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サガミと言う人間

「・・・ん。 ・・・ふぁ・・・あぁ。 昨日はそのまま寝ちゃったのか。」


 目が覚めたサガミはベッドから降りてカーテンを開けてみる。 まだ朝日は登っていないが、空がうっすらと明るくなってきている。 身体を伸ばしてからドアの方へと向かい、そのまま開けて廊下を出る。


 ここは屋敷の3階部分に辺り、寝室がこの階にあたる。 体感時間的にはまだみんな寝ていると推測し、サガミは1階へと降りていく。 そして調理場にやってきて昨日確認した食材の中から朝食用として使う食材を取り出す。 使うのは食パンと牛乳、卵にブロックベーコン。 そして適度な根野菜と最近見つかったと言われるハーブソルトの岩塩である。


 まずは牛乳と卵をボールに入れてカチャカチャと泡立て器で混ぜる。 砂糖も本来ならばいれるのだが、サガミは牛乳の味の方が好きなのでそのままの卵液にしてある。 そこに正方形に切った食パンを入れていく。 他の調理も同時に行うので染み込みやすい方法にしたのだ。


 そして染み込ませてる間にブロックベーコンを厚切りに、それでも食べやすいように切ってから、熱したフライパンに乗せていく。 更に奥の方に眠っていたであろうキャベツも半玉をザク切りにして半分に分けていく。 そしてベーコンがいい具合に焼けてきたところで更に盛り付けて、そのフライパンにバターを入れる。 そしてキャベツを入れて、サガミの目利きで火加減を見て、フライパンから更に移した。


 火を止めてフライパンを水に浸し、深めの鍋を取り出して水を入れる。 それを火にかけてキャベツをどかして根野菜を細く切っていく。 沸騰したところで刻んだ物をすべて入れて、岩塩を削りながら入れて、様々な香辛料を味見しながらその鍋に入れてスープを作った。


 そしてフライパンを洗い、軽く拭いたら改めて火にかける。 そして熱されたところで、ヒタヒタになった切り分けたパンを1枚ずつ取り出してフライパンに入れる。 枚数が枚数なので早めに行う。 いい具合に色目がついたところで裏返し、裏面も焼く。 足りなくなりそうな所に漬かられなかった卵液を流し込んでコトコトと煮込むように焼いていき、そして裏面も焼けたところで大皿に盛り、テーブルへと料理を持っていく。


「ふぁぁ。 あ、おはようございます、先輩。」


 あくびをしながら降りてきたのはシンファ。 髪が纏められているので型崩れはしていなかった。


「おはようシンファ。 スープももう出来てるから、温め直すね。」

「・・・先輩、いつから起きてました?」

「んー・・・日が昇る前かな。 僕にとってはいつもの事だから。」


 そうサガミは言うが、日が昇ってから今まではかれこれ1時間は経っている。 つまりはそう言うことだ。


「・・・先輩、こう言う時くらいゆっくりした方が良くないですか? 折角屋敷を貸してくれてるのですし、勿体無いですよ。」

「僕はあんまりこう言ったのには向いてないみたいだね。 自分の家の方がゆっくり出来るよ。」


 そう言いながらもサガミはスープを温め、カップに入れてシンファの前に出した。


「他のみんなはまだ起きそうにないかな。 と言っても料理の匂いが上に行くから、そろそろ誰かは来そうだけどね。」

「なんだか匂いで誘きだす作戦みたいな事を言っていますね。」

「そうかもね。 あ、そうだ。 シンファだけなら丁度いいかも。」

「どうしたんですか? 先輩。」

「今日の買い物についてなんだけど、僕と一緒についてきてくれるかな?」

「え? あ・・・はい。 大丈夫、です。」

「良かった。 とはいっても今からじゃないから、準備が出来るまではゆっくりしてていいよ。」


 そう言ってサガミは、別のカップにスープを用意したところで、階段を降りてくる人物に声をかけた。


「おはようシルク。 良く眠れた?」

「いい匂いして、降りてきた。 ご飯食べる。」

「はいはい。 もう用意してあるから先にお食べ。」


 そう言われたシルクは席について、手を合わせて食前の儀(サガミが教えた)を終えて、そのまま食事に取りかかった。


 この時シンファは元々サガミが座るはずの席に座ったことに疑問を持ったのだが、シルクはサガミのスキル「使役」によって2人の感覚は繋がっている。 そこでシンファはあのスープは自分のためではなく、シルクがすぐに食べられるようにと用意したものだと気が付いた。


「・・・ちょっとだけ、ズルいなぁ・・・」


 シンファの言葉はシルクとサガミの会話でかき消されてしまったのだった。


「ところでどのような物を買うのですか? 先輩。」


 全員での朝御飯を終えて、更に日が昇った辺りにサガミとシンファは出掛けた。 今いるのはDIYを中心に商品を展開している店に来ていた。


「まずは屋敷全体の補強かな。 外の壁は所々に穴があったし、屋根もボロボロだ。 床だってささくれてる所がいくつか見えたから、それを直してあげないと。」

「先輩の「超能作成」でやれば費用は発生しないのでは?」

「家全体が崩壊してもいいならやってもいいんだけど?」

「すいません失言でした。」


 シンファはサガミにとっての禁句を引いてしまったようで、機嫌の悪くなった(ように見えた)サガミの後ろをただついていくことになった。


「・・・あの、先輩。 先程の事があったのを承知の上で聞いてもいいでしょうか?」

「ん? なにかな?」


 サガミはシンファな方を向かないで木材やセメントの粉袋などをカートに入れていく。


「先輩にとって、一番の禁句って、なんなのでしょうか?」


 シンファ自身も分かっている。 こんなことを聞いてなんの特になるのかと。 それでもサガミの知られざる一面を知りたかったのかもしれない。 たとえ嫌われたとしても。


 そんなサガミは材料を品定めしつつ、こう答えた。


「出来ないことに対して「やってみろ」って言われることかな。」

「・・・?」

「しっくりこないかな? じゃあシンファにこの木材を使って魔物を手懐けてみせてよって言われたら、どうかな?」

「そんなの無理です。 木が好きな魔物はいますが、それだけで手懐けるのは無理です。 先に木材の方が駄目になります。」

「そういうこと。 過大評価してるのか、そういうものだと勘違いしてるのか。 どっちみち後先考える事はない言葉だったかな。」


 そう喋るサガミの周りの温度が下がったように感じた。


「一度だけ調成師として個人依頼を引き受けた事があってね。 ある研究者の協力と言うものだったんだけど、なにをやらされるのかと思いきや、僕の目の前に様々な材料があったんだ。 そしてその研究者はこういったんだ。」


 聞いてもいないことを語るサガミはシンファの方を振り返る。 彼の目に光なんてものは存在していなかった。


「君を調成師のスキル「作成」を持つものとして、ここに1つの()()を創って欲しい。 私個人で使う物なので君にはこれ以上の影響はないってね。」


 その言葉にシンファは初めてサガミに恐怖を覚えた。 その瞳の奥に、なにを思っているのか、全く読めない。 だがそれがどれだけ苦痛だったかだけは、言葉だけでなく、心でも理解してしまった。


「ま、まさか、先輩・・・その依頼を・・・」

「やるわけ無いじゃないか。 人体錬成はどの世界でも禁忌以上の罪だよ? ただ僕はその研究者を一発ぶん殴って研究室を出て、ユクシテットさんに事の顛末を教えたよ。 実際にその研究者は捕まったし、それ以来個人的な依頼は全ギルドハウスで禁止になったって話だよ。」


 その時にシンファが見たサガミの微笑みはかなり暗かった。


「さてと、そんな話はもうおしまい。 材料は揃ったし、会計を済ませてくるよ。」


 そんなサガミは逃げるかのようにレジへと向かう。 サガミにとっても知られたくない部分ではあったため、感情が渦巻いているのだ。 それを少しでも払拭させるため、ただサガミは逃げるようにしか出来なかった。


「魔物用っていうのもあるんだねぇ。」

「時々食べる物に関して少々偏食を起こす魔物もいますので。 基本的にはなんでも食べる魔物が多いのですが、中には臓器しか食べない魔物もいたり、機械的な物を好む魔物もいます。」


 魔物の道も深いなとサガミは思いつつ、シンファの魔物用に買った物を、シンファの魔物達のいる空間に入れた。 食べられないのかと心配したサガミだったが、空間の中にシンファしか入れない空間があるらしく、そこには自分が手懐けた魔物ですら入れないようになっているとのこと。


「朝早く出たお陰でお昼近くには戻れそうですね。」

「そうだね。 急ぐ必要もないし、ゆっくり帰ろうか。」

「はい。」


 そう言って来た道を歩いている2人。 しばらく歩いた所で色んな店を見ていたサガミが店のショーウィンドウに見えた物とシンファを交互に見比べていた。


「先輩?」

「シンファ。 ちょっとこの店に入ろうか。」


 そう言うよりも先にサガミは店に入っていった。 そして店員と話をして、ショーウィンドウに出ていた縁無し眼鏡を出して貰っていた


「シンファって眼鏡のレンズの度ってどのくらいかな?」

「え? ええっと・・・」


 眼鏡のレンズの調整をしてもらい、サガミはそれを改めて購入する。


「シンファ、付けてみて。」

「え? 先輩これは・・・?」

「まあまずはなにも言わないでさ。」


 そう言ってサガミから手渡しされたシンファ。 今付けてる眼鏡を外してその眼鏡を付けてみる。


「うん。 僕の見立て通りだ。 そっちの方が知性的に見えるよ。」

「先輩?」

「・・・今日はちょっと気分を悪い思いをさせちゃったね。 なるべくなら隠しておきたかった事なんだけど。」

「い、いえ! 聞いた私も悪かったですし!」

「だからそのお詫びを兼ねた僕からのプレゼントって事で、貰ってくれるかな? あ、僕から貰ったって事は、内緒だからね?」

「・・・! ・・・はい。」


 そうしてシンファはその眼鏡を付けたまま屋敷へと戻るのだった。

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