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シルクの登録について

 そしてシルクが来てから1ヶ月頃


 シルクの成長速度を考えて、折角なので簡単な依頼をこなしてみて、そこで新たに何かを得られるかもと思ったサガミだった。


「そんなわけで君をギルドハウスに連れていって、相談をしてみようと思う。」

「シルクの名前、付けてもらった場所。」


 シルクにとってはそういう印象なのかと肩を落としつつ、サガミはギルドハウスに連れていった。 サガミにとっても一月振りのギルドハウスなので、喧騒すらも懐かしく感じた。 だが、そんなサガミの思いは一瞬で崩れ去る。


「なんだぁ? サガミが餓鬼を連れてギルドハウスに入ってきたぞ?」


 大男の1人が大声でそんなことを言った。 大方注目を寄せるためだろう。


「なんですか急に。 言っておきますけど、シルクはただの子供じゃないので。」

「おいおい、女を誑かしただけじゃ飽き足らず、今度は幼女に手を出すのかよ! お前の職業「調成師」は餓鬼の子守りもするのかよ? ははは! 本当に謎に満ち溢れた職業だな! なにがしたいのかさっぱり分からないぜ!」


 大男は盛大に笑う。 周りも一部が笑っていた。 だがサガミは一切気にしていない。 むしろただの雑音としか捉えていなかった。


「僕はこれからユクシテットさんと話をしたいんです。 そこだと受付にいけないので、退いて頂けませんかね?」

「へっ、餓鬼連れた状態で依頼なんか出来んのかよ? それともなにか? 今まで1人だったが、守るものが出来た事の優越感に浸ってんのか? 本当に笑わしてくれるぜ。」


 ゲラゲラとそれでも笑いを止めない大男。 サガミの眼中には既に大男の姿など見えていない。 だが壁となっている以上は避けては通れなかった。


「話はそれで終わりですか? いい加減耳が痛いので、とっとと退いて下さい。」

「依頼を受けるのか? だったら餓鬼は預かっておいてやるよ。 心配すんな、壊れない程度には遊んでやるさ。」


 そう言いながら男はシルクに手を伸ばす。 最初からそれが狙いだろと言わんばかりに忌々しく顔を歪めたサガミは割って入ろうとしたが、その前にシルクから吐かれた炎が大男の顔面を焼いて、顔面を真っ黒にした。 もちろん髪の毛も残らずに。


「触るな、下衆。」


 そのシルクの言葉の後に、大男は倒れてしまう。 そして周りは一時騒然となるが、サガミにとっては好都合になったので、そのまま無視することにした。


「大丈夫、死んでないから。」

「トラブル無く、とはいかなかったか。 それにしてもあれだけの炎を良く吐けたね。 前まではまだあれの1/4ほどの大きさだったのに。」

「父さん。 自分の事で、怒らない。 代わりに怒った。 炎を吹いたら大きくなった。」

「感情にも反応するんだ。」

「駄目だった? ボク悪いことした?」


 そう聞いてくるシルクにサガミは、腕を組んだ後にシルクに向かって親指を立てた。 「むしろ良くやった」と言わんばかりに。


 サガミも馬鹿にされた事に対して怒りたかったが、それでも冷静に対応したかった。 だがああいう輩は言っても聞こえないので、実力行使しかない。 それにシルクの成長を見れることが今は一番嬉しいことなので、シルクに対するお咎めなんてものはサガミにはない。 親バカというよりは、自分が大切にしようとしている子に対して手を出したのが悪いと言わんばかりだ。


「はっはっはっ。 相変わらず規格外な事をしているようだね。」


 唐突な第三者の声にシルクは身構えるが、それをサガミが止めた。


「あれは僕のせいじゃないですよ? フェルモンド先輩。 突っかかってきたあっちが悪いんです。」

「別に誰も気にしていないさ。 彼は少々傲慢な部分があったからね。 実力差も分からないで相手を貶していたりもしたから、お灸を据えるには丁度良かった。」

「さいですか。 先輩がいるということは長期遠征が終わったのですね。 お仲間の方とはもう解散して?」

「ああ。 しばらくはなにも無いけれど、また収集はかかるだろうね。 君ももうそろそろメンバーに呼ばれるかもね。」

「止めてくださいよ。 BランクとAランクの壁は、Bランク昇格とはまた違うんですから。」


 そんなフェルモンドにご冗談をと思いながら肩を竦めるサガミ。 しかしフェルモンドもサガミの実力は認めているため、今後は決闘を申し込みに行かなくても大丈夫だろうと、頭の中では思っていた。


「それで、その子はずっと警戒しているようだけど?」

「初めて会うのと、さっきのことがあるので多分警戒しているのかと。 この人は大丈夫だよシルク。」


 シルクは見定めるようにフェルモンドを見て、少しだけ長考し、そして警戒を解いた。 とはいえほんの少しだが。


「それで、この子を連れてきたのは、見せつける為じゃないだろう?」

「当然。 シルクにも依頼を行かせようと思ったんです。 籠ってばかりじゃ、学べるものも学べなくなりそうですから。」

「君は父親としては厳しく育てそうな節があるね。 まあ、頑張ってくれたまえ。 僕は君がAランカーになる日を楽しみにしているよ。」


 そう言ってフェルモンドは去ったいった。


「はぁ。 相変わらず買い被るなぁ、あの人は。」

「それだけ認めてる。 父さんはもっと誇っていい。」

「誇ったところで、評価になんか繋がらないよ。 まあいいや、とりあえずユクシテットさんと話をしないと。」


 そう言ってサガミとシルクはようやくカウンターに身を寄せて、すぐにユクシテットを呼んだ。


「ようサガミ。 ん? シルクも一緒か? なんかトラブルか?」

「いえ、トラブルは全く起きてないのですが、シルクを依頼に連れていく場合ってどういう扱いになります?」

「あん? ・・・そういうことか。 ったく。 1ヵ月間の休業じゃあ、サガミは止まらなかったか。」


 ユクシテットは目の前のワーカホリックに対してため息をついた。


 ユクシテットとしてはサガミには休息を与えたかったようだが、その願いは届かなかったようだ。 そもそも「使役」状態にあるシルクを教育する時点で、サガミは休むことはしなかったが。


「しかし使役となると、少々困ったことになるな。」

「というと?」

「普通魔物使いは魔物を別の場所に置換しておくんだ。 それで召喚術を行うことによって、魔物を扱うことになる。 だがシルクの場合は、この場に留まっている事になるから、魔物使いとは定義が変わる。 とはいえ魔物に近い存在である以上は魔物扱いになる。 とすると厄介なのは」

「シルクを使役している僕がシルクをどう認識しているか、というところですか?」

「そうだ。 シルクを魔物として見るならば一度別空間に移動させなければならないし、一緒にいるということならば、冒険者として扱わなければならない。 手続きもかなり面倒だ。」


 ユクシテットは頭を悩ませる。 というのも今のシルクの立ち位置としては「主人のいる竜人族」ということになっている。 どちらに転んでも、シルク自身が望まないことを、サガミはしないだろうと踏み込んでいるユクシテットである。


「・・・ちょっと待ってろ。 これから本部に連絡を付けて、扱いについての処理を聞いてみる。」

「あ、ギルドカードって必要ですか?」

「念のため貸してくれ。」


 そう言ってサガミはユクシテットにギルドカードを渡し、ユクシテットは奥に入っていった。


「手続き、面倒?」

「そうかもねぇ。 ま、ユクシテットさんならなんとかしてくれると思うよ? あの人は他のギルドハウスの管理者の中でも、上の人に滅茶苦茶信頼されてる人らしいから。」

「ユクシテットは偉い人?」

「どうなんだろ? かなり上の役職の人とは繋がりがありそうだけれどね。 それとユクシテットさんはシルクよりもうんと大人の人だから、せめて「さん」付けはしようね? ユクシテットさんは気にしないだろうけど。」

「分かった。 気を付ける。」


 そう言って時間が掛かりそうだと感じたサガミはカウンターから離れる事にした。 そんな簡単にはいかないだろうなとサガミが思いながら待っていると、不意にいくつかの影がサガミとシルクを囲んだ。


「お前がサガミだな?」

「だから何ですか?」

「表に出な。 面貸せや。」


 その言葉にサガミはうんざりしながらも、事情はなんとなく察しているので、文句無く付いていく。 シルクも止めには入らないで付いていく。 概ね使役主であるサガミの考えが読み取れているからだ。


「それで、何の用でしょうか?」

「うちのもんが世話になったようでなぁ。 どんなやつか知りたくってな。」

「で、仲間の敵討ちって訳ですか。 ご丁寧なことですね。」

「理解が早くて助かるわ。 というわけで1発殴られてくれや。」


 そう言うか否や拳がサガミに飛んでくる、が、サガミは避けることはせずに、その拳を片手で止めた。


「あ?」

「はい。 殴られてあげました。 これで貸し借りは無し、ということで」

「ふざけんやな! 普通顔に殴られるのが定石だろうが!」

「別に向こうが突っかかってきたんですし、返り討ちにあうかもって考えが無かったんですから、理解が追い付かずに倒れただけですよ。 というか死んでないんですからそんなに怒らなくてもいいでしょ?」

「クランの面子ってのがあんだよ! いいから拳を・・・あ!? 離れねぇ!?」

「クランの面子を仲間の敵討ちで取り戻そうとしないでくれませんかね? そういうのが一番困るんですよ。」

「なんだと!? この餓鬼がぁ・・・!」


 どれだけ威勢を張っても、大男の手はサガミから離れない。 端から見れば大きな拳を片手で止められているだけに見えるだろう。 それを周りは憐れむ目で見ていた。 止めている相手がサガミだと分かると、大男が憐れに見えるのだ。 それだけサガミは知らず知らずのうちに実力を認められているのだ。 知らないのは冒険者の一部だけである。


「おーいサガミ。 外にいるなんて・・・ どういう状況だ?」

「大男が敵討ち。 殴る拳止めてる。 翻弄されてるのに気が付かない。」

「簡潔にありがとうよ。 サガミ。 上との連絡が取れた。 とりあえずシルクは魔物として扱うことになったが、連れて歩くことは可能になったからな。」

「それは良かったです。 それで、ちょっと軽く行ける依頼を受けたいんですが。」

「お前は・・・まあいい。 それなら・・・」

「おい! まだ終わってない・・・ぐっ!」


 サガミが離した大男は再度サガミに突っかかろうとするが、それを止めたのはユクシテットだった。


「なんだ、お前か。 まだお前達のクランは依頼可能状態になったばかりだろ? それとも、もう一度依頼を受け付けなくするか?」


 その言葉にさすがに大男もなにも言えなくなった。 それだけユクシテットはこのギルドハウスにとって大きな存在なのだ。


「それじゃ、ちょっと行ってきますね。」

「おう、ちゃんと面倒見てやれよ。」


 そう言ってサガミはシルクを連れて、依頼に向かうのだった。

どの小説の世界でも外れ職を冷遇するのは、なにも知らない馬鹿だけだと思います

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