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子ウサギともふもふ大作戦

作者: 猫じゃらし

 

 冬の朝。

 巣穴の中で眠っていた小さな鼻が、ひくひくと動き出しました。

 昨日は凍えるように寒かったのに、今日はなんだかあったかい。

 巣穴の中がいつもより薄暗いのは、穴の入り口を何かが塞いでいるから。


「もしかして!」


 鼻をひくひくとさせた子ウサギは、長い耳をぴょこんと立てて、真っ白なもふもふの冬毛がたっぷりと生えた胸としっぽを、急いで整えます。

 寝ぐせがついて丸まったヒゲも、ぴゅーっと伸ばします。


「母さん、行ってくるね!」


 あわてんぼうな子ウサギは母ウサギの返事も聞かず、穴の入り口を塞いでいるものに飛び込みました。


 ボフッ


 バフフフッ


 穴の入り口を塞いでいたものは柔らかく、子ウサギの小さな体でも簡単に穴を開けることができました。

 予想外だったのは、それは子ウサギが思っていたよりもたくさんあって、下にもあれば上からもたくさん降ってきたことでした。


「つめたーい!」


 お母さんに聞いていたよりも、もっとずっと冷たい!

 子ウサギは上から降ってきたものに埋もれながら、キャッキャッと笑いました。

 子ウサギは初めて見て、初めて触れたのです。


「これが、雪なんだ!」


 頭を上げて辺りを見回すと、昨日までは枯れ草に土がむき出しになっていた殺風景な地面が、一面真っ白になっていました。

 空から照りつける太陽の光を反射して、まばゆいほどの銀世界です。

 葉の落ちた木々はキラキラ光る宝石を枝にまとい、神秘的な顔をしています。


「すごいや、すごい!」


 子ウサギは自慢の足で、ぴょこんぴょこんと走りだしました。

 しかし、いつもの地面とは走り心地がまったく違います。

 柔らかい雪は子ウサギの足を取り、転んだ子ウサギは雪の中へ埋もれてしまいました。

 ひんやりと冷たい雪が、子ウサギを包み込みます。


「ふふ、あわてんぼうな坊や」


 巣穴から出てきた母ウサギは、子ウサギを抱き起こすと、子ウサギの小さな鼻の頭に乗った雪山をはらい落としました。


「ぼうやは雪が大好きになったのね」


 子ウサギは大きく頷きました。

 雪って、なんて不思議でおもしろいんだろう。

 もっともっと、この白くて冷たい絨毯の上を駆け回りたい。


「母さん、僕、遊びに行ってくるよ!」


「はいはい、いってらっしゃい」


 子ウサギは、わぁ!と駆け出しました。

 今度は、柔らかい雪に足を取られません。

 足を取られないように、自慢の足で慎重に雪を蹴っているからです。


 まだ誰の足跡もつかない真っ白に輝く雪道に、子ウサギは自慢の足で小さな足跡をつけて進んでいきました。



 ❇︎❇︎❇︎



 氷の実をつけた木々の下を通って、山のように積もった雪の上へのぼって、湯気の立つ穏やかな川を渡って、子ウサギは飽きることなく跳びはねました。

 こんなにキラキラと輝いた世界、今までに見たことがありません。

 もふもふの冬毛が子ウサギの体をあたたかくしてくれるので、寒さや冷たさもへっちゃらです。

 いつまでも、跳びはねていられます。


「おや?」


 一本の大きな木の下で、子ウサギは足をぴーんと伸ばして立ち上がりました。

 木の上を見上げて、鼻をひくひくとさせました。

 木の上になにかいるようです。


「あれは…」


 まん丸の体に、ちょこんと生える2つの耳。

 木と同じ、茶色の冬毛です。

 木の上にいるので顔は見えませんが、子ウサギにはウサギのように見えました。

 だって、ちょこんと生える2つの耳が、まるでウサギのように細長いのです。

 でも、どうやって木の上にのぼったんだろう?


「おーい! おーい!」


 気になった子ウサギは、大きな声で呼びかけました。


「どうやってのぼったの? そこで何をしているの?」


 大きな大きな子ウサギの声。

 ですが、茶色のウサギはうんともすんとも答えません。


「ねぇねぇ! ねぇってば!」


 子ウサギが呼びかけます。

 すると、茶色のウサギは頭をこっくりこっくりと揺らし始めました。

 寝ているようです。

 こっくりこっくり船をこぎ、まん丸の体は左右に揺れ始めました。

 右へ傾き、左へ傾き、だんだんと大きく揺れて傾きます。

 それを見ていた子ウサギも、つられて右へ左へと体を揺らしました。

 右へ、左へ、大きく大きく、茶色のウサギは器用に枝の上で揺れています。

 子ウサギも右へ、左へ、大きく揺れると、ついによろけて尻もちをついてしまいました。

 尻もちをついたまま茶色のウサギを見上げ、こう叫びました。


「た、た、大変だー!!!」


 子ウサギはとび起きて、耳をぴーんと立てました。


「ねぇ起きて! 起きてよ!」


 茶色のウサギは揺れ続けています。


「じゃないと、じゃないと、落ちちゃうよー!!」


 あわてんぼうの子ウサギは、その場をぴょこんぴょこんと落ち着きなく跳ねまわりました。

 けれども、いくら叫んでも茶色のウサギは起きません。

 枝から落ちないのが不思議なほど、揺れているのに。


 このままじゃ、落ちて大ケガをしてしまう!

 なんとか助けなくちゃ、なんとか……。


 子ウサギは同じところを跳ねまわり続け、雪はだんだんと固まり、つるつるとすべるほどになりました。

 ですが、あわてんぼうの子ウサギは気づきません。

 つるっと足がすべり、転んでしまいました。

 固まって柔らかさのなくなった雪は、子ウサギを包み込んではくれません。


「いた……くない?」


 雪は固いのに、子ウサギはどこも痛くありません。

 なぜなら、子ウサギの真っ白でもふもふな冬毛が、子ウサギを守ったからでした。

 あたたかくて、柔らかくてもふもふで、自慢の冬毛です。


「そうだ!」


 子ウサギは閃きました。

 この自慢の冬毛で、あの茶色のウサギを受け止めればいいんだ!

 僕だけじゃ小さすぎるから、立派な冬毛のみんなを連れてこよう!

 子ウサギは急いで跳びはねました。



 ❇︎❇︎❇︎



 子ウサギはまず、お友だちのリスのところへやってきました。

 リスは冬毛でもふもふのしっぽを揺らしながら、せっせと木の実を口へ運んでいました。


「あら、子ウサギだ。どうしたの?」


「リスさん、助けて! 茶色のウサギが落っこちそうなんだ!」


 ほっぺたを木の実で膨らませたリスは、驚きました。

 子ウサギは慌てながら、リスに茶色のウサギのことを話します。

 木の上から、今にも落ちてしまいそうなことを。


「それは大変! あたしの友だちの、タヌキも連れていこう!」


 リスはほっぺたに木の実を入れたまま、もふもふのしっぽを揺らして走りだしました。

 子ウサギはリスのあとをついていきます。



 タヌキのもとへやってきた、子ウサギとリス。

 タヌキは冬毛でずんぐりとした体を雪の上におろして、日向ぼっこをしていました。


「リスちゃんに子ウサギちゃんだ〜。どうしたの?」


「タヌキさん、助けて! 茶色のウサギが落っこちそうなんだ!」


 日向ぼっこで眠たげだったタヌキは、驚きました。

 子ウサギは慌てながら、タヌキに茶色のウサギのことを話します。

 木の上から、今にも落ちてしまいそうなことを。


「それは大変だね〜! オイラの友だちの、キツネくんにも頼んでみよう」


 タヌキは冬毛でずんぐりした体を揺らしながら走り出しました。

 でも、タヌキのゆっさゆっさと揺れるお腹は冬毛じゃないようです。

 子ウサギとリスはあっという間にタヌキを追い抜かして、キツネのもとへと急ぎました。



 キツネを見つけた、子ウサギとリスとタヌキ。

 キツネは巣穴の中で、冬毛で立派に膨らんだしっぽを枕にうたた寝をしていたようです。


「子ウサギに、リス。それからタヌキ。なんの用だい?」


「キツネさん、助けて! 茶色のウサギが落っこちそうなんだ!」


 寝ぼけて鼻ちょうちんを膨らませたキツネは、驚きました。

 子ウサギは慌てながら、キツネに茶色のウサギのことを話します。

 木の上から、今にも落ちてしまいそうなことを。


「それは大変だな。でも、俺は眠たいんだ。他を当たってくれ」


 キツネは冬毛で立派に膨らんだしっぽに顔をうずめて、また眠ろうとしてしまいました。

 立派なもふもふのしっぽはとても気持ちが良さそうで、キツネが起きたくないのもよくわかります。


「キツネさん、お願いだよ!」


 子ウサギがキツネを起こそうと、自慢の足で地面をトントントントン叩きます。

 でも、柔らかい雪が邪魔をして音は鳴りませんでした。

 リスもタヌキも、キツネを起こそうと必死です。

 すると、そこにもふもふではない大きな動物がやってきました。


「子ウサギにリス、タヌキにキツネ。みんなで何をやっているのかな?」


 大きな角を頭に付けた、大きな大きなシカでした。

 子ウサギたちを見下ろして、悠然と立っています。


「シカさん、聞いて! 茶色のウサギが落っこちそうなんだ!」


 子ウサギは大きなシカの前でぴょこんぴょこんと跳ねながら、慌てて茶色のウサギのことを話します。

 木の上から、今にも落ちてしまいそうなことを。


「それは大変だ。今すぐ、そのウサギのところへ行こう。キツネ、お前も来るんだ」


 大きなシカがキツネに言うと、キツネはしぶしぶと起き上がりました。

 キツネは、大きなシカが少しこわいみたい。


「急ごう!」


 子ウサギ、リス、タヌキ、キツネ、みんな自慢の冬毛を揺らしながら走りました。

 大きなシカにはもふもふの冬毛はないようだけど、大きいからきっと役に立つでしょう。



 ❇︎❇︎❇︎



 一本の大きな木の下には、もふもふの冬毛をまとった動物たちが集まりました。

 みんな、木の上を見上げています。

 見上げる先には、子ウサギが言ったとおり、茶色のウサギが今にも落ちそうに揺れていました。


「茶色のウサギが落ちてきたら、僕たちのこの冬毛で受け止めるんだ!」


 子ウサギが言います。

 みんなで、ドキドキしながら茶色のウサギが落ちてくるのを待ちました。


 ドキドキ


 ドキドキ


 茶色のウサギは、落ちてきません。

 すると、大きなシカの大きな角に、小さな鳥がやってきました。


「子ウサギ、リス、タヌキ、キツネ、シカ。みんな何をしているの?」


 丸い体に、しっぽがぴゅーんと長い。

 子ウサギよりも小さな鳥、エナガです。

 エナガは大きな角で羽を休めました。


「エナガさん、聞いて! 茶色のウサギが落っこちそうなんだ!」


 子ウサギは木の上を見上げます。

 エナガも木の上を見上げました。

 ゆらゆら揺れる、まん丸で茶色のウサギがいます。


「じゃあ、起こしてきてあげるよ」


 エナガは小さな羽を広げると、角から飛び立ちました。

 大きな木をぐんぐんと飛び上がり、小さなエナガはあっという間に茶色のウサギのもとへ。

 同じ枝にとまり、声をかけます。


「起きて! みんなが心配してるよ!」


 茶色のウサギはぴくりと反応しましたが、起きません。

 すやすやと、気持ちよさそうに眠っています。

 エナガは、茶色のウサギのまん丸の体を、くちばしでつつきました。


「おーい!!」


 まん丸の体がびくっとはねました。

 枝から足をすべらせ、とうとうバランスをくずしました。


「落ちる!!」


 子ウサギは叫びました。

 木の下で見ていた動物たちも、みんな大慌てです。

 茶色のウサギが落ちてきそうなところへ移動しては、ぶつかり合って尻もちをつきました。

 子ウサギとリスが頭をごっつん、タヌキとキツネがお尻をごっつん。

 その様子を、エナガはなぜか楽しげに見ていました。


「あはは。大丈夫だよ、みんな」


 エナガがそう言うと、バランスをくずした茶色のウサギは立派な羽を出しました。

 その羽で大きく羽ばたき、枝の上へと戻りました。

 縮めていた首をのばし、木の下に動物たちが集まっていることに首を傾げました。


「みんな、どうしたの?」


 丸い目に、小さなくちばし。

 頭には耳のような羽がついた、その動物。

 あわてんぼうの子ウサギは、みんなをまきこんで騒いだことが恥ずかしくなりました。


「ミミズクさんだったんだ……」


 エナガが笑いました。

 リスも笑いました。

 タヌキもキツネも笑いました。


「助けようと頑張ったのは、立派だよ」


 シカだけは笑わずに、褒めてくれました。

 嬉しいけれど、子ウサギは素直に喜べません。

 母ウサギが「あわてんぼう」というのは、こういうところなのです。


「穴があったら入りたい……」


 恥ずかしくてたまらなくなった子ウサギは、首をちぢめました。

 もふもふの冬毛に顔が隠れ、まん丸の体から耳が生えているように見えました。

 まるで、ミミズクがそうしていたように。






シカの冬毛のことは特に触れていませんが、ニホンジカ (日本に棲息するシカの総称) は夏には背中に白い斑点 (鹿の子模様) 、冬には斑点が消え灰褐色になるという変化があります。

中国語でニホンジカを表記すると、『梅花鹿』となるそうです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] もふもふ (*´▽`*) [一言] 子ウサギ可愛かったです♪
[良い点] 可愛らしいお話ですね。子供に読んで聞かせてあげたくなる雰囲気です。 [一言] 企画より拝読いたしました。 唯一一緒に行こうとしなかったキツネさんですが、自分もこの時点で十分足りてるだろう…
[良い点] もふもふパラダイスですね。 行動力のある子ウサギさんが素敵です。 [一言] ウサギとタヌキが仲良しそうで良かったです。 実際の所はどうなんでしょうかねぇ。
2020/02/03 20:16 退会済み
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