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Bランク昇格試験(様子見)

 宿に泊まった翌日、サガミ達はオオハネードが巣を作っている山に登り始めていた。 ただし今回は下見と様子見を兼ねているので、武器などは最小限で留まらせている。 とはいえこのメンバーにはすぐに武器となるものを作れる職業持ちが2人いるし、なんだったら魔物も呼べる人材だってある。 例えオオハネードでなくても、すぐにはやられないだろう。


 なので今回はオオハネードの動向を数日かけて観察するのが目的だ。


「周りに居る人達は、みんなオオハネードの卵が目的でしょうか?」

「そうなんじゃないかな? ほら、明らかに大きめの籠を背負ってる連中も居る。 そんなことをするのは実際に出来ると思っているからなんだ。」


 サガミと周りに居る冒険者。 目標は同じでも目的は明確に違う。 ここで協力関係にはサガミ達は決してなることはないだろう。


「先輩、これだけ木が密集していると、近づくだけでも大変ですよ。」

「でもこの木達を無くしちゃうと、オオハネードから丸見えになっちゃいますね。」

「木に隠れつつ、オオハネードの巣に近づいて、卵の採取、撤退っていうのが理想形だけど、オオハネードはそれを許さない。 最初に取るのは、巣の近くの木の伐採をオオハネードは行っているから、巣まではそこから更に500mは隠れれる場所を無くしている。」

「それならどうするんですか?」

「言ったでしょ? しばらくは様子見。 オオハネードの巣から確実に卵を取れる状況を見ないことには、僕らも近付くことも出来ない。」


 彼らは動向の観察を優先にするため、巣には近付かない事にした。 サガミの頭には「これは試験だ」という気持ちでいっぱいだ。 周りは気にしていられないのだ。


「周りの人はどう思っているのでしょうか?」

「僕の見立てだと、半分は実力試し、半分は利益目的って所じゃないかな? でもこういったらあれなんだけど、全員オオハネードには勝てないんじゃ無いかな?」

「どうしてですか?」

「まずオオハネードの事を全く調べてないのが見え見えだ。」

「それは私も思いました。 敵に挑むのに、耐性付与とか攻撃するための攻撃とかがオオハネードに対して貧弱過ぎます。 あれだと羽を仰いだだけで吹き飛ばされてしまいますよ。」


 そう答えるのはシンファ。 彼女は魔物を従えることが出来る。 故に、魔物がどれ程の強さなのかも大体なら把握が出来るのだ。


「私の回復があるのでいいですけど、他の人達はそう言うわけでは無いですよね。」

「助けにいこうとしてはいけないよマニュー。 協力関係が無い以上、下手に助けに行くと相手の思うつぼだよ。 今回は我慢して貰えると嬉しいかな。」

「そうですね。 今回は試験で来ているのですから。」


 聞き分けが良いのはマニューらしい。 そんな中でネルハは木に印を付けていた。 しかも普通の人には見えない程度に。


「師匠、印を付けるのはいいですけど、自分には意味があるのか分からないです。」

「その印は自分達がどうやって来たかを印すためのものだよ。」

「なるほど。 もし飛ばされた時に、大体どの位置にいるのかを把握するためですね。」

「そういうこと。 後はオオハネードの攻撃範囲も兼ねてる。」


 サガミの見解としては、巣に近付く前の森から、果たしてどのくらいの風が来るのかというものだ。 飛ばされた距離によって色々と策をサガミは考えるからだ。


 そうこうしているうちに山頂付近に到着する。 今オオハネードの姿は存在しない。


「ネルハ、時間は?」

「午前10時です。」

「餌を取りに行ったのかな。 いないというのは都合がいいけど、片親なら離れるのはあまり得策じゃない。 でもこの山ではオオハネードの食料になるものが無いんだろう。 多少の危険を晒すことになっても、餌は取りに行かないと。」


 そんなことを話している間にいくつかのパーティーが卵を取りに巣に向かっていた。


「そういえばオオハネードだと卵ってどのくらい産み落とすんだろう?」

「大鳥の魔物ですと直径1mのものを大体6~7個ほど出しますよ。」

「え? そんなに小さいの? 大鳥だからもっと大きい卵かと。」

「大鳥の子供はそのくらいの大きさですよ。 先輩。 でも大きさと重さがあるので、どっちみち普通には運べません。」


 シンファの言う通りだとは思うが、取りに行こうとしているパーティーが徐々に巣に近付いていく。 すると巣まで後数cmといったところで、大勢のパーティーが一気にこちらにまで吹き飛ばされて戻ってきた。 上空や空の左右を見てみてもオオハネードの姿は見えない。 だが確実になにかはあるようだ。


「・・・僕も近付いてみよう。」

「師匠!?」

「危ないですよ! サルガミット君!」

「そうです! それにそうしている間にオオハネードが戻ってきたら・・・」

「でも敵の素性を知らなければこの試練はクリアできない。 それにこういった事態は、Bランクになれば当たり前だと思うんだ。 大丈夫、今回は僕だけで行くから。 もし戻ってきたら回復をお願いね、マニュー。」

「はい。 ・・・お気を付けて。」


 女子3人に見送られながら、サガミは目の前で吹き飛ばされている光景を見ながらも、少しずつ、少しずつ近付いていく。


「・・・もうこの距離からでも風が吹いている・・・残り香・・・じゃあ無いね。 なら攻撃があるのはおかしいし。」


 そう言いつつもサガミは吹き飛ばされないように近くの岩から少しずつ成分を取り出して、重りを作っていく。 自分の足も重たくなるが、それ以上に確かめたいものがあるのだ。


「卵がどんなものか、せめて拝ませて貰わないとね。 分からないと目的も果たせない。」


 そうしてオオハネードの巣にどんどん近付いていく。 そして重りを付けて気が付く。 この風は攻撃が主でなく、吹き飛ばす為の強風が強いとサガミは肌で感じ取った。 しかも中心に行けば行くほどその比率は変わっていく。


(まるで大嵐みたいだ。 これだけの風をわざわざ自分がいない時に残しているということは、余程卵が大事なんだろうな。)


 サガミは重りでどんどん重たくなる足を引きずってでも歩いていき、ようやく巣の近くにまでこれた。 巣自体もそれなりに大きいので、中までは確認できない。


「竜巻なんかの中心は大体無風だって聞くけど、これはそう言う訳じゃなさそうだ。」


 サガミが考えたのは竜巻ではなく、ドーム状に包み込む形だった。 つまり卵をエリアの中心として、そこから突風を放っているのだ。 後ろを見ても、サガミ以外は誰も入ってこれていない。 今回は収穫はしない。 全ての確認のために来ただけなので、サガミはこのまま戻るだけだと考えた。


「どうしようかな。 重りがついてるから歩いて戻るには時間がかかるけど、外して飛ぶと大怪我になっちゃうから、それは流石に・・・」


 そう考えていると、サガミが感じていた風が「ピタリ」と止んだ。 何故と思う間もなく、空が暗くなる。 時間はまだ午前中、先程までは風の中にいたとは言え、空は晴天そのもの、雲1つないと言っても過言ではない。


 ならばなぜ? その一つの答えを導き出すために、サガミは空を、正確には上を見上げる。 するとそこにあったのは大きな翼を広げた緑の鳥だった。

 そしてその答え合わせをサガミは行った。


「オオハネード・・・! 巣に帰ってきたのか!」


 風が消えたのは、自分が直接守るからだと直感し、すぐさま重りを外す。 そしてサガミは臨戦態勢に入りつつ、後退をしていく。 今回は戦いに来たわけでも、卵を取りに来た訳でもない。 なので無駄な戦闘はサガミとしても避けたいのだ。


 そしてそんなことも知らずに突っ込んでくる他のパーティーがあるが、オオハネードはそのパーティーに突風を食らわせた。 近くにいた為かサガミには当たっていない。


「オオハネード! 僕達も確かに卵の採取が目的だ! だけど今は取らない! だが必ず取りに来る。 その時は戦うもの同士だ! 僕自身の目的のために、君の卵を頂きに来る! 君はその卵を守るのが使命だろう。 必ず君の卵を貰い受けるからな!」


 そう言い放つサガミ。 サガミ自身は魔物使いではないので喋り合うことは出来ない。 だがそれでも言っておきたかったのだ。 自然界では当たり前の事だから。


 そしてそんなサガミをオオハネードは風で吹き飛ばした。


「う? うお? うわあぁ!」


 そして風に乗せられたサガミは、マニュー達の所に帰ってきた。


「サルガミット君!」

「先輩!」

「師匠!」


 三者三様から声がかかるが、サガミは怪我をほとんどしていなかった。 どうやらサガミにだけは、突風ではない風を送ったようだ。


「みんな、心配かけてごめん。 僕は大丈夫。」

「それは良かったです。 それにしても先輩にだけああも優しいなんて、なにがあったのでしょうか?」

「さあ? でも、まだまだ油断は出来ないよ。 観察再開だ。」


 そうしてサガミ達の地味な観察は続くのだった。

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