Bランク昇格試験(結果)
サガミ達が馬車を走らせる事丸1日。 ようやくと自分達の街に入れたサガミ達は、急いでギルドハウスへと馬車を再度向かわせた。 そもそもここまでが試験ではなく、納品するまでが試験なので、ギルドハウスに向かい、その鑑定が正しいと判断された後で納品をされる。 ここで油断すると折角の報酬も水泡に帰すのだ。
そして馬車がギルドハウスの前に停まり、急いで卵を下ろした後に、サガミは豪快にギルドハウスのドアを開けた。
「ユクシテットさん!」
サガミは目的の人物を大声で叫ぶ。 その声にギルドハウスにいた冒険者達が入り口の方を見ている。 そんな中でもサガミは堂々としているし、ユクシテットもすぐにそうだと分かった。
「お帰りサガミ。 その様子なら、問題は無さそうだな。」
「ユクシテットさん。 鑑定をお願いします。」
「ああ、ブツは外か。 お前らは席で待ってろ。 すぐに結果を出す。 鑑識班! 早くしろ!」
そうしてユクシテットを先頭に、何人かの人間が外に向かった。 サガミ達はいつもの、ギルドハウスの中でもかなり奥にある席で待つことにした。
「鑑識ってどこまでの事をやるんだろうね?」
「サルガミット君でも、分からないのですか?」
「一応「鑑定許可証名書」は取ったけど、それ以上は「鑑定士以上の職業、もしくは「鑑定眼」で無ければ受けられません。」って言われたっけなぁ。 僕の眼はあくまでも「目標索敵」と「敵観察」だから、鑑定って訳じゃないんだよね。」
「それでも許可書を持ってるのも凄いですよ。 ちゃんとした知識を身に付けている「眼」関係の人でも取るのが容易ではない書類ですよ?」
「本当に師匠は自分にとっての師匠ですよ。」
そんなことを話していると、ユクシテット達がサガミ達の所に戻ってきた。
「サガミ。 確かにあの卵はオオハネードの卵だと認定された。 そしてその結果をその指輪に登録した。 後数秒もすれば・・・」
そのユクシテットの言葉の後に、サガミの指輪からディスプレイが現れる。
『サルガミット・コーナン様。 見事試験に合格したことをお伝えします。 本日からあなたはBランクとなります。 試験お疲れ様でした。』
こう明記されているのを確認した後に、サガミは椅子に深く座り直した。
「・・・ふぅ。」
「どうした? 極度の緊張から解放されて、気が抜けたか?」
サガミ自身はそんなことを一切思っていないのだが、流石に身体は正直だったようだ。 特にサガミにとっても、自分がBランクに上がれたことに実感が無いようだ。
「ユクシテットさん。 私とシンファちゃんはそのままBランクになりましたけど、ネルハちゃんについてはどのように?」
「行く前に説明はしたと思うが、ネルハだけはすぐにBランクに上げられん。 だがCランクで違反行為を行わず、しっかりと依頼をこなせば、半年でBランクに昇格出来る。 ま、それまでは他の奴らと同じ様に下積みするのが、今のネルハの状態だな。」
「分かりました。 よーし、師匠に追い付けるように、自分も頑張りますよ。」
ネルハは俄然やる気になったようだ。
「それでユクシテットさん。 Bランクになったことで、行ける依頼やより強暴な魔物と戦うことになりますよね? 素材ももっといいものを取り扱えるようにもなるし、ランクの都合で出来なかった試験もあるんです。 なにかそれを知れる資料のような・・・あてっ!」
サガミが復活した瞬間にそんなことを喋ることに呆れたのか、ユクシテットはそんな風に語るサガミの額にデコピンを食らわせた。
「ったく。 お前は少し位自分を誉めたらどうだ。 最近少なくなったBランク試験に合格した「調成師」なんだぞ? 調成師はよっぽどじゃない限りBランクにならなかったと他のギルドハウスからの話に出ている。 お前はそんな奴らよりも優れているって証明したんだ。」
「いや、それとこれとは・・・」
「よし、ならこうしよう。 今日は俺がお前に依頼を出す。 夕方にこのギルドハウスに来い。 席はここで構わん。 他のみんなもそれで頼むぞ。」
「あの、口頭依頼は・・・」
「とりあえず出てった出てった。 お前達は適当に街で時間を潰してこい。 それとBランクに関しては本日からって言ったが、まだ正式にはなってないから、買い物は別の日にな。」
そうしてサガミ達はギルドハウスを追い出される形で、外に出されたのだった。
「街で時間を潰してって言われても・・・みんなはどうする?」
「私は薬局に行きます。 Bランクで使える薬草の品揃えを見ておきたいので。」
「私も魔物達と戯れに行ってきます。 定期的に遊んであげないと拗ねてしまう子がいるので。」
「自分は道具屋に行きます。 まだ買い揃えていないものが多いので。」
「んー、じゃあ僕も武器屋にでも行こうかな。 もう現地で生産出来るようになってからはほとんど行かなくなったけど、素材の鑑定の勉強にはなるからいいかな?」
そう決定付けられ、みな四方に分かれたのだった。
そして夕刻になり皆が集まり、ギルドハウスのいつもの席に行くと、そこには普段なら並べられないような量の料理がズラリと並んでいた。
「こ、これは・・・」
「お前に最初に話すと、やれ「代金を払う」だ「こんなに盛大にしなくても」だ言うだろうからな。 こっちで勝手に用意させてもらった。 代金はギルドハウス持ちだ。 今日くらいはなにも気にせずに飲み食いしてろ。」
目の前の料理に唖然としていたサガミの所に、ユクシテットが説明していった。 こうなったユクシテットには何を言っても意味がないと悟ったサガミは、大人しく席に座る。 他のみんなもそれにならい席に座った。
そしてサガミは近くに置いてあった飲み物の入ったジョッキを手にとって、3人を見る。
「えーっと、こうして僕がBランクに上がれたのは、みんなの助力があってこそです。 そしてユクシテットさんの粋な?計らいで、こうした場所も提供させてもらいました。 うーん、自分が祝われるって凄く複雑だけど、僕やマニュー、シンファのBランク昇格を祝して」
『乾杯!』
こうしてサガミ達の小さな宴会が始まった。 ジョッキの中身は、ジュースとお酒が半々で入っている。 冒険者として、職業を与えられた時点で大人と見なされるこの世界では、ごく普通の事である。 とはいえ飲めない冒険者だっているので、一概に言えない。
それにお酒といっても彼らに用意されているのはカクテルや酒精の薄い麦酒であって、それよりも強い酒は、もっと年齢を重ねなければ出してもらえないという規則はある。
「それにしても自分の場合は皆さんの甘い蜜を啜っているようなものなので、ここにいてもいいのか複雑ですよ。」
「ネルハ、今はそんなのいいのよ。 先輩のクランメンバーなんだから、誰に文句言われても関係無いわよ。 あ、お酒は初めて? だったらこれが薄くて初心者にオススメなんだけど・・・」
ネルハとシンファが交流を深めているのをサガミは遠目に見ながら、並べられている料理を食べる。 出されているのは特別なものではなく、食堂で出されている一般的なものばかりだが、量と数を見てまるで別の料理にも見えてきている。
「サルガミット君。 お料理をお取りしましょうか?」
「大丈夫だよマニュー。 君も料理を楽しみなよ。」
「そ、そうですか? それでは私も・・・」
そうして静かに時間は過ぎ去っていく。 そうサガミが思っていたのは最初だけだった。
「マ、マニュー。 大丈夫?」
「私は大丈夫ですけれど、サルガミット君の方はどうですか? ちょっと身体がボカボカするんです。」
それはお酒を呑んだからだろうとサガミは感じていた。 そんなに量と一気には入っていない筈だが、マニューはどこかフワフワとしていた。 そして次にマニューがとった行動は
「うー、暑い・・・身体の芯まで暑くなってます・・・」
そう唸り始めながら、マニューはロングスカートに手を伸ばし、チャックを下ろした。 座っているため落ちることは無いが、少し動くだけで下着が見えてしまう。
「ちょっ!? マニュー!?」
あまりの奇行と女子の下着を見まいとしたサガミは目を逸らした。
「少し涼しくなりました。 でもまだ暑いです・・・上も同じ様にしてしまえば・・・」
「そ、それは流石に駄目! お願いだから考え直して!」
「あー、マニュー先輩ズルいですよぉ。 私もサガミ先輩に構って貰いたいですぅ。」
呂律が微妙に回っていないシンファがサガミのところに寄っていく。 具体的にはマニューの邪魔にならない程度に隣に居座っている感じだ。
「えへへぇ。 先輩。 私の飼っている魔物達も、私に触れて欲しくってぇ、みんな私を見るなり近付いてきてくれるんですぅ。」
「そ、そうなんだ。 でもそれとこれとどんな意味が・・・」
「私だってぇ、甘えたい時もあるんですよぉ。 ほらほら先輩。 私も撫でて下さいぃ。」
そう言われたサガミは、仕方なくシンファの頭を撫でる。 あまり強すぎるといけないので、細心の注意は払っている。
「むふふー。 先輩に撫でられてますぅ。」
嬉しそうにするシンファをみてこれでいいのかとサガミは思っていると、逆隣から衝撃が走る。 何事かと思えば、ネルハが肩に頭を乗せてきたのだ。 ネルハが座っている場所の前の机には何本かのジョッキがあり、おそらく酔い潰れてしまったのだろうとサガミは思った。
「・・・師匠・・・自分は師匠に会えたから、今の自分があるんです。 感謝しても・・・しきれませ・・・ZZZ」
寝息をたてていることからどうやら寝言でそのようなことを言っているようだ。 しかしこうなってくるとサガミは動くことが出来なくなってしまった。 服を脱ごうとするマニュー、頭を撫でているシンファ、頭を肩に乗せて寝てしまったネルハ。 動けようものがない。
「おーい、サガミ。 宴会の方はどうだ・・・おうおう、女子3人も酔い潰して侍らせて、ご満悦か?」
「そんな冗談を言わないで助けて下さいよ。」
「別に良いじゃないか。 それも特権だろ?」
特権云々ではないんだけどとサガミは思いつつも、どうすることも出来ないので、1人ずつ動かして、そのまま宴会はお開きとなった。 折角だからとユクシテットはギルドハウスの一室を貸してくれた事に感謝するサガミ。
「酔い潰れた女子の寝込みを襲うなよ?」
「僕をなんだと思ってるんですか!」
冗談交じりに言うユクシテットに見守られながら、寝てしまった3人を部屋にいれて、サガミも貸して貰った別の部屋で夜を明かすのだった。




