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シンファと魔物達

「うわああああ!」

「ちょっと! 先輩は悪くないのよ!?」


広い草原のような場所でサガミは、今無数の魔物(全員雄)に追いかけられていた。 そしてそれをシンファも止められずにいた。 応戦すればいいものを、逃げ続けているのには訳があった。

そもそも何故このような事態になってしまっているのかと言えば・・・


――――――――――――――


「シンファが従えている魔物って、具体的にどんな風に生活しているんだい?」


始まりはそうサガミがシンファに質問したことからだった。


「私の面倒を見てる魔物達の事ですか?」


シンファの質問返しに、サガミも頷く。 シンファは魔物使いで、こことは違う空間で、色んな魔物の面倒を見ている。 しかもそれが魔物の生態に関係するものだったりするので、シンファにとっても、魔物研究をしている機関にとってもwin-winな関係だったりなかったり。


「うん。 だって全然違うものがいるんじゃないのかな? 魔物にだって種族みたいなのはあるだろうし。」

「あー、そう言うことですか。 実は私が面倒を見てる魔物のみんなは、特に空間の区切りを有して無いのですよ。」

「え!? それって魔物同士とはいえ大丈夫なの!?」

「私は魔物だからと言って差別はしません。 それが私なりの魔物達に対する礼儀だと思っています。」


眼鏡を上げる仕草に、サガミも想いは本気だと感じた。 魔物使いの多くは使い捨てが多いが、彼女の場合はそうとはならないらしい。


「そうだ。 折角ですから見に行きますか? 私の箱庭に。」

「それは嬉しいけど・・・いいのかい? 君だけが知る空間に僕が行っても。」

「確かに普通の人なら絶対に入れません。 中には稀少な魔物もいますので。 ですが先輩なら私は入れてもいいと思っています。」


それだけ信頼されているのだろうとサガミは思いつつ、シンファに案内されることとなった。


「それで、その空間って言うのは、どうやって行くつもりなんだ?」

「行く、という表現は正しくないですね。 私達魔物使いは普通は魔物を「召喚」することで魔物を呼び出しますが、それ以外はそれぞれ異なった空間で暮らしています。 その中でも私は特権扱いになっていまして。」


説明しながらシンファは、白いリモコンを取り出した。 そして2、3回ほどボタンを押すと、ポータルのようなものが浮かび上がる。


「ここから私が面倒を見てる魔物達がいる空間に繋がっています。 行き来自体は自由なので。」


そしてシンファとサガミはそのポータルを通る。 そしてサガミの眼前に広がる空間はというと


草原が辺り一面に広がっていて、その中で魔物同士が仲良く走り回ったり、力比べをしたり、時には魔法の図り合い等を行っていた。


「ああして見るだけでも、僕達と変わらないようにも見えるね。」

「ここにいる魔物達だけですよ。 他の所は半強制的に使役されたものなので、凶暴だったりするのです。」


シンファが解説し終わると、魔物の1体がシンファに気が付いたようで、トテトテと近付いてくる。 見てみるとそれは土鼠のようだ。


「よしよし。 お出迎えありがとうね。」


そう言うと、魔物達はどんどんと大群で近付いてくる。 どうやらシンファに気が付いて、一斉に向かった来ているようなのだ。 サガミはその地鳴りに身体を固定するのがやっとだった。


「こらこら、みんな最近あったばっかりじゃない。 そんなに急がなくても私は逃げないわよ。」


そうして一斉に魔物達に囲まれたシンファをサガミは遠くから見ていた。

普段はあまり感情を抑えていて、暗いイメージのあるシンファではあるが、魔物達と触れている彼女はまさしく年相応と言った所だろうと、サガミもホッとしていた。


彼女は誤解を受けやすい雰囲気のせいで、仲間内にも一線置かれている。 だがサガミはそんな彼女を差別もしなければ軽蔑もしない。 彼女には彼女なりの個性があるのだから。


そんな親のような目線で見ていたサガミに、1体の人型の魔物が肩を組んできた。 その人型は関節の曲がり方が少しおかしい以外は普通のドールのように見えた。


「あ、ドリトラ。 今日はその人を紹介したくて来たの。」


ドリトラと呼ばれたドールの魔物が首を横に傾けた。 口部分が動くようになっていないので、喋っているのかは分からないが、なにか意志疎通出来るものがあるのだろう。


「・・・やっ! ちっ、違うよ!? 先輩と私はそんな関係じゃないの! ・・・本当だって!」


サガミにはなにを言っているのか分からないので、シンファがなんでそんなに狼狽しているのかが分からない。


「・・・んっんー! と、とにかく紹介します! こちら私の冒険者としての先輩のサルガミット・コーナンさんです。 先輩。 こちらはドールドーラと呼ばれる魔物のドリトラです。 ある程度見た目で察していると思いますが、女性になります。」


そう説明をした辺りで、サガミが気になっていたことを口にする。


「えーっと、多分ある程度は紹介してくれるんだろうけど、魔物達の前と後ろで温度差があるのはなんでかな?」

「あー、あははははは・・・」


シンファは分かっているようだが、あまり触れない方がいいだろうという結論に至ったようだ。



「へぇ。 魔物でも食べ物の好き嫌いはあるんだね。」

「正確には食べられないものと言った方が近いでしょう。 魔物だって普通は同胞を食べたいなんて思いませんもの。」


そんなこんなで魔物達と馴れ合っていること数十分。 数は多くないが魔物達も段々と集まってきていた。 今は食べ物を与えてみて、食べるか食べないかの実験のような事をしていた。


「普通の動物を飼ってるのと意外と大差ないのかも? でも魔物だと考えると・・・うーん・・・」

「先輩、そう言うことはあまり言わないであげると嬉しいです。 魔物だって生きているのですから、そんな風に言われるのはさすがに嫌がってしまうので。」


そうシンファに言われてサガミは周りの魔物達を見る。 言われ慣れているのか特に気にしている様子は無かったので、サガミも気分は損ねてないのだなと思いつつホッとしたのだった。


するとそんなサガミの裾を、アーマージーロのモージローが構って欲しそうに引っ張っていた。


「あ、モージロー。 遊んでほしいのかい? それならここだとちょっと狭いだろうから向こうの方に移動しようか。」

「先輩、私も付いていきます。」


そう言って2人は立ち上がろうとしたのだが、モージローの引っ張る力が意外にも強かったのか、完全に立ち上がる事が出来なかったサガミは膝立ちなっている状態で後ろに倒れそうになった。


「おっ? とと?」

「先輩!」


そう言ってシンファはすぐにサガミの手を取ったが、シンファではモージローが引っ張っているサガミを支える力が無かったのと、サガミ自身もシンファを押し倒す訳にいかなかったのが相まって、シンファが前のめりになる結果になり、そして


「チュッ」


とシンファはサガミの額にキスをしてしまい、そのまま倒れ込んでしまう。


「・・・いってて。 大丈夫? シンファ?」

「・・・は、はい。 私は、大丈夫、です。」

「そっか、それなら・・・」


言葉の続きを言おうとしたサガミは、猛烈な殺気を感じて、シンファを抱えながら身体を横に回転させて、何者かの攻撃を回避し、その後に起き上がる。 そしてその殺気の根源が魔物達からだと発してるのを確認すると、サガミは嫌な汗をかくのだった。


―――――――――――――――――


そして冒頭の出来事へと戻る。


「ちょっと! みんな落ち着いて! なにも先輩を攻撃すること無いでしょ!?」


そんなシンファの声も、サガミを追いかけている魔物達には一切届いていない。 そんな状態でもサガミは必死に防御と回避を徹底していた。 いくら魔物とは言え、シンファがしっかりと面倒を見ている魔物達なので、下手に怪我をさせてはならないと言うのが、サガミの考えであるし、自分にもなにか悪いところがあったのかもしれないという思いで自分を守ることに専念しているサガミであった。


「ああもう・・・1体だけでも暴走を止めるのは大変なのに、あれだけの数は私でも対処出来ないわよ・・・」


シンファの言葉にサガミは青ざめるが、シンファ側にいた何体かの魔物がシンファの前に立った後に、何かの呪文を唱えたようで、サガミを追い掛けていた魔物達が眠ったり突っ伏したりその場で動きを止めたりと、サガミを追い掛けられなくなっていた。 そしてずっと逃げていたサガミも息切れをおこして、その場で膝を付いた。


「な、なにが起こったのかな?」

「動きを止めてくれたんですよ。 先輩を追い掛けてた魔物達を。」


そうして止めたであろう魔物達が、追い掛けていた魔物達に対してなにか言っているように見えるが、シンファは言葉が分かっても、サガミにはただ吠えているようにしか聞こえないのだ。 そしてそんな魔物達の中にシンファも加わるのだった。


「みんな、私が好きなのは分かるけれど、それとこれとはしっかりと区別を付けてよね。 じゃないと私、嫌いになっちゃうから。」


そう言うと魔物の一部、主に大型の魔物がショックを受けた表情をしていた。 好いてる人間から「嫌い」と言われれば、人間も魔物も関係無いらしい。


「それだけ魔物に好かれてるなら、いいんじゃないかな? 僕もちょっと不注意があったし。」

「先輩、そこは普通に怒っていいんですからね?」


シンファが言っても無駄なのだろうなと思いつつも、そのサガミの優しさに笑みが零れるシンファであった。

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