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恋雨  作者: マラ夫
秋時雨
1/1

秋時雨

汗ばむ身体とシャツの間に風が吹き抜け空き地に無駄に生えているススキが一斉にオジキをした。


揺らめく黄金を眺めながら俺はなんとも言えない秋の匂いを感じた。


夏も終わり秋に差し掛かり、傾いた夕陽を眺めながら独り、家路を辿る。


昼間はまだ暑いが、このくらいの時間になると少し肌寒くも感じる。


「ただいま〜つっても誰も居ないか。」


ドサッと乱雑にカバンを置き、ソファに寝転ぶ。

ふあぁとだらし無い欠伸をすると少しうとうしてくる。


「今日は部活も無かったのに、無駄に疲れたなぁ。つってもアイツが悪いんだが。」


なんて独り呟きながら今日を振り返る。


ーーーーーーーーーー


ー放課後


帰りの支度を済ませ、部活の無い日にも溜まり場になっている部室へ足を運んだ。


「おーい貴志!!見ろよこれ!!!!」


部室に向かう途中の階段の上からやたらテンションの高い男の声。俺の数少ない友人の一人。

浅倉潤一

だ。

手には...女性物の下着。なんで奴はあんなもん持ってるんだ。薄い桜色をしたソレは彼の頭の上で物凄い勢いで振り回されていた。


「なんだよソレ...」


色々突っ込みどころというか突っ込みどころしか無いがとりあえずそれだけ口にしてみる。


「にゃんだぁ!?貴志ィイ!!見れば分かるやろ!?ブラジャーじゃ!!!!!ブラジャーぁあああ???????」


と叫ぶと彼の手からそいつは離れて飛んで行く。


「うむ。ブラジャーだな」


俺は飛んで行く女性物の下着を目で追いながら返事をした。


そのままたまたま通りがかったであろう一人の女子生徒の丁度頭部にブツは飛んで行く。


「ナイスコントロール!!」


思わず潤一に向けてグッドサインをする


なんとも言えない表情をする彼。


「キャアアアアアアアアアアアアア!?!???!?何これ!?ねぇ!?なんなの!?何これ!?えぇえええええええ!?更衣室に置いといた着替え用の私のブラ!????ぎゃあああああああああああああああああ!?!!!?!?」


あぁ。彼女が通りがかったのはたまたまでは無かったようだ。


「よう!」


とりあえずどうしたらいいかわからない俺は彼女に努めて明るく挨拶しておく。


「ちょっっっっと!!!なんであたしの下着が飛んでくんのよ!?!?」


「お前のじゃないぞ。ソレはあいつのだ。」


潤一を指差しながら俺は努めて笑顔で答える。


「おいちょっと貴志ィイ!?なんや裏切るんか!?ワシとお前の仲やろ!!!そもそもそいつは女子更衣室で拾ったんや!!ワシのじゃない!!」


「と言う事らしい。もっと詳しい話は彼に聞いてくれ。俺は関係無い。」


そのままこの場を去ろうとするが腕を掴まれる。

痛い。なんか食い込んでる。凄い食い込んでる!!


「ちょっと、ねぇ!?どう言うこと??あんた達何してんの?ねぇ!!!!清水に言うわよ!?」


潤一の顔が青くなる。清水は学生指導の主任の体育教師だ。俺たちと..彼女

北島佳奈

の部活の顧問でもある。


「ちゃっ!!ちゃうねん!!なぁ!?たまたま女子更衣室を通りがかったらソレあったんや!!盗ったりはしとらへん!!ちゃんと忘れ物として届けるつもりやったんや!!まさかお前のなんても思いもせんかった。ソレ!!返すから堪忍してや!!」


北島の腕を掴む力がぐっと強くなる。

本当に痛い。ていうかなんで俺の腕なんだ。本当になんでこんなめんどくさい事になってるんだ。


「意味わかんないんだけど!!?っていうかあんたら女子更衣室に入ってるわけ!?本当意味わかんないんだけど!?ねぇ??」


大きめの瞳に涙をいっぱい溜め顔を真っ赤にしながら彼女は叫ぶ。叫んでいた。


あぁ...最悪だ。


そう、最悪だった。放課後と言えども学生も教師も居る。そして丁度いい程度に静寂が広がる。

俺たちの居る場所は踊り場だ。怒声を響かせ階段が拡散してくれた。余計なお世話を...


ざわざわ...


面白半分に見物しにきた学生達が集まってくる。


視線は思いっきり腕を掴まれている俺に集まっていた。

俺は潤一を見上げると同時に彼は走り出していた。


「殺す...」

思わず声に出た。


ブラジャーを頭に乗せた女生徒に拘束された俺は、野次馬達に囲まれて、騒ぎを聞きつけてきた教員に捕まり、あれこれ弁明しなくてはいけなくなったのだ。


ーーーーー


やっぱダチは選ばないとな...


ふぅ、とため息をつき飲み物を取ろうと重い腰を上げるとガチャっと玄関の扉が開く音がすると同時に


「ただいま〜」


とちょっと控えめで幼さを残す声が聞こえてくる。


「おぉ、お帰り...って亜美!?お前どうした!?」


バケツの水をそのままひっくり返されたようにびしょびしょ。白いセーラー服がぴっちり貼り付いて下着までくっきり透けてしまっている。まるで濡れ女だ。


「えへへ...着替えてくるね」


ぎこちない笑顔を作りそれだけ口にすると自室へ向かって行く。


「おっ、おい...」


言いたいことは色々あるが余計な詮索も良く無いだろう。ぐっと堪え


「風呂、沸かすから早く入れよ!」


そう言い風呂場へ向かった。


「ありがとう...」


とか細い声が聞こえた気がした。

なんとも言えないもやもやした気持ちで俺は風呂掃除に取り掛かった。


亜美は兄の俺から見ても同年代の中では大人しい方だと思うが自分の妹とは思えないほど間違い無く可愛い。性格も少し几帳面過ぎるところはあると思うがいじめられるなんてそんな...


リビングに戻り冷蔵庫から二リットルのペットボトルを取り出し一気飲みする。


喉が渇いていたのをすっかり忘れていた。大量に流し込まれる水分が身体を伝い胃に溜まる感覚がはっきりとわかった。


何があったのだろうか。話を聞いてやるべきだろうか大きなお世話だろうか。

そんな事を考えていると


ピピピッ


っと風呂が沸く音がした。


「おーい!亜美〜風呂沸いたぞ!!」


「ん!!ありがとう!」


という声がし、しばらくすると脱衣所でゴソゴソする音が聞こえてくる。

まぁ、落ち着いたらちょっと話を聞いてみよう。

自分も制服を脱ごうかとボタンに手をかけた後


「キャア!!」


という悲鳴と一緒にガゴンと言う鈍い音が風呂場から響く。


「おい!大丈夫か!?」


普段以上に心配症になっていたのか。

俺は、そのまま浴室に駆け寄りドアを思いっきり開けてしまっていた。

後にハッと気付く。


「あ...すすすすまん!?こ!?」


動揺していた!!


「ねぇ、お兄ちゃん。お風呂水だったよ?」


ちょっと睨みながら上目遣いでそう呟いた我が妹。

そう妹である。

さすが我が妹である。動揺しているのは俺だけか!?

お前!!スッパなんだぞ!

なるべく見ないように心がけようと思ったが、はっきりと俺の目が亜美のZENRAを捉えて脳に焼き付けてしまっていた。

小ぶりな乳房にああああああああああああああああ。


いや妹でこんなに動揺するとか俺は童貞か!?



童貞だった!!!!



今日はなんて日なのだろうか。

天国か地獄か。


ーーー

今俺はソファに座っている。

水風呂を抜き改めて風呂が沸くのを待っている。

隣にはバスタオルを被った亜美が居た。


「なぁ亜美」


「ん?」


「まずは謝る。本当に悪気は無かったんだ。ごめんな」


素直に非礼を詫びた。確かにやましい気持ちも悪気も無かったが。デリカシーも何もあったもんじゃないだろう。怒らせても仕方ない。ビショビショになって帰ってきたのに水風呂に入らせようとしてしまったのも非常に申し訳ない。


「ううん!いいよ。お兄ちゃんそもそもお風呂沸かした事なんて無かったでしょ?仕方ないよ。」


とニッコリ笑う。


普段はなんともないのに、裸を見て女性として意識してしまったのか少しドキッとしてしまう。


「...嬉しかったよ」


体育座りの格好で膝に顎を乗せてボソッとそう言った。


「そ、そうか。そういえば今日...」


ピピピッ


言いかけると同時に風呂が沸く音がした。


「入りなおしてくるね。ていうか先にシャワーだけでも浴びれば良かったかな」


そういうと彼女は席を立った。


「うーむ。」


一人ゴチる。


色々思うところはあるが話を聞かない以上考えていても仕方ない。

そろそろ親父達も帰ってくるし、いつも亜美がしているが今日は俺が久しぶりに夕食を作るかと台所へ向かった。


冷蔵庫の中身を確認する。


うむ、この食材だと作れそうなのはチャーハンだな。


と言っても俺はチャーハン位しか作れないが。

あとは簡単な卵の中華スープでも作るか。

ふっふっふ。

俺は白だしと鶏ガラとコンソメとがあれば大体和洋中のスープが作れるのは理解している。

冷凍庫から冷凍ご飯を取り出しレンジで少し硬めに解凍する。

フライパンに油を軽く引き火をつけ、長ネギと焼き豚を細かく刻んだ。

強火で溶いた卵をかき混ぜ、ご飯を入れ、塩コショウをし先ほど刻んだ食材をフライパンへ投入した。軽く混ぜた後、鶏ガラとごま油を投入し更に混ぜる。


こんなに簡単なのに美味い。やはりチャーハンこそが神の考案した料理なのでは?などと考える。

香ばしい匂いが漂ってくる。ヘッヘッヘ。腹減ったぜ。


「わぁ!!いい匂い。私お兄ちゃんが作ったチャーハン好き!!」


風呂から上がった妹がいつのまにか隣に居た。シャンプーの匂いと甘い匂いが一緒に漂うと少しドキッとしてしまった。

れ、冷静になれ貴志。お前は兄貴だ!!

そう自分に言い聞かせた。なんで甘い匂いがするのだろうと今まで意識をしていなかった分そんな事が頭をグルグル回る。


「お、おう。もうできるから待っててくれ。スープも作る。」


できる限りおくびにもそんな事を出さないように努め返事をする。


「ありがとう!でも野菜が無いね。簡単にサラダでも作っちゃうね!」


そういうと俺の隣に並ぶ。パジャマの妹。

身長差の問題で小柄な彼女。

この位置からだとボタンの開いた部分から痩せた胸元が見えてしまい慌てて視線を逸らした。


こ、コイツ...ノーブランか...

急に先ほどの風呂場での出来事を思い出してしまう。

しっ!!!思春期ィイいい。

性欲とは悪魔か。サタンか何かか?


クゥうううう学校ではブラ泥棒の汚名を被ってしまった無力な兄ですまない。


北島も亜美のようにノーブラで過ごせはあんな悲劇を起こすこともなかったのじゃないだろうか。いやあいつは胸でかいから無理か...


「ねぇお兄ちゃん!!!」


風呂上がりのせいか亜美の白い肌が少しピンク色に見える。なんか気付いたら少し色気が出てきているんじゃなかろうか。もうああああああ

しょうもない事ばかり考えている兄ですまない...


「ん?なんだ。お兄様になんでも言ってくれたまえ。ふっふっふ。」


もうどうしようも小恥ずかしくなり少しふざけてしまう。自分で言って更にちょっと恥ずかしくなり頭をボリボリと掻いた。


「ん。今日はごめんね?こんなに心配してくれると思わなかった。最近あんまりお話もしてなかったし。嬉しかった。」


と言うとニッコリ笑った。

可愛い。本当に自分の妹とは思えないくらい顔が整っている。くりっとした目、小さな鼻、薄い口。少し丸みを帯びた輪郭。

切れ長の目、ゴツい輪郭、可愛げの無い口をした俺。


もしかして腹違いなんじゃないだろうか?なんて両親にとても失礼な事を真剣に考えてしまった。


「当たり前だろ。お前は妹なんだしそりゃ心配するぞ。」


自分にも言い聞かせるようそう言った。


「何があったかは言いたく無いなら聞かないようにする。だが本当に辛くなったら言ってくれ。俺でよけりゃ話は聞くしもしかしたら力になれるかもしれないからな」


「えへへ...ありがとう。でも大丈夫だよ!!お兄ちゃんモテないでしょ?」


うっ!?!?なんだコイツ!!少し...いやかなり可愛いからって急にひでぇ事言いやがるなテメェ。お前なぁ!!人間気にしてる本当の事言われるのが一番傷付くんだぞ!!


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