Bランク用の採取依頼
「へぇ。 あそこの料理屋さん、Bランク認定の食材も依頼するようになったんだ。」
ノーノが訪れてから3日経ったギルドハウスでの事。 いつも通りにサガミは依頼書の張ってある掲示板に歩み寄って、依頼書の内容を確認していると、採取依頼の確認をしたところでそんな感想が入ってきた。
サガミは元々採取依頼に関してかなりの頻度で受注している。 その数は魔物の討伐とほぼ同等数とも言える。 これはサガミがそれだけ採取依頼を受けているのではなく、そもそもの依頼書の量が多いからにある。
討伐依頼に関しては被害がでないようにする事前策だが、採取依頼はその場その場で採取を頼むので、頻度と理由が様々なである。
そんな採取依頼は基本的に採取をする素材にもランクもついていて、大体はDランク、良くてもCランクの素材採取を依頼するだが、今サガミが見ているのは、それよりも更にランクの高い素材の採取依頼だった。
「Bランクの人限定、父さんなら、出来る。」
隣にいるシルクも、その依頼書を見て、そんな感想を述べた。
「よし、今日はこれに行ってみようかな。 生息場所は向こうが教えてくれているし、僕達はその場所で獲得できればいいみたいだし。」
そう言ってサガミは依頼書の1つを手に、カウンターへとその依頼書を持っていく。
「ユクシテットさん。 この依頼をお願いします。」
「おう、どれどれ・・・なるほどな。 あそこの店主からか。 なんか最近食材調達が上手く行ってないみたいらしいんだよな。」
「食材を運んでくる人達に何かあったのでしょうか?」
「いや、運んでくる連中だって元々冒険者でやっていた奴もいる。 用心棒は十分だろう。 だが普通の食材ならともかく、普通じゃない食材の採取は任せなきゃいかん。 そっちの依頼が滞ってるんだろうな。 全く、討伐だけが依頼じゃないんだが、受けに来る奴は少ないんだよなぁ。」
溜め息をつくユクシテットだったが、採取依頼が滞ってるのは事実でもある。 なにしろ冒険者という肩書きのせいか、みな血の気は多い。 そのため採取依頼などやらなくていいと考える冒険者も少なくはない。 そう言う考え自体を直さなければ、真の冒険者にはなれないと、ユクシテットは感じているのだ。
「ま、この街にもお前のようなBランク冒険者は少なくない。 だからこそ依頼を頼めるとも言えるがな。 とにかく行ってきてくれるなら助かるぜサガミ。 あそこの店主も、お前なら信用してくれるだろ。 この街の採取依頼のほとんどを受け持った事のあるお前ならな。」
そう言ってユクシテットは受注印を押して、サガミに返す。 そしてそのままの流れで、サガミとシルクはギルドハウスを出るのだった。
「今回の採取依頼の素材はこの辺りで採れるって書いてあったけど。」
やってきたのは渓谷。 そこに生えていると言われた「ヨロズタケ」というキノコが欲しいとの依頼だ。 ヨロズタケの特徴はカサの数が一万個にも見えるというものだ。 実際は数個らしいのだが、目の錯覚でそう見えるらしい。 味としても申し分無いらしく、渓谷の少し下層にあるとのこと。
「シルクがもう少し大きかったら、もしかしたら乗りながら探せたかもね。」
「むう、成長が遅かった。」
「まあまずは自分一人でも飛べるようにならないとね。 さ、下っていこうか。 足元に注意してね。」
サガミがシルクを宥めると共に、事前に購入したロープに、自分の短剣をロープの先端にくっつけて、ナイフを柄ごと変形させて、鉤爪付のロープを作る。
それを持ちながら大きな出っ張りに向かって、少しずつ滑るように下っていく。 渓谷と言っても崖の傾斜角度はそこまで急ではないので、こうして下る方が早いのだ。
「ヨロズタケは目の錯覚でそう見せるという特徴があるキノコだから、そこまで深くには生息しないはずだ。 見えなかったら意味ないし、光の力がないと成長も出来ない。」
「下、暗くてほとんど見えない。 日の光も届いてない。」
「とりあえずは日の光が届いてる部分を中心に見ていって、それでもなければ更に下る形になるかな。」
2人でゆっくりと降りていく最中でも、敵への警戒は怠らずにいた。 その辺りはシルクの眼によって、暗闇でもある程度は分かるようになっている。 下っている最中に、シルクが何かに反応した。 サガミもシルクを「使役」している状態なので、脳波のように伝わってくる。
「どうした? シルク。」
「あそこの横穴、怪しい。 魔物いるかも。」
「分かった。 一度迂回しよう。 目的はあくまでもヨロズタケだからね。」
そうして危険をとことん回避して、日の光が届くかどうかという場所までやってきた。 サガミの視界では見えるか見えないか位の明るさであった。
「ここまで来るとさすがに暗いや。 魔物達からも見えにくいからありがたいけれど、この状態で探すのには骨が折れそうかな。 足場も良くないし。」
実際に何度か崩れかけた足場にも乗ったので、一番慎重になっている。 ここで足を滑らせた日には助からないことは眼を瞑っても明らかだ。 それはシルクも同じことだ。
そしてふと、シルクがゆっくりと歩き始めた。
「父さん、あそこに見つけた。 ヨロズタケ。」
「本当? 気を付けて。 道幅が細くなってるから、僕は一緒にいけない。 採ってきたらすぐに戻ってくるんだよ。」
「うん。 気を付ける。」
シルクは足場が崩れないように、ゆっくりと歩を進める。 そして足場が安定した場所にたどり着いて、シルクは見つけたヨロズタケを数個採取すると、そのまま同じ様にサガミの元に帰っていった。 その間にサガミも上へと戻れる準備をしていた。
「敵は?」
「まだ見つかってない。 気配もない。 戻るなら今のうち。」
「分かった。 結構深くまで来ちゃったから時間がかかるけど、確実に脱出しよう。 シルク、警戒と迎撃体勢は怠らないように。」
「分かった。」
そうしてサガミとシルクは、常に周りに気を配りながら、渓谷を登っていくのだった。
その後サガミとシルクは無事に渓谷を登り終えて街に戻ってくる。 そして本来ならばギルドハウスに向かって依頼完了の報告を行うのだが、採取依頼はその限りではない。 サガミ達はとある店に向かった。 そしてその店に入る。 すると奥からハチマキを巻いた店主が出てきた。
「いらっしゃい。 お? なんでぃ、調成師の坊主じゃねぇか。 珍しいな。 この店で食べていくか?」
「どうも。 今回は依頼にあった食材の採取をしてきたので、それを運んできました。」
そう言ってサガミは袋に詰めてあるヨロズタケを取り出して、店主に見せる。
「お? おお。 お前さんがあの依頼を行ってくれたのか。 いやぁ、どれだけ時間がかかっても、全然良かったんだがなぁ。」
「急いでいたのでは無かったのですか?」
「ああ。 ヨロズタケはあの渓谷の日の光が届くギリギリの場所にしか生えないが、その分年がら年中生えてるから、季節云々は関係無かったんだよ。 後は俺の趣味も予て、新商品でも作ろうと思ってただけだからな。 気長に待ってたんだが、思ったよりも早く始められそうだ。」
店主はそう言いながらサガミが持っているヨロズタケを貰う。
「・・・ほほぅ、なかなかに上質な物を採取してきてくれたんだな。 これなら追加報酬を出してもいいくらいだ。」
「採取したのは僕じゃなくてシルクですよ。」
「お? その嬢ちゃんかい?」
そう言ってシルクを見ると、シルクは申し訳なさそうに顔を出していた。
「初めての食材だった、もっと質のいいもの採れたかも。 まだまだ未熟だった。」
そんなことを言って落ち込んでしまったシルクに、店主は笑いながら声をかけた。
「はっはっはっはっはっ! 気にするこったぁねぇよ嬢ちゃん! サガミの坊主のお墨付きだ。 坊主が質の悪い奴なんか持ってきた記憶なんざねぇ。 お前さんが頑張ったんなら、それでいいんだよ。 他の冒険者なんかじゃ、持ってきたとしても質なんか分かりゃしねぇ。」
「シルク。 別に店主は怒ってる訳じゃないんだ。 それに自分が頑張った仕事にはちゃんと見返りがつくんだ。」
「そうだぜ嬢ちゃん。 それにこんなことを失敗に思うな。 嬢ちゃんは良くなってくれたよ。 それでいいじゃねぇか。 さ、仕事は終わりだ。 新作が出来上がったら、食べに来てくれよな!」
そう言って店主と別れて、改めてギルドハウスに向かうサガミとシルク。 だがシルクはまだ腑に落ちていないようだ。 だからサガミはシルクの頭を撫でてあげた。
「大丈夫だよシルク。 ちゃんと仕事はしたんだから、そんなに落ち込まないでよ。 シルクは良くやってくれたよ。」
「父さん。 ボク・・・」
「分かってるよ。 シルクはシルクでしっかりやっているのは僕が見てたから。」
ちゃんとシルクのことを宥めながらギルドハウスに入ると、ユクシテットがサガミの事を捉えたと同時に、サガミを呼び寄せた。
「サガミ、待っていたぞ。 お前達のクランに依頼を申し込みたいんだ。 説明するから集まってくれ。」
次回から特殊依頼に行きます。(予告)




