人類滅亡直前の、そのまた一年前の世界の話。
人が死ぬ音が聞こえる。
人が潰される、グシャリという音。噛み砕かれ、すり潰される、ゴリゴリという音。逃げ惑う人々の足音、悲鳴。
もう、それらは完全に日常の一部だ。ほんの一年前まで、こんな風景は俺の人生に全く関わりのないものだたのに、もう自分も完全にその当事者だ。加害者にもなったし。、被害者にもなった。
辛い。苦しい。ちょっと前ならこんなとき、みんな神様に祈ったんだけどな。今はもう、誰もそんなことをしない。誰もが、神を恨んいる。恨みながら、死んでいく。食われていく。殺されていく。
諸行無常で、盛者必衰。人類の栄華が終わるのは当然の結果なのかもしれない。
でも、さすがにこの終わらせ方はないんじゃないか?
人間同士で殺し合いをさせて、さらにその上、バケモノに食わせるなんて。
今までも確かに、モンスターはいた。それで、そいつらを俺はいくつも殺してきた。
でも、こいつらは生物としてのか「格」が違う。人間が神を模した泥人形だとするならば、こいつらは精巧なレプリカ。とてもじゃないが、叶うわけがない。なのに…
「おい真那!さっさとこんな奴ら倒しちゃいなさいよ!アンタ、私の下僕でしょう?!」
なんでこんなことになっちゃったんだよ…
〜 一年前 〜
4月10日。とうとうこの日がやってきた。
期待で胸がいっぱいになり、パンクしそうだ。
勢いよく布団を蹴飛ばし、ベッドから飛び起きた。
「よしっ、行くぞー!」
なんとなく、バンザイをして叫んでみる。気合が入った…ような気がする。
そう。この俺、坂本真那は、とうとう高校に入学するのだ。
今日から、俺のリア充陽キャな楽しい楽しい高校生ライフが始まるんだ!
思い返してみれば中学での3年間、俺には友達が一人もいなかった。友達どころか、言葉をかわした人すらほとんどいない。
ちなみに、中学時代の一番の思い出は、うっかり落とした消しゴムを隣の席の女子が拾ってくれたことだ。その女子も、あんまり可愛くないやつだ(というかブサイk…)。それが一番の思い出だなんて、我ながら情けなくなってくる。
もう言うまでもないだろうけど、お察しのとおり、俺はぼっちだったわけだ。
誤解されたくないので一応言っておくと、別にコミュ症とか、そういうんじゃない。
ただ、ちょっとばかし人に話しかけるのが苦手で、話しかけられたら一言目が出てくるのに少しだけ時間がかかって、声が小さくなってしまうだけだ。
じゃあ何で友達がいないのかって?
その理由はとっても単純なことで、友達を作っている時間と余裕がなかったからだ。いや、別に強がりとかじゃないぞ。
なぜ時間とかが無かったのかと言うと、まあ長い話になるんだけど…
とりあえず、俺は完璧になり高たかったんだ。
目標としたのは、知的な細マッチョ。身長180センチ、体重60キロ、体脂肪率9パーセントの完璧な体型に、全国模試偏差値80の完璧な頭脳。これらを兼ね備えれば、人生なんてイージーモードだ思った。そう思ってしまった。
そして、そうすれば友達や、もっと言えば彼女ですら勝手に、それこそおまけみたいについてくるものだと思いこんでいた。そのために、友達を作ることもせず、クラスの女の子と楽しい会話をすることもせず、ただただ毎日を筋トレと勉強に捧げてきた。
最初の頃は同じ小学校だった奴らが話しかけに来てくれたのだが、次第に無視されるようになっていった。
それでも俺は、筋トレと勉強に熱中した。朝起きて、遅刻ギリギリまで筋トレ。休み時間には参考書を読み込み、六限が終わると即帰宅。
どうも夢中になると周りが見えなってしまうようで、ぼっち街道まっしぐら。
自慢じゃないが、中学での三年間、一日5時間の筋トレと5時間の勉強を俺は一日たりとも欠かしたことがない。
結局、毎日筋トレと勉強に励むわけのわからないやつとでも仲良くなりたいと思ってくれる奇人も、人間関係が全くない相手(つまり俺)を好きになってくれる素晴らしい女性も現れず。結局、望んだ細マッチョ体型と明晰な頭脳を手に入れ、虚しいままの中学の3年間は終わった。
だから!今度こそは!この高校の3年間こそは!友達を作り、彼女を作り、精神的に充実した学校生活を送るのだ!
そのためにこの春休み、「コミュ症のための友達の作り方ー初級編ー」、「猿でもわかるコミュ入門」といった本を読み漁ってきた。さあ、友達づくりの準備は万端。入学初日でクラスメイト全員と仲良くなり、ゴールデンウィークまでには彼女を作るんだ!
そして、勢い勇んで外に駆け出した。夢と希望と教科書でパンパンになったカバンを肩にかけ、握力グリップを握りしめて。
。
そして、ふと空を見上げた。
俺の見慣れた世界はそこには無かった。
どこまでも真っ赤な空が、目の前に広がっていた。