに遠くはないけど、まあ明日に・・・」


 そう思った瞬間に、極限薬草の近くに、別の突起が見えたのを確認したサガミ。 暗視双眼鏡のせいでしっかりとは見えないのでなにかまではサガミでも分からない。 双眼鏡と自分の目を使いまわしてようやくサガミは確認が取れた。 そしてサガミはある決断をした後に、自分も眠りについた。



「本当に大丈夫だったのですか?」


 翌日、マニューから心配を受けているサガミ。 サガミ自身はそんなに心身疲労は陥っていないのだが、やはり声をかけられたので、そこは素直に返す。


「心配ないよ。 それよりも昨日極限薬草の場所が分かったよ。 あっちの方に2時間くらい歩いた場所に育ってた。 街からも離れてるから質はかなり高そう。」

「本当ですか。 それなら早速行きましょう。」

「でも・・・あっ。」


 サガミがもう1つの情報をいいかける前に先に進んでしまうマニュー。 治療師なんだからそんなに前線に出るようなことをしなくてもいいのにと思っても、言ったところでどうしようもないかと諦め、その後ろを追いかけるサガミだった。


「これだけあれば医療機関の人達も喜んでくれますよね。」


 目の前に広がる極限薬草に胸を踊らせているマニュー。 そんな中にも関わらず辺りを警戒しているサガミにマニューは声をかける。


「サルガミット君? 早く採取してしまいましょう?」

「マニュー。 君の依頼内容は「サンドアルミラージの討伐」だ。 そして未だにサンドアルミラージの姿を僕達は見ていない。 それで、その理由って言うのは・・・」


 そう説明しようとするサガミとマニューの地面が揺れる。 そして地面からなにかが飛び出してくる。 こちらに向かって走ってくるそれをサガミは、前の街で大量購入したナイフを何本か投げて軌道をそらす。


 そして地面から出てきたのは一本角を生やした兎だった。 砂と同じ色の毛並みで、本来の兎の目の色の赤ではなく、砂地に対応するためか灰色になっている。


「魔物もその極限薬草の効能は知ってるみたいだね。 僕がこいつを出来るだけ遠くにおびき寄せるから、その間に欲しい分だけ採取してて!」

「でも、それじゃあサルガミット君は・・・」

「僕だって伊達にサンドアルミラージの情報を手に入れるために何度も戦ってきてからさ。 1人でもなんとかなるよ。 さあ、お前の相手は僕だ!」


 そう言ってサガミはサンドアルミラージと対峙し、自分の業物で無理矢理極限薬草とは関係ない方向に向かわせる。


「お前の弱い部分はお腹なのは知ってるけれど、そんな簡単には見せてくれないよね。 だから僕は・・・」


 そう言いながらサガミは砂をひとつ浚う。 そしてその中から超能作成で使える分だけの砂鉄を集める。 そしてそれを宙に撒いて、2つのナイフを取り出す。


「こうやって、お前の目を潰すのさ!」


 ナイフ同士を「カチン」とおもいっきり鳴らす。 するとその衝撃で火花が散り、それが砂鉄と連鎖反応を起こし、粉塵爆発を起こす。 それをもろに喰らったサンドアルミラージは、顔を火傷させないようにと砂の中に顔を突っ込む。


 そうやってお腹が丸出しになったところを見逃さないサガミはそのまま近付いていって、ナイフで切り裂こうとした瞬間、サンドアルミラージが顔を再度砂漠から上げたのだった。


「っ! しまった! 粉塵の量が足りなかったか!」


 完全に怒っているであろうサンドアルミラージは、当然サガミの方に突進をしてくる。


「ええっと、サンドアルミラージって、あとどこが弱点だっけ!?」

「サルガミット君! 極限薬草の収集が終わりましたよ!」


 その声にサンドアルミラージを避けながら見ると、大袋を抱えたマニューが近付いてきていた。 その声に反応したのか、サンドアルミラージは砂の中を泳ぎながらマニューの方に向かっていってしまう。


「マニュー! そっちにサンドアルミラージが行ったよ! ・・・! そうだ! あいつは耳も良いんだった! だったら・・・」


 マニューの方に向かいながらなにかを作るサガミ。 一方のマニューは気が付いて後ろに下がって間一髪でサンドアルミラージの下からの攻撃をギリギリで避けた。


「マニュー! 耳を塞いで!」


 マニューに忠告をした後に、サガミは手にあるものを投げた。 それは宙に投げられた後に、その球体が割れて、「キィン!」という音が響き渡った。 それを受けたサンドアルミラージは耳をおもいっきり震わせた後に、そのまま倒れてしまう。


 サガミが作っていたのは「反響弾」。 音を炸裂弾と共に放つ武器である。 サガミは倒れたサンドアルミラージに止めを差すためにナイフを腹部に刺した。


「ふぅ。 なんとか急造で作れてよかった。」

「サルガミット君。 すぐに疲労回復魔法を。」

「ありがとうマニュー。 そっちは大丈・・・夫・・・」


 サガミはマニューの服装を見て、目を見開いた。 無理もない。 マニューはサンドアルミラージの攻撃は避けたのだが、身体は避けれても、服まではギリギリだったようで、縦に裂かれた服から乙女の柔肌が見えてしまっていた。 サガミはそのまま固まってしまったので動かないので、マニューは不思議そうに下を見ると、自分の置かれている格好に、顔を赤く染めるのだった。


「わっ! わっ!?」

「ご、ごめん! 見るつもりは無かったんだけど!」


 そんなやり取りをしつつも、2人は目的を果たしたので、すぐに街に戻ることにした。 その帰りの馬車は少し気まずい雰囲気になってはいたが。

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