サガミを知ること
「ええっと、それでその・・・ノーノさんがこちらに来た理由、というのは?」
ユクシテットとノーノのやり取りを見た後にマニューが恐縮しながら聞いた。
「ああ、そうね。 今回来たのはさっきも言ったけど、サルガミット・コーナン君についてなの。 数少ない職業「調成師」でひたむきに頑張る彼の事を聞きたくて。 取材みたいなものだと思って?」
「自分達はいてもよろしいのでしょうか?」
「クランメンバーならどうぞ座ってて。 彼の事を身近で見てる貴女達からも知りたいこともあるし。」
そう言ってノーノは椅子を用意して貰ってサガミの向かいに座った。 ちなみにユクシテットもその場にいる。
「ユクシテットさんは戻らないんですか?」
「他の奴に任せても問題ないし、なによりこの人の近くにいることは重要なことだぞ。 さっきみたいな事がまた起こりえるからな。 今度は冗談じゃ済まなくなる。」
先程のやり取りを見て納得する。 それだけノーノの力が強いことを証明しているからだ。
「さてと、どこから聞こうかしら? あなたの私生活は別にいいから・・・「調成師」になって少しでもいいことがあったかしら? 私もこの職業が忌避されているのは知っているし、その事については今でもまだ問題視されているわ。」
「まだこの世の中で、そのような習慣が蔓延っているのですね。」
「調成師が適性になってしまった冒険家は、少なからず疑心暗鬼になる人もいてね。 こちらとしても最大支援もしたりしてるけど、気力はほとんど失くなっているわ。」
その言葉にサガミは表情を苦悶としていた。 しかしそれはサガミが「調成師」になる前からずっと言われていたことで、それまでの人達の方が精神的ダメージは大きいだろう。
「でもね、ここ最近で「調成師」の在り方も少しずつ変わってきているの。 君の活動報告をユクシから良く聞いていてね。 私も最初こそどんな風に見られているか知らないから出来るんだろうなって、信じていなかったの。 でも日を重ねていって、君の頑張ってる報告を聞いて、君の頑張りを伝えたいと思ったのよ。 それが今の諦めている「調成師」の人の力になるから。」
真剣なその目と顔にサガミは決意を感じ取っていた。
「分かりました。 ちゃんと答えられる部分をお答えします。」
「それは本当に助かるわ。 じゃあ早速なんだけど、あなたの所持しているスキルについて教えてくれないかしら? 出来れば詳細もね。」
「はい。 まず手に触れて物質の形状の変化が出来る「超能生成」。 このスキルは元々は「有能生成」のスキルだったのですが、回数を重ねていくことに「万能生成」に進化して、ここまでやってきました。」
「スキルの進化と言うわけね。 ちなみに今はどのようなものを生成できるようになったのかしら?」
「そうですね。 今だとこれくらいは出来ます。」
そう言ってサガミはなにもない空を掴むような仕草をした後に、握り拳を強く握った後に手を広げる。 するとなにやら黒い煤のようなものが手に付いていた。
「これは?」
「空気中の炭素を使って炭を作りました。 今はこうした粉末ですが、さらにここから固体に出来ます。」
その言葉通り小さいながらも炭だけで作った小型ブロックを生成した。
「こ、これは想像以上に凄いわね・・・でもここまで使えるようになるまでにはとてつもない数の物質を生成、分解してきたんじゃない?」
「ええ、正直どの辺りからか数えるのは止めてましたね。」
それだけの苦行であるだろうにも関わらず平然とこなしていたサガミに、その場の空気は少し重くなる。
「と、とにかく次に行きましょう。 他にはありますか?」
そんな気分を払拭するためノーノは話題を変えることにした。 とはいえノーノもあそこまで言われると、他のスキルもかなりの労力を使って進化させて来たのだろうと察することが出来た。 長年ギルド管理協定の秘書をやっているわけではない。
「次は眼にあります。 僕は眼に関するスキルを二つ持っていて一つは「目標索敵」、もう一つは「敵観察」になります。」
「その二つはどのように違うのでしょうか。 また眼と言いましたが、片目ずつにスキルがあるのですか?」
「基本的には片目ですが、両方使うときもありますので、両目にスキルを発動したりします。 「目標索敵」は植物や鉱物に対して使い、「敵観察」は魔物に向かって使います。 どちらも詳細を知るために使われますが、「敵観察」の方は魔物の挙動を見ることも出来ます。 ただこのスキルは僕が一度見て知識を得ないと反映されないという欠点があります。」
「なるほど。 だから色々な知識を得るために、勉強をなさっているのですね。」
どこか納得したように手を叩くノーノ。 これに関してはノーノも感心を持っていた。 資格取得のための試験関連はそのほとんどがギルド協定会で行われていて、試験を行う冒険者やお店の管理者などは全てチェックしている。 そんな中で時々サガミの名前を見かけており、試験の合格回数も多いので、ノーノの他にも気になっていたようだ。 ただ調べる時間よりも試験内容の更新等で忙しいので、出来なかったのだ。
「そして最近発現したのが「使役」のスキルになります。」
「もしかしなくても、ここにいる子達がそうなのかしら?」
ノーノは周りの女子達を見ながらそう質問をするが、サガミは首を横に振る。
「残念ながら人には使用できません。 だけどシルクは人ではなく竜人族ですので、出来たという特例があります。 元々はフレムドラコだったのですが、幼体の姿で使役が出来たので、今は僕と共に依頼をこなしています。」
そう言ってサガミはシルクの肩を叩く。
「ふーん。 確かに普通の人とは違うわね。 額に角があって、瞳孔も細くって。」
「背中に小さいけど、羽も尻尾もある。」
「ちゃんと言葉も話すことが出来る、か。 でも使役ってスキルならこの子はどうやって使役したのかしら?」
「最初は弱っているところを保護する目的で連れて帰ったんです。 それで手入れやらご飯をあげて、面倒を見ていたら使役のスキルが発動したと言った具合です。 人型になれた理由までは分からないですが。」
そう、サガミにとってもそれだけは謎だった。 理由が分からないというよりは、何故竜人族だと情報に出なかったのかが分からないのである。 とはいえ今更そんなことを疑問に思っても無意味なのはサガミはすぐに分かっていた。
「ふーん。 ・・・ねぇ、シルクって言ったかしら?」
「うん。」
「使役主、サガミ君の事は好きかしら?」
「ちょっ、ノーノさん!?」
サガミが驚愕するなか、シルクは首を傾げた後に、言葉の意味を理解したのか、すぐに答えた。
「父さんの事、好きだよ。 シルクのやってみたいこと、やらせてくれる。 駄目なことは最初に言ってくれる。 シルクの事、ちゃんと見てくれる。 だから好き。」
「なるほどねぇ。 シルクの好きはそう言う意味の好きかぁ。 ・・・それなら他の3人にも聞いてみようかしら?」
ノーノは他の3人に目を向ける。 その目は最早獲物を見つけた蛇のように鋭く光った。 女子3人は色々と言い澱んでいたが、口を最初に開いたのはマニューだった。
「私は、職業が「治療師」なので、色んな方から声をかけられるのですが、男性の方だと、強引にお誘いなどもありました。 そんなことから男性不信になってしまったのですが、サルガミット君だけは、そのようなことを一切してこないし、逆に気を遣ってくれています。 そんな優しさに、もっと浸っていたいと思うのです。」
「わ、私も」
マニューが語り終わるとシンファも語り始める。
「魔物使いの中でも私は魔物の事となると周りを気にせずに自分の世界に入っちゃうせいで、周りから浮いたり引かれたりしました。 でも先輩はそんな私の事を引きもせず、むしろその好奇心は大切だと言ってくれました。 今まで何とかして治そうと思っていたのですが、先輩のお陰で、いや、先輩の前では自分のままでいようと心に決めたのです。」
シンファも語り終えると、ネルハもおずおずと口を開ける。
「自分は師匠と同じ「調成師」で、同年代から凄く蔑まれて来たのですが、師匠にあったあの日から自分の適性職業に絶望をしないで、師匠と共に歩める日を夢見て今日まで頑張ってきました。 今の自分がいるのは師匠のお陰なのです。 だから感謝をしたいのも事実です。」
そうして3人の答えを聞いたサガミはと言うと居心地が良いとは言えない表情をして、落ち着かない様子だった。
「ちょ、ちょっと依頼書を確認してくる。」
そうしてサガミは席を離れていった。 その行動にノーノは「モテモテねぇ。」と言うだけだった。
「ノーノさん。 あんまりあいつを虐めてやらんで下さい。 確かに褒められるのは慣れてないかもしれませんが、あそこまでにする事は無いでしょ?」
「いいじゃない。 こちらとしてもネタ提供には十分よ。 ふふっ、記事にするのが楽しみだわ。」
そう言いながらノーノは席を立って、ギルドハウスを去っていった。
「なんというか、嵐のような人でしたね。」
「先輩があんなにたじろくとは、なかなかやりますね。」
「いや、半分はお前らのせいだろう。」
その場に残されたメンバーは、気分の落ち着いたサガミが戻ってくるまで、待っていることになったのだった。




