表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/51

お屋敷からの依頼

「依頼ですか?」

「そうだ。 今回は依頼者からの直接依頼でな。 条件がなかなかに難解だったんでな。」

「難解?」

「サガミ。 今回の依頼はな。 依頼者の屋敷の管理なんだ。 依頼者達の家族が旅行に行くために屋敷を少しの間空けるんだが、その時使用人も一緒に旅行に行かせるから、屋敷にほとんど誰も居なくなるんだよ。 で、そんな空いた屋敷の掃除やら接客やらを任せたいって話なんだよ。」


 サガミのみに説明をしているユクシテットだが、後々みんなに説明したときに、分かりやすく説明をして貰うために、サガミには先に説明しているのだ。


「でもそれでなんで僕らのクランに? Bランク依頼じゃないのなら、他のクランでもいいと思うのですが?」

「だから言っただろ? 条件が難解だってな。」


 その辺りでみんなが集まり、いつもの席に着く。 なんで集められたのか分かっていなかった3人にも説明をつけて、その後更に説明を加えた。



「それで、結局難解な理由ってなんなんですか?」

「端的に言えば信頼と実績と言ったところだろう。 それと、屋敷での役割分担に関することだ。 先程も言ったように屋敷の管理について改めて向こうから説明が入るとは思うが、少なくとも普通のクランじゃ絶対に出来ない理由がいくつかある。 こちらの依頼内容にも簡潔に書かれてはいるが、どうやらその屋敷では魔物を飼っているらしい。 奥さんが魔物使いの出身らしくてな。」

「一般的に魔物使いはクランには入らない傾向がありますからね。 私が特殊とは思いませんが。」

「それに旅行には全員で行くと言ったが、手足が機能不全の婆さんが一緒に住んでいて、残りの生涯を屋敷で過ごすらしくって、連れていかないんだそうだ。」

「その人の看病が必要、というわけですね。」

「もちろんその屋敷の人間だから金品目当てで盗賊や空賊も来るんだそうだ。」

「迎撃しないと、お屋敷滅茶苦茶になる。」


 この辺りでサガミは、なんで自分達がこの依頼を頼んできたのかの意図が読めた。


「つまり、その条件を全て揃っているのが僕らだったって事なんですね。」

「正確にはクランで無くても適性なやつは何人かいたが、個別よりも、まとまってた方が分かりやすいだろ。 お前達なら不祥事も起こさないのは目に見えるしな。」

「なんで依頼主の屋敷でそんなことをする必要があるんですか。」


 そのサガミの答えにユクシテットは「だろうな」と呟いた。


「ちなみに期間とかって書かれてるんですか?」

「おう、大体1週間から10日程らしい。 その間は他の依頼にはいけないことになってる。 変に屋敷を空けるのは不安なんだとよ。」

「それくらいならデメリットにはなりませんね。 みんなは・・・異論無さそうだね。」


 サガミは他のメンバーの意見を聞こうと思ったが、特になにか意見があるようには見受けられなかった。 なかなか見かけない屋敷を見に行くということでみな少なからず興味があるのだろう。


「ユクシテットさん。 その依頼、受けますよ。」

「お前ならそう言うと思ったよ。 ちょっと待ってろ。依頼場所行きの馬車を用意する。」


 そう言ってユクシテットはテーブルを離れ、カウンターの奥へと入っていった。


 そして数分もしないうちにユクシテットに呼び出されてギルドハウスの外に待機していた馬車に5人は乗り、その目的地まで走っていった。


「それにしても、どんな方のお屋敷なのでしょうか。」


 馬車に乗っている間に、ネルハがそんな疑問を口にする。 他も同様に屋敷の管理を任されたとはいえ、どんな人物の屋敷なのかまでは把握していない。


「そもそも私達が貴族のような人達と会う機会なんて生涯にあるかないかの話ですよね。」


 シンファは冒険者としての格を話す。 冒険者と貴族は交流などはあまり存在しない。 冒険者の成り上がりや商人として成功した場合ではその限りではないものの、貴族の職業のほとんどは「交渉」や「会計」などの、対人スキルの多い職業になることがほとんどである。 中には冒険者職業にも生ることがあるらしいのだが、冒険に出るのはかなり気紛れらしい。


 そうなった場合は跡取りとして適性でないながらも努力して家族と同じ道を進むとか、のうのうと暮らしているとか、そんな根も葉もない話がちらほら冒険者の中にある。


「魔物を飼ってる。 なら奥さんは元冒険者の可能性、ある。」


 シルクがそう発言すると、シンファは首を縦にして頷いた。 


「だけど魔物使いだからって冒険者だったとは限らないよ。 例えば・・・魔物を使ったサーカス団とか。」

「先輩。 確かに魔物を使って営業をしている人も少なくありませんが、それにはもう1つ「調教」というスキルが必要になります。 でもそのスキルは極めなければ、飼い主と離れた瞬間に普通の魔物と化してしまいます。 これから旅行に行くのに、そんな危険なことは出来ないと思うのですよ。」


 サガミの答えに、シンファが否定混じりに返していく。 もちろんシンファに悪気はないし、サガミも、盲点を突かれたように驚いていた。


「・・・そっか。 なんだかごめんね、勝手なことを言っちゃって。」

「いえ、魔物使いはよく勘違いされやすいので。」


 そう謝りあっていると、馬車の動きがゆったりになってきた。


「着いたのでしょうか?」


 マニューが外を開けると、そこにあったのは空色で3階建ての屋敷だった。 しかしその佇まいは正しく貴族の家と言った雰囲気を醸し出していた。


「う、うわぁ。 やっぱり凄いお屋敷ですよ。 私達、絶対に場違いになっちゃってますって。」


 シンファが言うことも間違いではない。 服装からしても明らかな冒険者の風貌。 身だしなみを気にしそうな貴族とは天と地の差もありそうだ。


 しかし後退りしてしまっては依頼にならない。 というわけでサガミが代表をして、呼び鈴を鳴らす。 すると1体の鳥のような魔物がサガミ達に向かってくる。 最初は敵かとも思ったサガミだったが、屋敷の中にいるので、ここで飼われている魔物だとすぐに察することが出来た。


 そしてその魔物はサガミ達を認識すると、バルコニーの手摺りに立つと、群青色のロングヘアーの女性がバルコニーに現れる。


「はい、なにか御用でしょうか?」

「すみません。 依頼を受けたものなんですけれど。」

「あら、そうだったのですか。 今門をお開け致しますね。」


 そう言うと猿の魔物が門の鍵を器用に開けて、門も開けてくれる。 そしてサガミ達は屋敷の庭の中に入る。 するとその庭には様々な魔物が蔓延っていた。 どうやらここが魔物達が暮らしている場所らしい。 そして先程の女性がドアを開けてきた。 その後ろには数名の執事やらメイドやらが一列に並んでいる。


「ようこそいらっしゃいました、冒険者のお方々。 本日はご依頼をお受けしていただきありがとうございます。 (わたくし)はレリース・マワロット。 短い間ですが、どうぞお見知りおきを。」


 そう言ってレリースが頭を下げて会釈をしてきたので、サガミ達もそれにつられて頭を下げる。


「は、初めまして。 自分は今回の依頼を受注しました サルガミット・コーナンと言います。 後ろに控えているのは、僕のクラン仲間でございます。」

「えっと・・・ち、治療師のマニュー・アンバスタ、です。」

「シンフォニア・グレナースです。 職業は魔物使いになります。」

「ネルハ・クォーターです。 自分はまだ冒険者になりたてですが、精一杯務めさせていただきます。」

「ボクの名前はシルク。 父さんが「使役」のスキルを使ってくれている。」


 そう自己紹介をした後にレリースの方を伺うと、なんとも複雑な表情になっていた。 納得していないと言った具合である。


「なにやら魔物達が騒いでいると思ったら、お客さんが来ていたのか。」


 その声のした奥の階段から現れたのは、燃えるような赤髪オールバックに立派なアゴヒゲを生やし、鍛え上がられた身体が服の上からでも分かる位にガッチリとした男性だった。 その男性にサガミはそこはかと無く冒険者だったと感じさせられた。


「お客に対してこんなラフな格好で申し訳ない。 この屋敷の大黒柱のモルスディア・マワロットだ。 旅行の準備の支度中だったものでね。」

「あなた、この方達はご依頼をお受けした方々なのだそうですよ。」

「おー、何時になるやらとヒヤヒヤしたものだったが、早くに対応してくれて助かった。 立ち話もなんだし、お茶でも交わしながら、今回の依頼について話をさせてもらおう。 それなりに条件は出したはずだったのだが、改めて本人達に説明はしないとな。」


 そう言って奥へと入っていくモルスディア。 どうしたものかと迷っているとレリースから「どうぞ」と言わんばかりに手を通路へと差し出した。 ここにいるのも失礼だと思い、サガミ達は屋敷の奥へと進むことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ