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任された屋敷で

 奥の部屋に入って、モルスディアとレリースが席に着くのを見てからサガミ達も席に座る。 円卓のようになっているので、モルスディアとサガミが向かい合うように座る形になった。 そして先程の一緒に出迎えてくれたメイドの一人がティーカップに紅茶を注ぎ、ケーキスタンドにお菓子を用意してくれていた。


「じゃあ改めて今回の依頼について説明をしていこう。 と言っても大まかな内容は書いてあったと思うから、後は細かいところになるだろう。」


 モルスディアが説明に入るとサガミ達は真剣な眼差しになる。 長期依頼はサガミにとっても初めての事なので、嫌でも肩に力が入ってしまう。


「そんなに気を張らないで下さいな。 細かいところと言っても、主に注意事項のようなものですから。」

「そう言うことだ。 まずは・・・っとその前に紹介しなければいけない人物が増えたみたいだ。」


 そう言って入ってきた扉の方を向くと、開けられた先にいたのは明るめの紫のセミロングで少しつり目の活気のありそうなサガミと同い年くらいの女子だった。 服装も白シャツに紅色のセミロングスカートと彼女らしい格好と言った感じの服装だった。 スタイルも控えめだが女性らしい部分は出ていると言った印象だ。


「あら? 珍しいですね。 お客様が来ているなんて。」

「クラリス。 ご紹介をしたいからこちらにいらっしゃい。」

「はい、お母様。 ですが自己紹介は自分で出来ますわ。」


 そう言ってクラリスと呼ばれた少女は残った席に立つと、スカートの裾を少しだけ上げて、足を交差させるお辞儀の仕方をする。 礼儀正しい作法を学んでいる証拠だ。


「初めましてご客人方々。 私はモルスディア・マワロットとレリース・マワロットの実の娘であります クラリス・マワロットと申しますわ。 本日はこの屋敷に足を運んでいただき、ありがとうございます。」


 そうして自己紹介を済ませて席に座り、再度サガミ達の方を見る。


「話が遅れてしまったね。 君達にしてもらいたいことは、屋敷内の掃除、庭の手入れ、レリースが飼っている魔物達の世話が主になるだろう。」

「外にいる魔物達の他に、どこかにいらっしゃいますか?」


 魔物の話となり質問をぶつけるシンファ。 お世話をする以上は必ず行き届かせなければならない。 そうなってくるとレリースしか知らない場所も教えなければならなくなることだろう。


「私の飼っている魔物達は皆庭や屋敷の中で暮らしていますわ。 余程の事が無い限りは、外出しないように注意も促していますの。 それに食事に関しましても、量は多いものの基本的には何でも食べる子達ですので、あの子達が食べられる物を用意してあげて下さいな。」

「彼女の魔物はこの屋敷の門番的存在だから、定期的に鍛えてやってくれると嬉しい。」


 その説明にシンファが納得したようなので次に進む事になった。


「この屋敷には来客もある。 もちろんこの1週間は旅行に行くことはある程度の先方には伝えているため来客は無いだろうが、それでも来た場合には対応をしてくれると助かる。 無理にとは言わないけどな。」

「あの、この屋敷には、お婆様が一緒にいると、聞いたのですが。」

「ああ、その話を忘れちゃいけなかったよ。 この屋敷の3階の左奥の部屋に祖母がいる。 身体が病弱になってしまった今は、生涯をここで暮らすと言ってほとんどあの部屋から出ない。 だが世話はしてあげてほしい。 帰ってきたら餓死していたなんて事にはなってほしくないからね。」


 それは誰しもが思うことだろうとサガミ達も考えていた。


「それと私達が帰ってくるまでの間は君達がこの屋敷を使用してくれて構わない。 家事や洗濯も屋敷内で行ってほしい。 私からは以上だが、他に聞きたいことはあるかい?」

「それなら僕から。 この屋敷の中で入ってはいけない場所や触れてはいけないものなどはありますでしょうか?」


 その質問をサガミがすると、モルスディアは目を見開いたが、すぐに冷静になる。


「なるほど、確かにそれは今聞かないといけない話だな。 と言ってもそんなに多いわけでもない。 我々の自室とこの庭の納屋だけ入らないでくれるだけでいい。 自室にはネームタグが張ってあるからすぐに分かると思う。」

「分かりました。」

「今度はこちらから質問をしてもいいかしら?」


 話に区切りがついたところで、レリースが声を出す。


「初めて会った時に自己紹介をしてもらったと思うんだけど、一部分からないことがあって。 それを聞いてもいいかしら?」

「どうぞ」


 そう返すサガミだが、大体の質問は想像しているので、そんなに身構えることもなかった。


「あなたとそちらの方は自分の「職業」を語らなかったのですが、それにはなにか理由がありまして?」

「僕と彼女、ネルハは「調成師」と呼ばれる職業なんですが、冒険者からは忌避されている職業になるんです。 本当なら隠し立てなどせずに話せたら良かったのですが・・・」

「そうだったのですか。 その件に関してはこちらも配慮が足りなかったですわ。 それではそちらの少女の「使役」というのは?」

「僕のスキルによる能力です。 スキルによってシルクとは、思考や行動がある程度共有できるというのが、このスキルの分かっている部分です。」

「ご存知かもしれないですが私の職業は「魔物使い」。 私のスキルの1つである「服従」とはまた違うようですが。 そのスキルは主に対人専用なのでしょうか?」

「前提的に人には発動しません。 誤解の無いように説明をしておきますが、シルクは竜人族という種族です。 ですが元々は子竜だったのを僕が保護観察した後に「使役」が発現し、その翌日に人の姿になっていました。 後天的なのかは分かりませんが、少なくとも奥様が考えていらっしゃるような行為は悪事は行ってはおりません。」


 全てを説明し終えたところで、シルクを見るレリース。 目線をシルクの上へ下へとやって、やがてサガミに視線が戻る。


「あなたを疑ってしまった事をここに謝罪したいですわ。」

「いえ、それはお互い様なので。」


 理解してくれたことを安堵するサガミ。 他の4人もホッと胸を撫で下ろす。


「うむ。 ここまで信頼できる冒険者もそうはいない。 任せても大丈夫そうだな! 出発は明日の明朝だ。 今日から君達に任せるわけだから、この屋敷には慣れておいて欲しい。 説明をしていたらお昼が過ぎていたな。 よし! 夕飯は豪勢に行くか!」

「いえそんな! 料理を出してくれるだけでもありがたいですから!」

「あら、随分と控えめなのですね。 普通の冒険者ならもっと大喜びする場面ですことよ?」

「それがサルガミット君なんですよ。 クラリスさん。」


 いつの間にか仲良くなっていたマニューとクラリス。 そして夕飯まで時間が出来たので、座っているのもなんだからということで、屋敷の中を案内してもらったりしていた。


「そういえばモルスディアさんって、元々はなにをやられていた方なんですか?」

「一応、君達と同じ冒険者だったよ。 ランクもBだしな。 ちなみに職業は「拳闘士」だ。」


 そう言ってモルスディアはシャドーボクシングを始める。 確かにあれだけ鍛え上げられているのならば、その実力も納得できた。


「冒険者でもこの屋敷を建てるのには相当お金は出さないと無理なはず:・・・よっぽど貯めてたのですね。」

「いや、この屋敷は献上品みたいなもんだ。 レリースを助けたな。」

「え? それじゃあレリースさんって、貴族の出身地だったんですか?」


 サガミと一緒に屋敷を見ていたネルハが、そう質問をした。


「まあな。 だが一愛娘を助けただけなのに大袈裟だったんだよなぁ。 それでレリースが惚れてなかったらただの宝の持ち腐れになるところだったんだよ。」


 そういいながらその当時の事を思い出したのかため息をつく大黒柱殿。 大変なんだねと他人事のように思っていたサガミと、「流石に人の事は言えないのではないですか?」と思ったネルハであった。


 サガミとネルハがあちこち歩き回っているのには理由がある。 この屋敷の全体像を把握するのも当然だが、少しでも劣化しているところがあれば、調成師の力を使って直していこうと考えているからだ。 ちなみに今はいないシンファとシルクは庭でレリースの魔物達の指導の仕方を習っており、マニューはクラリスとお話中だ。


 そうして夜が更けて、夕食時でみな楽しみ、部屋を借りて(サガミは部屋を借りることを渋ったが、モルスディアの良心に負けた。)就寝をした。


 そして翌日になり、使用人と一緒に大きな馬車に乗っているマワロット家族が、旅行に行くところになっていた。


「それじゃあ、屋敷の事は頼んだぜ。」

「魔物達もよろしくお願いいたしますね。」

「お土産は楽しみにしててくださいね。」

「楽しい旅行にしてきてください。」


 サガミ達に見送られながら馬車は進んでいった。 そして馬車が見えなくなった辺りで、屋敷の敷地内に戻ったサガミ達。


「さ、お屋敷を守るよ。」

『はい!』


 こうしてサガミ達の長期依頼が今始まったのだった。

しばらくはお屋敷生活をお送り致します。

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