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翻訳機能

 散々もみくちゃにされて、シンファ並にボロボロになってから解放されたサガミは、早速といわんばかりに鉄板に手を掛けて、形を整えていく。


「師匠、動物の翻訳機能なら分かりますけど、魔物に対して翻訳って意味があるんですか?」

「それはやってみないと分からないかな。 でも優遇が聞くのは確かなんじゃないかなって思ってるよ。」

「うーん。 敵意のない魔物に対してなら有効? いや、その前に野生の魔物にそんなものは通用しないような・・・」

「私には先輩が使えると思っている場所が分かるよ。」


 ネルハが自分なりの考えを出していると、シンファが胸を張りながらシンファに声をかける。


「今回みたいに魔物使いが1人でもいる家族の場合、魔物達と喋れたり、魔物の言葉を理解できるのは魔物使いだけなの。 でも毎回通訳するのも疲れるのよ。 だからその翻訳機を使って、魔物使いの人以外でも魔物達と喋れるように出来るってこと。 ですよね? 先輩。」

「うん。 その通りだよ。 折角飼育されているのに、魔物使いだけしかお喋りできないのは、魔物達も寂しいと思うしね。」


 サガミの返しに、シンファは小さくガッツポーズを取る。


「でもネルハの言っていることも間違いじゃないよ。」


 そう言って今度はネルハの方を見るサガミ。


「確かに野生の魔物は自分が生きるために好戦的になるのは当然なんだけど、中には理由があって、闘争をする魔物だっているんだよ。 僕は理由もなく魔物を狩るほど、血も涙もない冒険者じゃないからね。 だからこれを機に翻訳機を作ろうと思ったんだよ。 作ることが出来れば、後は小型化が出来るかどうかだし。」

「冒険者の間では、少々厳しいかと思います。 変な感情移入が入って、魔物を狩れなくなるかも知れません。」

「あー。 それはあるかも。 じゃあまた需要が生まれたらにしようかな。 小型化は。」


 金のなる木はいつ如何なる時に現れるか分からない。 だが、少なくともサガミは見つけるのではなく、作ることが大事なのではないかと考えている。 金のなる木だってあるだけでは取れない。 自らが動かなければお金は取れないのだから。


「とりあえず大きさはまずこれくらいかな。」


 そう言って出来上がった鉄の塊は、一辺2mは越える立方体だった。 1つの部屋としても運用できるくらいの大きさになっている。


「師匠、流石に大きすぎませんか?」

「最初から小型だと大型の魔物との会話に使えないかもしれないからね。 中にはテレパシーや音波、反響(エコー)を使って会話する魔物もいるから、まずは耐久性に優れたものが欲しいのさ。 それによって素材も変えなきゃいけないし。」


 色々と考えた上での鉄の塊であった。 そしてサガミは1匹、近くにいたグラスドッグを鉄の塊の目の前に立たせた。


「それじゃあ、ちょっと喋ってみてくれるかな? 喋ることはなんでもいいからさ。」


 言葉が通じているのかまでは分からないが、大体のニュアンスでなんとかなるだろうの精神でサガミはグラスドッグに声をかけた。 そしてグラスドッグは簡単に鉄の塊に向かって吠えた。 そして終わったと同時にサガミは鉄の塊に手を当てる。 そして数秒間待った後に、その鉄の塊から小さな鉄球を取り出した。


「それは?」

「さっきのグラスドッグが喋った音を、反響させている鉄球だよ。」

「それじゃあ、さっき喋った事がその中にあるって事ですね。」

「だけどこれじゃあ取り出すことは出来ないんだよね。 今は音波を閉じ込めてるだけだから、出すためには出口がいるんだ。」

「拡声器のような仕様にするんですよね?」

「最初はね。 最終的な小型化の為にも少しずつ改良しないと。」


 そう言いながらサガミは鉄球を2つに分ける。 そしてその一つをシンファの前に出す。


「先輩?」

「さっきも言ったように、この中にはグラスドッグがなにかを喋った音波が入ってる。 音量は今は調整できないから、大きかったら耳を塞いで。 まずは聞いて、その後に翻訳をして欲しいんだ。」

「わ、分かりました。」

「それじゃあ行くよ・・・」


 サガミは鉄球の形を少しずつ変形させて、シンファに向かって音波が出るようなラッパの形にする。 そして音波をそのラッパの部分に移動させるように念を込めて、一気に放った。


「ワン! ワンワンワン!」


 聞いているだけでは普通の犬のような鳴き声が聞こえてくる。 シンファはそれを聞き取って自分の翻訳と当てはめていった。


「先輩。 大丈夫です。」

「うん。 それじゃあシンファの言葉をこの穴の空いた鉄球に入れて。」


 そうしてシンファは風船に空気を入れるかの如く欠けた鉄球に声を入れていく。 そして終わった後にサガミに渡して、グラスドッグの鳴き声の入った鉄球とシンファの声の入った鉄球を、それぞれ粘土のように一部を引き伸ばしてくっつける。


「後はこれが翻訳されるかだけど・・・機械が入っていないから、多分普通には無理だと思ってるんだよね。」

「師匠、ならなぜ作ったのですか。」


 サガミの言葉にネルハが期待していた肩を落とす。 だが必ずしも成功するとは限らないことは知っているし、改良案はいくらでも出てくる。 サガミにとってこれは、ただの第一歩にしか過ぎないのだ。


「それじゃあ音波を流してみよう。 多分煩くなると思うから、僕から離れてて。」


 そう言われてシンファやネルハ、魔物達は距離を置いた。 そしてサガミがグラスドッグの鳴き声の鉄球に触り、少し集中する。


『¥%&#〒%¥#〒#¥%@』


 とてもこの世のものとは思えない音が反対側から出てきた。 耳を塞ぐほどではない音量だったが、不快感は凄まじいものとなった。 遠くに避難していたシンファ達や魔物達にそれほど影響は出ていないようで、むしろそれをほぼ至近距離で聞いていたサガミの方が心配になってしまった。


「先輩! 大丈夫ですか!?」


 サガミからの返事はない。 まさか今ので気絶してしまったのではないかと思い、シンファとネルハはサガミに近づいていった。


「・・・やっぱり翻訳するための機械を入れて、フィルターの代わりにしないと音が混じっちゃうか。 それよりもまずは音の調整をしないと鼓膜が破れちゃうや。 それに電子機器を入れないで作るのは無理かな。 値は高くなるかもだけど、仕方ないよね。」


 そのサガミの何てことの無いような台詞に2人は驚きを隠せなかった。


「せ、先輩・・・大丈夫なのですか?」

「うん? あぁ、大丈夫・・・とは言いがたいけど、少なくとも耳は死んでないよ。 これよりももっと間近で魔物の咆哮を食らった時に比べたらはるかにね。」

「そ、それはそれで命の危機に瀕してますよ師匠。」


 サガミが地味に規格外なのを知ることとなった2人だったが、そんなのをお構い無しに続ける。


「まあいいや。 今回はやってみたかっただけだし、これは失敗じゃないからね。 ここにいるうちに色々と試行錯誤を・・・うん? ととっ?」

「先輩!」「師匠!」


 立ち上がろうとした瞬間に、サガミは何故だか足元がおぼつかなくなりそのまま背中から倒れそうになったのを、シンファとネルハが支えた。 どちらか1人だったらまとめて後ろに倒れていたことだろう。


「あぁ、ありがとう2人とも。」

「急に動いたら危ないですよ師匠。」

「そうですよ。 それにいくら外側にダメージが無いとは言え、あれだけの騒音を聞いたんですから、身体が上手く動かなくて当たり前です。」


 シンファに注意された後に、サガミは改めて普通に立つことにした。


「うーん、自分の身体を過信しすぎるのは良くないか。」

「先輩の場合は身体の事を省みない事があるので、見ているこっちがヒヤヒヤしますよ。」

「師匠、ただでさえ休むことをしてないのですよね? 仕事の事は、ここにいる間でも忘れた方が良いのではないですか?」


 自分よりも年下な女子2人に左右から言われてしまってはさすがのサガミもお手上げになる。


「分かったよ。 でもこれは仕事の事じゃないし、根気よくはやらないけど、定期的には触らせて貰うからね。」

「それぐらいが冒険者としては普通だと思います。」

「そうかもねぇ。 んっんー。 今日は色んな事があったからもう日が沈みかかってる。 今日はこの辺りにしておこうかな。」

「夕飯は私達が作りますので、先輩はゆっくりしていてください。」

「シンファ先輩。 私マニュー先輩を呼んできます。 先に準備を始めておいてください。」


 そうして2人が早足に屋敷に戻った後にサガミも屋敷に戻る事にしたのだが、その前に上からシルクが降りてくる。


「お疲れ様。 どうだい? あれから空からはなにもなかった?」


 そう声をかけるが、シルクからの返事がない。 それどころか今朝と同じように機嫌が悪くなっていることにサガミは気が付いた。


「どうしたのシルク? あんまり機嫌が優れないようだけど?」

「ボクは父さんに使役されてる。 だからとやかく言うつもりは無い。」

「え?」

「だけどもう少し女心は分かった方がいい。 父さんは鋭さと鈍さが両極端。 それでも鼻の下を伸ばされるのは嫌。」

「僕は鼻の下なんて伸ばしてないよ?」


 そうサガミが返すと、シルクは溜め息をついた。 やっぱり分かってないと言わんばかりに。 そんな様子をサガミは分からないままシルクと一緒に屋敷に入るのだった。

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