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それぞれなにから始めるか

 屋敷へと入ったサガミ達だが、自分達の仕事だとそれぞれ別の場所へと移動をした。 1ヶ所に集まっても効率が悪いのと、何より役割分担はこの広い屋敷の中では非常に重要だからである。


 そんなわけでシンファとシルクは庭へと向かう。 理由は魔物達との交流も兼ねた、この屋敷でのルールを把握するためだ。 シンファは魔物使いだし、シルクは(使役はされているが)フレムドラコであるため、ある意味では魔物に分類される事もあり、彼女もついてきた。 サガミとは使役関係上、ある程度の感覚はリンクしているため、離れていてもどこにいるかは大体分かる。 ただ離れすぎると正確な位置は分からなくなるが。


 シンファとシルクは庭にいるレリースが飼っている魔物達と遭遇する。


 今その場にいる魔物は全部ではないが、それでもかなりの量はいる。 魔物達はシンファの方を見る。 魔物使いとして魔物が分かるように、魔物達もまた、その人物が魔物使いなのを分かっているのだ。


『今日からここの屋敷の人達は旅行に行ってしまいました。 なので、あなた達の面倒を私が見ることになるのですが・・・』

『ごっほ。 昨日のかたですほ。 我々の言葉が分かるのは、魔物使いの証拠。 分からない事があれば聞いてくださいほ。』


 ゴリラのような魔物がそう話しかけてきた。


 話しかけてきたと言っても、それはシンファが言葉を理解しているからであって、通常の人は魔物が喋っているのが分からないし、そもそも喋るのも鳴き声が限界である。 それでも言葉を理解出来るのは魔物使いであるなら、最低限の事で、意志疎通が出来るからこその魔物を召喚したり出来る。 喋ることが出来ないものもいるのだが、そこは創意工夫をしているとはシンファの弁である。


『皆さんは普段なにをなされているのですか?』

『この庭事態が広いですからめぇ。 距離や縄張りはありますめぇが、それぞれで遊んでおりますめぇ。』


 山羊の魔物がシンファの質問に答える。 魔物が使う言葉は若干の違いはあるものの、同じ言葉で統一されているので、魔物の言葉が分からない、なんて事は魔物使いにはない。


『お仕事とかは? やはりなされなかったり?』

『いえ、そこは自主的にやってますカァ。 空を翔べる魔物が監視していますカァ。』


 カラスの集団の1匹が自分達の役割を説明した。


『ボクもそっちで見守る。 ボクならすぐに戦えるから。』

『頼もしいですカァ。 ですが空は我々にお任せくださいカァ。 弱くても魔物ですカァら。』


 そう言って翔んでいってしまうカラスの群れ。 数は多くないものの、存在しているだけでも牽制にはなるのだ。


『我々もこの辺りにはいますっほ。 よろしければ、一緒に掃除でもどうですっほ?』

『そうですね。 なにもしないのも味気無いので。』


 そう言ってゴリラの魔物と一緒に掃除用具を取りに行くシンファだった。


 ―――――――


 コンコン


「はい? そこにいるのは誰だい?」


 部屋の主が声をかけると、扉が開かれる。


「失礼いたします。」


 丁寧な挨拶をしながら入ってきた少女、マニューを見て、部屋の主の老婆は首を傾げた。


「はて? どなたでしょうか? この家の使用人ではないようだけれども。」


「本日から旅行に行かれたモルスディア様達のお屋敷を任されることになりました、名前をマニュー・アンバスタと言います。 私の他にも数名見かけぬ方がおられますが、私と同じようにこの屋敷を任されている者達でございます。」

「・・・あぁ。 そう言うことかい。 すまないねぇ。 病で倒れてからずっと外に出ていなかったものでねぇ。 たまにそこの窓からくるレリースの魔物達と会話をする以外興味を失くしてしまってねぇ。」

「お婆様も魔物使いなのですか?」

「ええ。 というよりも、家系がと言った方が早いわね。 ところであなたは何が出来るのかしら?」


「私は「治療師」を職業としていまして、今は目下勉強中でございます。」

「へぇ、治療師かい。 まさか生きている間に会えるなんてねぇ。」


 やはり治療師という役柄は珍しいらしく、老婆は大いに喜んだ様子を見せた。


「・・・もしよろしければ、出来る限りの事をやらせて頂きますが?」

「止しておくれ。 生い先短い老人なんかよりも、もっと大切な事に使いな。 それに、わたしゃここで最期を迎えると決めたの。 治して貰おうなんて思わないわよ。」


 マニューはその言葉に少しだけ驚いた表情になった。 なにしろ今まで「治療師」と言うだけでその存在を尊重されてきていた。 とはいえマニュー自身があまりそう言ったのが好きではなかったので、こうしてサガミといる方がなにかと都合がいい。


 そんな経緯も含めて断られたのは初めてだったので、ビックリしてしまっているのだ。


「この歳になったらね。 寿命だろうが病気だろうが事故だろうが、なんでもよくなるのさ。 死ぬのが怖くない訳じゃないけど、長生きしようとも思えない訳だよ。」

「そう・・・だったのですか。」


 マニューが寂しくなっていると、不意に窓の上から少女、シルクの顔が逆さで現れた。


「マニューがいる。 モルスディアが言ってたお婆さん。 見晴らしが良すぎる。 狙われないように見ておこう。」


 そうしてシルクは顔をあげていった。


「あんなところでなにをやってるのシルクちゃん・・・」

「あの子もあなたのお連れさん?」

「え、ええ。 あの子は今は人の姿をしていますが、元々はフレムドラコなのだそうですよ。」

「元気そうでいい子じゃないか。 また来てくれるかしらね?」

「きっと来てくれますよ。」


 マニューと老婆は、太陽の見えなくなった窓の向こうを見ていたのだった。


 ――――――――――


「それじゃあ屋根からやっていこうか。」

「はい! 師匠!」


 サガミとネルハは屋根にいる。 理由としては昨日屋敷をあちこち観察していた事もあり、屋敷全体の老朽化、劣化、破損箇所がいくつも見つかったのである。


「屋根と床の位置関係を確認しておこう。 床の湿っていた部分と今いる位置を照合して・・・もう少し奥かな。」


 そして不安定な屋根の上をサガミとネルハは歩いていく。 そして大体の目星をつけた辺りを、今度は這うかのようにゆっくりと屋根を移動する。 そしてサガミは屋根と屋根との間の隙間を見つけた。


「あ、ここだったのかぁ。 ええっと、素材が・・・これなら多少他のところからとっても支障はなさそうだね。 ・・・よし。 屋根の補修完了っと。」

「師匠。 こっちに来てください。」


 サガミが補修をしている間にネルハが少し歩いた先にいた。 そしてネルハが指差す方を見ると、そこに合ったのは塗装が剥がれて、中のレンガが剥き出しになった壁だった。 ここは日の当たらない北側なので、目立たないが、それでもかなり劣化が酷いようだ。


「ありゃりゃ。 僕でもさすがに塗料までは難しいなぁ。」

「師匠でも駄目ですか?」

「塗料の材料ならともかく、自然に固まったのはちょっとね。 出来ない訳じゃないんだけど、この壁全体は厳しいかな。 「超能作成」でも「無」からは作れないよ。」


 サガミとネルハの「作成」のスキルは、あくまでも「物質から物質の変化」という事なので、なにもないところからは作れないのだ。 錬成師でも素材がないと出来ないのは同じ事だ。


「しょうがない。 こればっかりは買ってこないとね。 明日にでも買いに行こう。」

「でも日の光が当たらないからって、ここまで壁がボロボロになりますかね?」


 ネルハの言うことも最もだ。 劣化にしては穴が大きいし、多すぎる。 そうサガミが考えを巡らせていると、下の方から何かが動いていた。 そしてそれはボロボロの壁に対して、音を立てながら何かをしていた。


「あれはなんでしょうか? 見えますか?師匠。」

「音から察するに爪で何かやっているようだけど・・・このボロボロとなんの関係が・・・?」

「そっちになにかいるの? ・・・あ!」


 上から覗いていると下にシンファが来たのが見えた。 その声に反応したのか、謎の音は消えた。


「シンファ。 そこに何かいたのかい?」

「あ、先輩。 どうやらここに「シャドムサ」がいたようです。 しかも複数。 影を好むのは聞いていましたが、壁を攻撃しているのはちょっとやりすぎですね。」


 サガミはそう答えるシンファに、少しだけ疑問を抱いていたが、その疑問は明日に回すことにした。 今は屋根の補修に集中するのみだった。

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