神様に能力をもらったのですが、使い方がわかりません
頭上にあるはずの雲一つない澄んだ水色の空は、なかった。その代わりに、真っ赤な色が目に映った。
まるで血みたいな、綺麗な真紅。思わず、見惚れていた。
「…空が、赤い?」
数秒経ち、驚きが遅れてやってくる。。
慌てて家の中に戻ろうと、一歩踏み出す。その足は空を切った。
「え?なに?は?え?」
落ちていく。手を伸ばしても、何も掴むことができない。視界が真っ白に塗りつぶされていく。当たり前に目にの前にあった家も、踏みしめたはずの地面も、赤くなっていた空も、もう何も見えない。ただ、落ちていく、落ちていく、落ちていく。‥
(ああ、これ、死んだな)
不思議と、納得していた。
走馬灯なんていうドラマチックなものは、全く見えてこない。
だんだんと、意識が遠くなって…
そこで目が覚めた。
俺はなぜか寝ころがっていた。家のベッドの中ではなく、真っ白な世界の真ん中に。
空も、地面も等しく真っ白で、地平線と空の境目がわからないくらいだ。だけど、さっきまでの記憶は残っている。
「今度は、なんなんだよ‥」
さっき落ちたのが夢ではなかったとすると、ここは差し詰め死後の世界といったところだろうか。
…死んだのか。短くて薄い人生だったなあ。もう少し長生きしたかったな。せめて友達と彼女くらいできてから死にたかった。
このあと、どうなるんだろーな。もしかしてラノベ展開とか?
異世界の女神様とか出てきちゃって、チート能力とかもらって魔術学校なんかに入って、美少女とイチャイチャしたりして、異世界無双できたりするのかなー。
半ば冗談のようにそんなことを思っていると、空の上に、何かの顔が浮き出てきた。
誰か、ではなく、何か。それは人ではなく、獣でもなく、機械でもなく、人間の定義しうる存在ではないように思えた。あえて言葉を当てはめるならば、
「神…」
そんな言葉が自然とこぼれ落ちてきた。
「おいおい、マジかよ‥」
これ、マジでラノベ展開じゃねえか。
「突然こんなところに来て驚いているかもしれないが、安心しろ。お前たちは死んだわけではない。私の存在を受け入れされるため、一時的に隔離をしただけだ。他の人間も皆同様に、その白い世界にいる。まあ、互いにみることも触ることもできないから、違う世界にいると言っても差し支えないがな。」
いきなり、上に見える顔が喋り始めた。
なんだよ、俺だけじゃないのかよ‥しかも人類全員かよ…。
期待に反する展開に肩を落としたが、まだその顔は話し続ける。
「単刀直入に言うと、私は神だ。といっても、もともとこの世界にいた神ではなく、別の世界の神だったがな。だが、かの世界での私の生は終わった。しかし、なぜだか知らぬが、この世界神の子として転生したのだ。確か親は、ゼウスとか言った名前だったな。」
‥全く状況がわからない。一体この「神」は何を言っているんだ?
「しかしこの国の神はみな弱くてな。生まれ変わってまもない私に簡単に殺されてしまった。これでは、この世界私の同類はいない。つまり、孤独なのだ。退屈なのだ。わかるな?」
そう言って深くため息をすく神様。
いやいや、殺したのはお前だし、全部自分のせいだろ。こいつは馬鹿なのか?
「ということで、お前らで遊んでみることにしたのだ。なに、この世界を前の私の世界のようにしてみるだけだ。見たところ文明はこちらの方が進んでいるようだが、この世界には能力が存在しない。そうだな?」
遊ぶ?能力?どんどん出てくる情報に頭が追いつかない。
「お前らの反応を見るに、あっているようだな。取りあえず一人一人に能力を与える。ありがたく思え。その空間で、能力の訓練をしておけ。そこでは、睡眠も食事も排泄も不要だ。お前らの世界で言う一ヶ月間を、訓練期間としてやろう。まあ、せいぜい努力して、戻ったときに殺されないよう励め。ああ、戻ったとき、世界がもとのままだなんて思うなよ。それではな。」
わからないことだらけだが、取りあえず一つ確かなことがある。
どうやら、さっき走馬灯の中で神様に感謝したのは間違いだったようだ。
一ヶ月間もこんなところで一人なのか…
そんなことより、さっきのアレは何なんだ?自分は神だとか、異世界から転生してきたとか、普通逆だろ?神が人間を転生させるんじゃないのか?
それにしてもあの「神様」、説明雑すぎ。能力を与えようとか言ったって、まだなんにも感じないし。
能力とか、「殺されないよう励め」とか、マジでわけわかんない…だいたい、今の世の中で理由もなく殺されることなんてまずないと思うんですけど。少なくとも日本では。
転生してきた謎の「神」? に対して、言ってもどうにもならないような文句をグチグチ言っていても何かが起きるわけがない。
そのまましばらく待ってみたが、何も起きる気がしない。この何もない世界で何もできないまま座っているって、かなりきついよ?頭おかしくなりそう。
「あーもう、これまじ何なんだよっ!」
なんか面白そうなことになったなー、とか、もしやこれ、ラノベ主人公的展開じゃね?とか内心思っていたのだが、このままでは何もないこの虚無な空間でただ時間を浪費していくだけだ。最悪、ここで寿命が尽きて死ぬなんてこともありえない話じゃない。
あーもう…何もなくても一人でもできる遊びでも考えるか?
いや、ボッチ中学時代には色々考えたことはあったけど、流石に何もないと厳しいな。
………ここまで少し違うところもあったけど大体テンプレ展開だし、ありがちなセリフでも言ってみるか?
お察しのとおり、こういう「転生直後」的な場面では、大抵のラノベで主人公が必ず言う一言があったではないか。
そのことに気付いた俺は、自分の頭の良さを褒めたたえた。そして、目を閉じ、期待に震える声で叫ぶ。
「ステータスゥ!オープゥン!」
俺の大きく上ずった声が、白い世界に。吸い込まれていく(ような気がする)。
しばらくの静寂。ラノベとか漫画とかでよくある、「プォン」みたいや効果音は聞こえてこない。
大丈夫だよな?目の前には半透明なディスプレイが浮き出てきて、そこに俺の能力値とかレベルとかスキルとかが書いてあるんだよな?そうだよな?
恐る恐る目を開けてみると、目の前にあるのはステータスプレートでも水色の触れない板でもなんでもなく、白い世界。つまりなにも、起こっていない。
…かっこ悪。一人で厨二っぽいことデカイ声で叫んだ上に何もないって、本当に最悪。ダサすぎ。ここには俺以外誰もいないからまだいいけど。
じゃーもーどうすればいんだよ?
すると、また空にあの「神」の顔が出てきた。何やら笑っているようだ。さっきまでの得体のしれない顔とは違い、今度は人間の女性のような顔をしている。それもかなりの、美女。ヨーロッパ系の人に見える。
「うふふっ、いやぁ、中々みんな予想通りの反応をしてくれて面白いね。ザツな説明をして消えてみたらどんな反応するのかなー、と思ったけど、特に日本人の子供はステータスオープン!とか叫んじゃってたね(笑)別にこれラノベじゃないし。うふふっ。まあ、君たちがどう動こうが私には関係ないんだけどねぇ(笑)とりあえず、期待通りの反応してくれてありがとね♡」
うふっ、と笑う顔。
うわあ…
この神様、ダメだ。完全に正確歪んでる。少なくとも俺の知る限り、こいつは最低の神様だ。まあこいつ以外に知ってる神様いないんだけどね。絶対に友達少ないタイプ。孤高(≠ぼっち)だった俺が言うんだから、間違いない。
ってか、なんかキャラ変わってね?さっきまではもっとちゃんと神っぽい感じしたんだけど、今はウザいオネーサンって感じ。
「ほらほら、最低とか言わないでよー。ちゃんと能力あげるから。」
そういうと何やらブツブツと呪文を唱え始める。この人、いや神は心が読めるのか?なんかピンポイントで俺のこと見てるような気がするけど、気のせい?
「うん、もう大丈夫。君たちみんなにもう能力はあげたよ。使い方も、もう知ってるはず。あと、私の名前は神じゃないからね!ミャマルア!ちゃんと覚えといてよー。あと、この世界のシステムも色々変えておくから。それは、一ヶ月後にわかるよ。それじゃあね。」