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竜人族の育て方

「あっはっはっはっはっ! こりゃまた随分大きな荷物を拾ってきたものだなぁ!」

「笑い事のように言わないで下さいよユクシテットさん。 一番驚いているのは僕なんですからね。」


 ギルドハウスに入っていの一番にユクシテットに現状を報告したサガミは、好奇の目に晒されつつも、ユクシテットに笑われて気を落とすのだった。


 それもそのはず、サガミが連れていた少女が元々フレムドラコだと言うこと、寝て起きたらこうなっていたこと。 そしてフレムドラコの子自体も色々と分からない赤ん坊のような表情をしている事の三重苦で、サガミの頭を抱えていたからだ。


 一応朝の時点で、単語単語なら喋れることが分かっただけでも、サガミにとってはありがたかった。 ちなみに今はサガミが作った、ブレス攻撃をしてくる魔物に対して弾くマントを着用している。 サガミの大きさに合わせて作ってあるので、少女の体はすっぽりと入った。 元の竜の状態に戻る方法を知らないので、流石のサガミも幼気な少女の裸を外に晒すのはいけないと思ったのだ。 服がなかったので今回は応急措置ではあるが。


「いやあ悪い悪い。 お前は運も捨ててなかったんだなって思ってな。」

「たまたま見かけた竜の子供が竜人族だなんて誰が思うんですか。 それよりこの子の事なんですけど・・・」


 先程から周りをキョロキョロと見渡している少女に2人は焦点を当てる。


「僕の「使役」の効果がそのまま適応されているようなので、勝手に遠くに行ってもすぐに場所は分かるようになっています。」

「ほぉ、新しいスキルを習得したのか。」

「かなり条件の厳しいスキルですけどね。 ですがフレムドラコがBランクよりも下の生物だとは到底思えないんです。」

「そうだな。 確かにフレムドラコは脅威を考えればAランクにもなりうる生物だ。 だが魔物として認識されているわけではないし、今回は幼体だったから、お前の「使役」スキルを使えたという話だろ。」


 その言葉に「なるほど」と納得をした。 大きい姿でなければランクは影響しないようだ。


「ま、お前さんの判断は正解だろうよ。」

「どういうことですか?」

「考えてもみろ。 竜人族の少女だと言うことは、それだけで価値があるんだ。 色々な意味でな。」


 その言葉にサガミはギルドハウスの人間を見回す。 何気無い振りをしているものもいるが、その目の輝きはかなり露骨な冒険者が多い。


「そう言うことだ。 お前が「使役」を済ませていなければ、今頃この少女の奪い合いだ。 だからお前がしっかり育てるんだ。 竜人族の成長速度がいくらか分からんが、少なくともそこら辺の馬鹿どもよりは賢くなる筈だ。 それに、お前が育てたことを証明できれば、「調成師」としての質もかなり上がると思わないか?」

「なんか面倒事を僕で丸めようとしてません?」


 そう疑問に思うサガミではあるものの、実際手放したらどんなことになるか想像もしたくないのだろう。


「本当はシンファに預けようかとも思ったんですけど、「使役」出来てしまった以上は自分が面倒を見ますよ。 というよりもこの子が怯えているように見えるんですよね。」

「こんだけ大人数な上に、狙ってる輩すらいるんだ。 助けて貰った恩恵もあって、お前のところから離れたくないんだろうよ。 それで、名前は聞けたのか?」

「いや、名前はって聞いても首を振るだけなんです。 おそらくは産まれてすぐにはぐれたので、名前を付けて貰えなかったのでは無いかと思います。」

「じゃ、お前が付けてやれ。 「使役」したなら名前が無いと不便だろ?」


 言われてみればとサガミは思ったし、なによりこちらの名前をまだ教えてすらいなかったことに気が付いた。 どうしようかと悩んでいると、不意に少女が机に置いてある紙に手をやった。 そして手先の中で滑らすようにしていた。


「つるつる。 面白い。」

「嬢ちゃんは紙の肌触りが好きか?」


 ユクシテットさんの言葉に首を横に傾ける。 どうやらそう言うことではないらしい。 だがその表情は喜んでいる。


「紙・・・ペーパー・・・素材・・・シルク・・・シルクか・・・」


 サガミなりの結論に至った後に、少女の肩を叩く。


「・・・?」

「まだ名前が無かったから、君に名前を付けようと思う。」

「名前?」

「そう。 これから自分の事を教えていくための名前。 今日から君は「シルク」と名付ける。」

「シル・・・ク?」

「それが君の名前だよ。」


 そう笑いかけた時に少女、シルクはサガミに対して指を指す。


「そうだね。 僕にも名前はあるよ。 僕はサルガミット・コーナン。 君の使役主、っていって分かるのかな?」

「サル・・・ガ・・・?」

「本名は覚えにくいから、サガミでいいよ。 これから色々とよろしくね。」


 そう言ってサガミはシルクの頭を撫でてやった。


「ユクシテットさん。 シルクの面倒を見なければいけないので、しばらくギルドハウスには顔を出しません。」

「おう、お前がいなくてもギルドは持つから心配すんな。 それにお前にはそれくらいはないとまたギルドハウスに来そうだからな。 取ってなかった休みも予て、その子の教育、しっかりやりな。」


 そうしてユクシテットに見送られて、サガミはシルクを連れてギルドハウスを去った。



「さてと、教育とはいえ、まず何から始めようかな?」


 そう思いながら未だに辺りを見回しているシルクの事を考えながら、一度家に戻ろうとした時、シルクの視線が一点にあった。 目を向けるとおもちゃ売場のようなお店だった。 その目線にサガミは軽く笑って


「とりあえずはシルクの興味を惹く物を探してみようかな。」


 竜人族が何に対して興味を持つのかにサガミも興味を持ち、2人はおもちゃ売場に行くのだった。


「それで、これが「ル」、これが「ク」。 で、これを並べると、ほら「シルク」の完成だ。」

「シルク! 名前!」


 シルクが自分の名前が出来たことを喜んでいた。 おもちゃ売場で気になっていたのはカレンダーのような捲れるタイプのおもちゃだった。 サガミはそれを買ってあげたが、せっかくだしと思い、文字パネルのおもちゃと、別の場所でノートと鉛筆も買ってあげた。 これで読み書きが出来れば意志疎通も出来るようになると考えての事だ。


 とはいえ意志疎通に関してはサガミが「使役」を使っている時点で、ある程度はシルクの思考が読めるようになっていたが、まだ言葉が分かっていなかったようでサガミでも分からない単語の羅列だった。 なので分かりやすくするために、自分達の言葉を教えることにしたのだ。


 そしてサガミはこの時点で思っていたのは、竜族は基本的に知能が高いということだ。 聞いた話では竜族が冒険者に語りかけてきたこともあったとか無かったとか。 そして人の姿をしているならば簡単に人の世界に溶け込めるだろう。 シルクの物事に対する飲み込みは早かった。 つまりそこまで根気よくは勉強を教える必要も無いのではないかとサガミは思っていた。


 そう思いながらサガミは、食べ物や道具をいくつか用意する。 そしてそれをシルクの前に置く。 シルクは首を傾げた。


「シルク。 今度は物について勉強をしよう。」


 そう言ってサガミは果物を1つシルクの目線に持ってくる。


「いいかい。 この果物は、色が赤色で丸い形をしているんだ。 見えるかい?」


 シルクは首を縦に振る 言葉自体は通じるので、言葉の意味は理解していた。 するとシルクは文字パネルを持って、そのパネルを見比べながら並べていく。


「あか、まる。」


 並べられたその文字を読むシルク。 その行動にサガミは驚いていた。 特にやり方を教えたわけでもないのにすぐに文字を把握して並べたのだ。 使役の効果か、それとも元々知能が優れているのか、どちらにしてもサガミにとってありがたい成長速度であった。


「よーし、それなら次はこれにしよう。 これは「四角の」「箱」だ。」


 そうして何度も頷くシルクは、パネルを探して、それを並べて、声に出す。


「しかく、はこ」


 その光景にサガミも微笑ましくやっていて、頭を撫でてあげていた。


「よしよし、シルクは賢いな。」

「えへへ。 撫でられる、好き。」


 シルクは嬉しそうにそう答えた。 そしてシルクの方から「くくぅ」というお腹の声が聞こえた。


「ははは。 一旦ご飯を食べようか。 昨日は肉を食べさせたから、今度は魚にしてみようかな?」


 そんなことを考えつつ、サガミはシルクの為に、そして自分のために夕飯を作りに行くのだった。


 夕飯も食べ終えてお風呂にも入れて、(幼いとはいえ女の子なので、サガミは洗うのに躊躇した。)先にシルクが寝たのを確認した後にサガミは、今後の計画を頭の中で練っていく。


「まずは服を買ってあげないといけないし、食料は・・・身体的成長速度が分からないからちょっと多めに貯蔵して・・・文字や数字は僕の持ってる本から引用したりすればいいから・・・シルクがもう少し大きくならないと冒険者稼業には戻れなさそうかな。 でもユクシテットさんも休みついでにって言ってたし、好意には甘えようかな。」


 シルクの寝顔を見ながらサガミは、大変な毎日になりそうだと思いながら床についたのだった。

主人公、子育て始めました。

とはいえ「子」ではないのですが。

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