当然目は付けられる
クランが結成された後、ユクシテットに声をかけて、とりあえず今回は解散としたサガミ達。 翌日改めて集うことにしたのだった。
「さてと、クラン結成に伴って、自己紹介・・・と行きたかったけれど、顔見知りなら、あんまり言う意味はないかも。 とりあえずは軽く言おうかな。」
そう言って席に座っていたサガミは立ち上がった。
「僕はサルガミット・コーナン。 名前は長いから「サガミ」ってアダ名がある。 職業は「調成師」。 そこそこ謎の多い職業だけど、生成する分には役に立ってるし、敵を見たりも出来るんだ。 自分なりに頑張るつもりだから、足は引っ張らないよ。 それじゃあ次。」
そう言ってマニューの方に手を差し伸べる。
「はい。 マニュー・アンバスタ。 職業は数が少ないと言われている「治療師」になります。 主に回復が専門となります。 ですので、ええっと、戦うのが苦手です。 ので、戦いの方は皆さんにお任せすることになります。」
マニューが自己紹介をし終わった後にシンファが眼鏡を「クイッ」とやった。
「次は私ですね。 シンフォニア・グレナース。 長いのでシンファで大丈夫です。 私の職業は「魔物使い」。 ここにはいないのですが、別の場所に私が手懐けた魔物がいます。 普段は多くは呼ばないので、「こういったのが必要だな」と思ったら私に言ってください。 後魔物の情報もありますので、分からなければ聞いてください。」
そこまで説明をしてシンファは着席する。 そして最後となったネルハが立ち上がる。
「自分はネルハ・クウォーター。 職業は師匠と同じ「調成師」になります。 まだ冒険者に成り立てなので、至らないところが多々出てくるとは思いますが、是非ともご助力を、よろしくお願いいたします。」
全員の自己紹介が終わったところで、サガミは改めて残りの3人を見る。
「うーん、全員女子だって考えるのは、得していると言うのか、男友達がいなくて寂しいと言うのか・・・」
「普通はこんな状況だとなにかといちゃもんつけてきそうですよね。 ハーレムだなんだって。」
「僕はそんなつもりで誘った訳じゃなかったんだけど・・・」
そんな感じで落胆をするサガミ。 しかし事実は受け入れなければならないとサガミは心で思っている。 そんなことも兼ねてサガミはある依頼書を提示した。
「先輩、それは?」
「僕がクランを結成しようと思った目的はBランカー昇格試験の為なんだ。」
「確か、条件の1つに、数人でパーティーを、組むのが、ありましたね。 でも、サルガミット君なら、すぐにでもいけそうなのですが?」
マニューはそう聞いているが、サガミはため息をついて
「僕が調成師だからって理由で優遇が損なわれるんだよ。 即席パーティーなんてそんなものだよ。」
サガミは苦々しい気持ちになりながらそう返す。 その言葉に反応したのは、同じ調成師であるネルハだった。
「師匠。 自分は師匠が頑張っている姿を、影ながら見ていた事があります。 自分の、ううん、この世界の「調成師」になってしまった人達のために、少しでも他の人に認めてもらおうと、日々頑張っていたじゃないですか。 一人孤独にひたむきだった姿を、今しっかりと見せるべきです。」
そのネルハの真剣さにサガミは驚くしかなかった。 その呆けた顔の後ろからなにかが頭にのった。
「言っただろ? お前はストイック過ぎるんだよ。 お前の頑張りは伝わってるんだ。 手を抜いたところで、怒る奴はよっぽどの奴なんだよ。 お前は強いんだ。 胸張っていけ。」
後ろにいたのはユクシテットだった。 依頼書を渡したのに、未だにギルドハウスにいることに疑問を持ったので、そのまま来たのだろう。 その行動にサガミはただただ苦笑するしかなかった。
「確かにこれだけの人に言われたら、僕もなにも言えないですよね。」
「おう、とっとと依頼を遂行してこい。 お前達なら楽勝だろ。」
「そうですね。 今回の目的は、複数人での討伐の役割を知ることですから、油断しなければ勝てますよ。」
「ああ、信頼してるぞ。」
「それじゃあ行こうか、みんな。」
『はい!』
そう言ってサガミ達は軽快にギルドハウスを出たのだった。
そしてその日の夜の内にギルドハウスに帰ってきた。
「うん、ごめん。 あまりにもあっさりしすぎたね。」
「まあまあ、今回は試運転みたいなものでしたし、どんな風に動けばいいかは、もう把握できたじゃないですか。」
自分の失敗だと言わんばかりに落ち込んでいるサガミを、シンファは慰める。
確かに実際に受けに行った依頼は、山の中に熊の魔物が出没したと言うことによる討伐依頼で、その熊も大型ではあったものの、罠を張り、そこを狙えば簡単に倒せる魔物だった。
実際には「調成師」であるサガミの「超能生成」で作った短剣を当てるために、同じく「調成師」のネルハの「高速生成」で作った落とし穴に嵌めるために今回のために呼んでおいた魔物をシンファが操っていた。 敵の正体が分かった途端に作戦を早急に考え、こういった作戦を立てたのだ。 「好物があるかもと油断させて一気に叩く」と。
案の定魔物もなにも考え無しにシンファが操る魔物の後ろを付いていき、そしてネルハが作った罠にかかり、最初に上から巨木を頭に落とした後にサガミが短剣で止めを指したのだ。 この時にマニューはなにもしていない。 というよりも彼女の職業は「治療師」。 つまり回復がメインとなるためほとんどなにもしなくても良かったのだ。 それだけではと言って、魔物の素材解体位はやったが。
そんなわけで、案外いいチームなのではないかとサガミは思ったのだった。
「うーん。 今度は少し難しい依頼でもいけそうかな。 マニューの「治療師」としての力も知りたいんだよね。」
「師匠、なんだか不完全燃焼な感じがしてますね。」
「いつもは1人でこなしていたから、こうして役割分担で依頼が終わると、何て言うか・・・うん。」
おそらく今のサガミの心境としては「僕が今まで苦労してきたあれそれはなんだったんだろうか」という思いがあるのだろう。 1人でやっていたからこその苦労もあるだろうし、1人だから色々と最善策を考えてきたのに、それがアッサリと覆されるような思いになっていたのだ。 腑に落ちていないというのがサガミの今の心境である。
「物足りないと思うのは仕方ない事ですよ。 師匠だけじゃなくて、自分達も力をもて余してますもの。」
「それなら俺達と冒険にいかねぇか?」
サガミ達のいるテーブルに声をかけてきたのは2、3人程の上半身裸の男達だ。 鍛えた身体を見せびらかすようにしているのだろう。 まさしく力のある男達と言わんばかりだった。
「俺達、これからある魔物を狩猟しに行くんだけど、良かったら一緒にどうだい? 俺達の職業は狩人関係だから、サポートをお願いしたい・・・」
「・・・はぁ。 厄介なのに絡まれたなぁ・・・」
「あん?」
サガミの完全に後ろに立っていたようで、座っているサガミには男達も気が付かなかったようだ。
「は。 誰かと思えば不遇職業を自ら志願したって言うサルガミットじゃないか。 こんなところでなにしてんだ?」
「僕は彼女達と次の依頼についての相談をしてたんだ。 勝手に割り込んできたのはそっちでしょ? 確かにクランでしかパーティーを組めないなんてルールも無いから、誘うのは勝手だけど、彼女達の意見も聞いてからにしたら?」
そう言うとサガミは先程までなにもなかった場所から数個の木製のコップと、ガラスで出来たティーポットを用意していた。
「お前がクランだぁ? 調成師がリーダーなんて聞いたことが無いぜ! なぁ嬢ちゃん達よぉ。 こんな奴のクランなんか辞めて、俺達のところに来いよ。 もっといい境遇を与えてやるからよぉ。」
当然かの如くサガミを無視して他の3人を、品定めするかのように見ていた。 そんな中でサガミはティーポットに水を入れていた。
「お、そっちの緑髪の子、もしかして「治療師」のマニュー・アンバスタじゃん? どう? 俺達と一緒にくれば、多分みんなの人気者・・・」
「私はお断りします。 ちやほやされるためにこの職業になったわけではありませんので。 それに「治療師」は「回復係」の上位互換なだけだと私は思っていますので。 人混みは苦手なのです。」
着眼点の良かった男をマニューは言葉巧みに躱していた。
「君職業は? 僕が当ててあげよう。 そうだなぁ。 メガネはかけているけれど本は持ってないし・・・鑑定士なら何かしらのアイテムはある筈・・・分かった! 君は「管理者」だね? 図書関係の。」
「残念ながら全然違います。 あなたは人を見る眼がまるで無いですね。 的外れ過ぎて相手の女の子を逆上させた経験ありますよね?」
自分の適性職業ですらない職業を言われて不機嫌になるシンファ。 それには男もぐうの音も出ない。
「君はここ最近入った冒険者かい? だったら俺達のクランの方が、色々と学べると思うぜ?」
「生憎自分も「調成師」ですので、自分は師匠に教えて貰います。 お誘いは嬉しく思いますが、ご縁がなかったということで。」
ネルハも虎視眈々とした台詞を言っていた。 因みに最初の部分以外は全く心が籠っていない。
「交渉決裂だよ。 さ、とっとと退いてくれない? 飲み物を渡せないじゃないか。」
そう言ってサガミはティーポットから入れた水をみんなに渡そうとした瞬間、最初に声をかけたマッチョな男に睨まれる。 ここではリアルファイトは厳禁なので、掴みかかることが出来ないのを悔しそうにしていた。
「サガミぃ・・・俺らよりも・・・年下の癖に・・・随分と・・・生意気なことを・・・するじゃないか。」
「いや、僕はなにもしてないよ。 あんた達が勝手にやったことであって、結果の云々は知らないさ。 それよりも早く退いてくれないかな。」
「調成師の・・・癖に・・・こんなことを・・・しやがって・・・」
マッチョな男は先程から息が絶え絶えだ。 良く見れば他に声をかけていたメンツも苦しそうにしている。
「こんなことってどんなことさ? 僕が女の子だけのクランを作っていること? それとも君たちの周りの空気を奪ったこと?」
屈強な男達は膝をついて、呼吸が荒くなっている。 サガミに触れてすらいないのに、だ。
「だから早くこの場から去って欲しいんだよ。 でないと酸素欠乏症で死ぬことになるよ?」
その言葉に恐怖を覚えたのか、男達はその場を逃げるように去っていった。 そしてサガミは自分のコップにも水を入れて、そのまま飲み干した。 その後にみんなを見ると、驚きの表情をしていたので、目のやり場に困るサガミだった。
「あーっと、みんな、その・・・」
「助けてくれてありがとうございます、サルガミット君。」
返事に困っているサガミに対して、マニューはお礼を述べたのだった。
「そうですね。 先輩の事を馬鹿にしていたなら、先輩に返り討ちにあっても、おかしくないですもんね。」
「師匠、もしかしてこれも造りました?」
サガミの醜い姿を見せたにも関わらず、相変わらずな彼女達に、少しだけホッとしていたサガミがいたのだった。
「サガミ。 昇格試験の申し込みについてだが・・・どうした?」
「いえ、なんでもないです。 それよりもどうしました?」
「うむ、分かっているとは思うが、ギルドハウスとして、念のため確認のために来たんだ。 説明を開始するぞ。」
今回はサガミの「本気で怒らせると相手の命を省みない」という性格を出したつもりなのですが、伝わったでしょうか?




