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空からの空襲者

「むぅ・・・」


 サガミ達が買い物から帰ってきたら、シルクが不機嫌だった。 どうしたのかとネルハやマニューに聞いたところ、なにかに気が付いたような感じから急にこのようになっていたとのこと。


 そんなわけで魔物の食材をシンファに、家の修理用の材料をネルハに任せて、サガミはシルクと向き合うことにした。 ちなみにマニューは介護者のお世話に行っている。


「ねぇシルク。 一体なにがあったのか教えてくれないかな? なにか悪いことでもあったの?」

「・・・知らない。」

「知らないって・・・」

「父さんがそんなこと、しようとしてたなんて、知らない。」


 そこでサガミは理解した。 シンファとの会話を聞いていたのだ。 正確には情報がリンクして、シルクに伝わったのだろう。 だからこそそんなサガミの過去を知って、怒っているのだろうとサガミは思った。


「実際にはしてないし、そんなことをシルクが気にする必要はないよ。」

「だけど教えてくれなかった。」

「教えたってしょうがないじゃないか。 僕にとっても嫌な過去なんだ。 忘れたい位に。」


 人間忘れたい過去の1つや2つあるものだ。 それは忘れられない過去を抱え込む以上に辛いのだ。 シルクはそのような経験はまだ無い。 無いからこそ教えたくなかったのかもしれない。


「なんでも教えてくれる父さんが、今回は教えてくれなかった。」

「教えたくない事もあるってことだよ。」


 そこからは気まずい空気が2人に流れる。どっちかが悪いわけではない。 ただ関係性が複雑だっただけなのだ。


 そんな空気を破ったのは、シンファの緊張の籠った言葉からだった。


「大変です先輩! 空の見回りをしていたカーコイル達から、武装した人間がこちらに向かって飛んでくると言っています!」


 その言葉にサガミとシルクは空気をガラリと変えた。 カーコイルというのは烏の魔物の事で、屋敷のはるか上空を警戒していたところ、そのような報告が入ったようだ。


 まずサガミが行動をしたのはマニューの所だ。 あそこにはほぼ寝たきりの老婆がいる。 外に出すわけにはいかなった。 ドアを叩いて緊急性を告げる。


「マニュー、これから敵の空襲の迎撃をするから、この部屋守ってくれないかい?」

『わ、分かりました。 サルガミット君達も、お気を付けて。』


 中からマニューの声が聞こえたので、とりあえずは安心したサガミ。 マニューは治療師として、回復魔法は覚えているのは勿論、防御魔法も覚えていたりもする。 少なくともこの部屋一体だけでも守ってくれれば十分だ。

 そしてサガミは外へと出て、レンズとかなり適当な金属を使って、双眼鏡を生成し、上空を見上げる。


「シンファ! 数はどのくらいかまでは聞いてないかい?」

「カーコイル達の情報だと20~30人程の部隊だとのこと。 恐らくは空賊だと思います。」

「空賊かぁ・・・」


 サガミもその存在自体は知っている。 職業の中には「盗人(シーフ)」と呼ばれる職業もある。 だがそれはあくまでも職業の名前であり、貰えるスキルはほとんどが正統派のものだ。 それを上手く生かした冒険者も数多くいる。


 だが名前がやはり祟るようで、自分は泥棒稼業なのだと勝手に勘違いする者も少なくない。 依頼主からはそんなことは微塵も思われていないのだが、どこか後ろめたい様な雰囲気を醸し出してしまうのだろう。 信用を失いかねない行動をし始める者もいる。


 その成れの果てが、陸空海に蔓延っている賊という訳だ。 彼等なりの事情もあるとは言え、流石に人の物を盗んだりすれば捕まってしまう。 だがそんな賊達は団体では行動しても数があまりいないのも相まって中々捕まらないのだ。


 双眼鏡で見れば、確かにカーコイル達ではない、別の羽を生やした・・・ではなく、機械で出来た羽を器用に使ってこちらに向かって飛んできていた。


「カーコイル達を迎撃に使わせますが、大丈夫ですか?」

「それを聞くのは僕じゃないよ。 でもカーコイル達はこの家に飼われているんだ。 その家が失くなるのは彼等にとっても寂しいものでしょ? 今魔物を従えるのは君しかいないんだ。 命令を下すのは君自身だよ。 シンファ。」


 そうサガミが諭すとシンファは1拍置いた後に、カーコイル達に何かを喋った。 するとカーコイル達は空の空襲者達に向かって何かを放っていた。 それに合わせて向こうも対抗をし始めた。


「僕らも迎撃行動に入ろう。 カーコイル達だけじゃ、追い返すことは出来ても倒すことまでには至らない。 空賊なら目的は屋敷荒らしだろう。 ならその前に制圧しちゃおう。 シルク、ネルハ。 手伝ってくれるね?」

「当然です。 自分なりにはなりますが、頑張ります!」

「帰る家、失くなるのは、嫌。 それをするのなら、ボクが止める。」


 2人ともやる気を出しているようだ。 シンファに至っては自分の従えている魔物を数体出して、追い返そうとしている。 だがその包囲網の穴を掻い潜るように、屋敷に接近してくる者達も当然いる。 


「よっと。 中々に良い屋敷じゃないの。 こりゃ土産は期待できるだろうなぁ。」

「そんなことをさせると思っているのかい?」


 屋根に降りた空賊の何人かはサガミ達地上部隊が相手になる。


「あ? なんでガキがこんなところにいるんだ? この家の奴か? まあどうでも良いか。 痛い目に遭いたくなかったら大人しく退いてな。」

「セリフが聞いたことある。 家が狙われてるのに、黙って退くなんて選択肢、あるわけ無い。」

「はん。 ガキだから手加減すると思うなよ? 邪魔するってんなら・・・」

「待ってくれリーダー。」


 ナイフを突きつけていた男を、後ろにいた男が止める。


「あんだ?」

「あのさっき口出ししたガキなんすがね。 俺の見立てが間違って無きゃあ、ありゃドラゴンですぜ。 人型になってる理由は分からないすが、珍しさは軍を抜いてますぜ。」

「ほっほう。 それじゃああいつがいりゃ、俺達は金に困らないわけだ。」


 男達の狙いがシルクだと分かった瞬間に、サガミとネルハはシルクの前に立ちはだかる。 両方とも屋根の上とはいえ、武装をしていた。


「あ?」

「シルクを渡すつもりは毛頭無い。 この屋敷の中に入れることもね。」

「お前、そのガキのなんだ?」

「僕と彼女の子供だ・・・っていう冗談はさておいて。 シルクは僕が面倒を見ている。 「使役」のスキルでね。」

「は! 面倒見てるなら、子離れさせるのは親の役目だろ。 分かったらとっとと渡しな。 そのガキの事は俺らに任せ・・・」


 リーダーの男が最後まで語る前に、足元に何本もの針が屋根に刺さった。 見ればサガミが指の間に何本もの針を握っていた。


「聞こえなかったのかな? シルクは渡さないって。 今度は容赦なく当てるよ?」


 その声色はサガミの中でも一二を争う低さだった。 その態度に男達はたじろき始めるが


「てめぇ、投擲手か。 だがそれならやりようはある。 怯むな野郎共! 相手は3人だ! ドラゴンだろうがなんだろうが、こっちの方が上だってこと教えてやるぞ!」


 その号令に男達はもう一度攻める姿勢を見せた。 そしてサガミ達との戦いが始まった。



「君達の敗因は、完全に相手を見くびったことだろうね。」


 結果としてはサガミ達の圧勝で、空賊はリーダーも含めて降りてきたメンバーはのびたり縄にかけられたりして、完全に制圧されていた。


 しかし彼等の名誉のためにも言っておくが、空賊のメンバーだって強かった。 だが、元はフレムドラコであるシルクの身体能力の高さに翻弄され(サガミに「殺すな」と言われていた。)、シンファが号令した魔物達に彼等の数以上に圧しきられ、サガミとネルハのまるで息をするかのように作成スキルを使った自然なコンビネーションアタックに手も足も出ない状態になり、今の状態になる。


「ゲホッ・・・てめぇ、投擲手じゃなかったのかよ・・・」

「だからそれが見くびってるって言ってるの。 たった1回の攻撃で相手を断定するから、予測してない行動に対応が出来なかったんじゃないの?」


 縛られたままのリーダーはボロボロになりながらも悪態をつける程タフだったが、今のままではなにも出来ないだろう。


「先輩、とりあえず衛兵を呼んでおきました。」

「ごめんね、疲れてるだろう魔物達を使うようで。」

「いえ、レリースさんの飼っている魔物達も、屋敷を守ってくれたことを感謝しているので、これぐらいならお手伝いしてくれるそうです。」


 そのやり取りをリーダーは当然見ていた。 そしてこうも思っている。 奴らは油断している、と。 戦いに置いて油断している時が一番隙を作っているのだと知っている。


 リーダーは自分のスキル「拘束解除」を使い、縄脱けを悟られぬ様に行い、そして少し離れたところで立っているシルクに目を付けている。


「くくくっ・・・足は無理でも手が使えれば立つことは出来る。 手順を間違えなければ・・・」


 その声は聞こえない程度の音量で、今手に付いていた縄がほどけた。 そして膝立をして、そしてリーダーはシルクに勢い良く飛び込んで手を伸ばす・・・所で、身体が固定される。 正確には首もとになにかかけられた状態で。


「首についている感触でなにをかけられているか分かるとは思うけど説明しようか。」


 リーダーの男からは見えないが、後ろには何かを握った状態のサガミがいた。 その表情は実に良い()()だった。 リーダーの男はその言葉と場に流れる雰囲気に、悪寒を覚えた。


「今君の首もとにかけられているのはワイヤー線。 それも僕が作ったもので、ワイヤーはとても細かいカッターナイフを繋いで作り上げている。 これがなにを意味しているか、もう分かるよね?」


 サガミは笑顔のままそのワイヤーを持った握り拳を自分の方へと数ミリ引き寄せる。 男の首には赤い線が出来、その線から血が流れる。


「これ以上シルクに近付くなら君は肉体と分離して空へ還る事になる。 空賊なら空には帰りたいだろうからね。 まあ僕がこのまま締め上げることも出来るけど・・・その選択肢が嫌なら衛兵が来るまで大人しくしてる事だね。」


 男は気が付いた。 既に決着は着いていたのだと。 後ろにいる少年には、束になろうとも勝てないと。 男は力が抜けたようにその場にへたりこんだのだった。


 そして空賊が衛兵に引き渡され、お礼状は改めて発行すると言われ、空賊は引き渡されたのだった。


「いやぁ、ちょっと屋敷が汚れちゃったねぇ。 こりゃまた掃除からしないと。」


 気分を変えて掃除に取りかかろうとするサガミ。 あまりにも何て事の無いように振る舞う姿に、3人は恐怖すら感じていた。


「父さん。」


 それでもシルクはサガミに声をかける。 慕っている人として、育ててくれている親として。


「これからもボクの事を守ってくれる?」

「わざわざそんなことを聞かなくても、分かっていることでしょ? 簡単には渡さないさ。 大事な一人娘だもの。」


 その言葉にシルクはホッと胸を撫で下ろした。 顔は見えないけれど、その言葉に偽りは無いと、感覚で分かった。


「でもネルハとの子供は無理があった。 冗談にも聞こえない。」

「ははは。 まあちょっとした理由が欲しかったんだよ。 ごめんねネルハ。 出汁に使うような真似をして。 ・・・ネルハ?」


 返事が返ってこないのを不審に思ったサガミが後ろを振り返ると、そこには両手で真っ赤になった頬を抑えているネルハと、頬を膨らませて不機嫌そうにしていゆシンファがいた。


「ほらね。」

「ほらね?」


 この時サガミはシルクの言葉を理解できなかったのだった。

色々と書き足していたらそこそこの文章量になっていました。

温厚主人公は怒らせない方がいいって、ラノベだとよくある話ですよね?

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