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シルクの紹介

 シルクと色々な依頼を受けること2週間。 この2週間でシルクは様々な戦闘スタイルを確立していった。


 確立と言っても元々の鍵爪による攻撃スタイルの他に竜の力を使った蹴りや拳。 息吹きの使い方が分かればそれもふんだんに使ったりと、竜人族としての戦い方を身に付けていたのだった。


 シルクの戦闘に対する成長速度に関してはサガミも驚きを隠せなかった。 なにしろサガミが自分の戦闘スタイルを確立するのに、少なくとも3ヶ月は掛かっていたからだ。


 しかしそうなるのも無理はなく、サガミには武器の扱いや魔法については平々凡々。 つまり他よりも秀でているものがあまりにも少ないのだ。 そんな中での職業適性は「錬成師」だった。 「調成師」でも言えることなのだが、これはなににでも成れるという言い方になる。 「逆転の発想」で、なににも秀でていないならば、全てをこなせるようになればいい。 そういう意味なのではないかとサガミは思っていた。


 そしてそんなシルクを見てあることを思い立っていた。


「ユクシテットさんすみません。 わざわざ召集をかけるように言ってしまって。」

「気にするな。 クランなんてものは所詮集まりやすくするための場所みたいなもんだ。 職業がてんでバラバラなクランが一緒なのがそもそも奇妙なことなんだよ。」


 ユクシテットがそういうのならそうなんだろうなとサガミは思った。 そんな裏事情にサガミもさすがに突っ込む訳にもいかないので、さっさとクランメンバーが集まっている場所、元々はサガミがひっそりとギルドハウスにいた、隅のテーブルに歩いていく。


 シルクもその後をなにも言わずについていく。 シルクは基本的にサガミに対してなにか口を出すことはない。 「使役」の効果によってサガミの考えはある程度共有しているし、サガミが余計な事を考えないようにするためにシルクは雑談でもあまり話さない。 寡黙なシルクらしいと言えばシルクらしい。


 そしてテーブルにサガミ達が着くと、集められていたということもあって、既に椅子は半数以上埋まっていた。


「お久しぶりです。 サルガミット君。」

「1ヶ月近く休業してたって聞いてましたが、その様子だと既に再開してるみたいですね。」

「師匠らしいと言えばらしいですが、もう少し休んでも良かったと思いますよ。 ところで・・・」


 ネルハがそこで言葉を止める。 いや、他の2人も気になっている様子だった。 視線がシルクに向きっぱなしだったからだ。


「その子は誰です?」


 ネルハがそう聞くと、シルクは首を横に傾げた。 どうやら自分の事だと言うことに気が付けていないらしい。


「ほら、自己紹介だよ。」


 そうサガミが言うと、シルクも理解できたようで、一歩前に出る。


「初めまして。 ボクはシルク。 父さんが「使役」してくれています。 最近は依頼のために外に出してくれます。 どうぞよろしくお願いします。」


 シルクは丁寧な言葉で紹介をしたが、歓迎の雰囲気ではないことに気が付いていた。 さらに言えばサガミが微妙に冷や汗をかいて、目線を明後日の方向に向けているのが気になった。


「サルガミット君。 どういうことでしょうか? 使役されているというのは・・・? それに今「父さん」と・・・もしかしてサルガミット君・・・」

「いや、その辺りも含めて一から説明するから・・・」

「ん? んんー?」


 マニューがサガミに迫ろうとした時、シンファがシルクに集中する。 そしてこんなことを言った。


「シルク、だったっけ? あなた、種族は「フレムドラコ」なの?」

「うん。 でも人型になってるから、ちょっと違うと思う。」

「えー!? 凄い凄い! フレムドラコなんて、もっと最上位クラスの魔物認定で、しかもその身体の全長に対して町一つ焼き付くせる程の炎を吐くと言われるフレムドラコ、しかも竜人族なんて激レア中の激レアが目の前にいる!」


 シンファの興奮が収まるところを知らないのを見るなり、改めてサガミに今度はネルハが声をかける。


「それで、結局あの子は?」

「僕が依頼の帰りに弱ってたから手当てついでに面倒を見てたんだ。 フレムドラコだっていうのは分かってたんだけど、まさか竜人族だとは夢にも思わなかったよ。」


 あの時の状況を垣間見た時はサガミも驚きを隠せなかった。 本人にとっても今までに無い驚きだろう。


「本当は持って帰ってきた時にシンファに預けようかと考えたんだけど、その時にシンファが居なかったから、僕が見てたって訳。 その時に「使役」のスキルも顕現したんだ。」


 サガミは今もなおシルクのことを触っているシンファに目を向ける。 シルクは頬をムニムニされているが嫌がるどころかどこか気持ち良さそうにしている。 魔物(とは言えないが)の扱いに長けているシンファならではの触り方があるのだろう。


「いやぁ、私の従えている魔物の中には擬態出来る子は何体かいますが、完全な人型の種族は初めて見ますよ。」

「やっぱりシンファも竜人族は会ったことが無かったのかい?」

「存在自体は知ってましたし、上級魔物使いの書物にも書いてあったので実在するのは分かっていたのですが、もっとランクが上がってからだと思っていましたからこんなに身近に来るのは奇跡に近いです。 フレムドラコだからちょっと体温が高いのも高得点ですね。 おそらくですが先輩の使役の効果による能力向上によって、フレムドラコに魔力のようなものが流れ込んで、シルクは人型になれたのだと思われます。」


 シンファが喜びを表しているので、サガミも見せにきて良かったと思えた。


「でも師匠。 シルクちゃんを連れてきたのはなんでですか? 確かに珍しいと言えば珍しいですが、それを見せびらかしたいわけではないですよね?」

「その通りだよネルハ。 シルクもしっかりと戦えることが分かったから、今度は1人じゃなくて皆との連携を覚えさせようと思ってね。」


 そう言ってサガミは手元にある依頼書をテーブルにのせる。


「今回行く予定なのは「ウモダック」の羽根が欲しいって依頼。 ウモダックはCランクの魔物だけど羽毛は上級品でよく寝具に使われているんだ。 そんなに多くは採れないから5、6匹ほど倒して羽毛を採ればいいかな。 羽根だけじゃ勿体無いからお肉の方も換金できるように・・・あてっ。」


 サガミの説明途中に後ろから頭を軽く叩かれる。 サガミが振り返ると、そこにはユクシテットがいた。


「なにをするんですかユクシテットさん。」

「お前はもう少し身体を休めることを覚えろ。 相も変わらず連日依頼受注してくれるおかげでここ最近は依頼書の方が溜まらないんだよ。」

「いいことではないですか。 ユクシテットさんに取っては楽が出来るじゃないですか・・・痛い痛い痛い!」


 正論を言った筈なのに頭を締め付けるようにユクシテットは手を強める。


「アホたれ。 お前が真面目に依頼に行くせいで、自分達が依頼に行く必要が無いと考え始める冒険者がいるんだよ。 せめて早い者勝ちみたいな争いが欲しいんだよ。 こんなに静まり返ってるギルドハウスはよ。」

「依頼を受け続けるのも考えものという事ですね。」

「こんなに頑張ってる奴がいるにも関わらず、評価としては一般的な冒険者と同じなんだ。 こいつの苦労が報われんぜ。」


 そんな会話の繰り返ししているうちに今後の方針が決まっていく。


「ま、今のお前達なら問題ないだろ。 ネルハもちゃんと頑張ってるしな。」

「師匠に顔向けするためにも手は抜いていませんから。」

「それぐらいの意気込みが最近は足りないんだよな。 なんか報酬増やした方がいいのか?」

「それだといつも通りになった時に文句言われそうですけどね。」

「いつも通りやる。 いけないこと?」

「それだけじゃ報酬に見合わないって人がまだいるみたいなんだよねぇ。 「自分達は身体を張ってるんだから、それ相応に出してくれよ」ってさ。」

「シンファ先輩、それ本人達の真似ですか?」


 他愛ない話を繰り返しながらも準備に余念の無い5人は、すぐにギルドハウスの入り口へと向かった。


「それじゃユクシテットさん。 行ってきますね。」

「あぁ。 俺が言うのもあれだが、気をつけて帰ってこいよ。」


 そうしてギルドハウスを出ていくサガミ達であった。

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