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或る文学作品

苦楽

作者: 栄啓あい

 私は、学校のHRが終わると、こんな噂を聞いた。


 このクラスのある女子が、今日、処刑される、と。


 私は、理由も聞かずに、ただその人のことが気になった。


 身近な人が殺される、というのは、とても苦手で、好きではない。


 といっても、私はそのような経験をあまりしたことがないので、わからないのだが。


 たいていの人は、私と同じような気持ちであろう。


 その処刑される人は、私が最近気になっている人でもあった。


 もっと、この人と沢山接したかった。


 たくさんしゃべりたかった。


 そう思うと、とても悲しくなって来た。


 無償に会いたくなってきた。


 私は、近くの女子とその人に会いに行った。


 その女子も、周りのほかの人も、そんなことは全く気にしていない様子だった。


 その、処刑される人は、図書室でひっそりと、いた。


 その人は、割と平然としていた。


 「こんにちは」

 「こんにちは」


 そんな普通の挨拶をするくらい、何も変わりなかった。


 しかし、その人は少し浮かない顔をしていた。


 それはそうだろう。


 これから死ぬとわかっているのだから。


 私は、その人にもう一度声をかける。


 「今まで、本当にありがとう。短い間だったけど、とっても楽しかった。楽しかった。そこまで関わることなかったと思うけど、それでも、本当に嬉しかった。ありがとう」


 私はそう言うと、泣き出してしまった。


 私の視界は、涙で遮られて、ぼんやりとしていた。


 でも、その人のことは、はっきりとその目で捉えられていた。


 その人は、私の肩を叩いてくれた。


 それが、すっごく嬉しかった。


 私は、泣きながらも言うことを続けた。


 「私、実は、障害を持っていたの。あなたにはよくわからないかもしれないけど…言いたかった。黙っててごめんね」


 そう言うと、その人は面と向き合って言った。


 「ありがとう。えっと・・・私から言えることは、とにかく強く生きろ。何が何でも生きろ。私はこれから死ぬけど、君はどんなことがあっても死ぬな。あきらめるな。頑張れ」


 そう言って、私を見つめてくれた。


 私は、本当にうれしくて、またさっきより多く涙がこぼれてしまった。


 大声で泣いていた。


 何事かという視線を向けられながらも気にせず、とにかく泣いた。


 そうすると、近くにいた先生に引っ張られ、その人と離れてしまった。


 私はひたすら、その人に手を伸ばして向けることしかできなかった。


 ちゃんと別れを告げただろうか。


 私は気が付くと、家にいて、学校へ行く準備をしていた。


 今日は夏休み期間中で、学校も強制ではなかったので、ゆっくりと、母に車で学校に走らせてもらった。


 学校に近づくと、私のクラスのHRをやっていた。


 「田中スカート」

 「はい」


 同じクラスに、田中という男子がいるのだが、何かあったのだろうか。


 遅れる気満々で行ったので、そのままドライブがてら、近くのゴンドラに乗りに行った。


 そのゴンドラは、リフトのようなもので、下には水が流れており、ほぼ直下降だった。


 ゴンドラに乗り込んで下がっていこうとして、しばらくすると、私は自分のリュックが邪魔だからと、はるか下に落としてしまった。


 リュックは濡れてしまった。


 下につき、リュックを回収し、上に階段で上がる。


 上に戻ると、ゴンドラは止まってしまっていた。


 もう一度動かそうといじったら、少し動いた後、壊れてしまった。

 

 私の母はすぐに修復にかかり、何分も作業を続けていた。


 私は何もできずに、ただ右往左往しているだけであった。


 私はふと、スマートフォンを取り出して、ニュースを眺めた。


 と、そこには、驚愕の内容があった。


 "謎の牢屋がついた白い車、T市に!?"

 "闇の列車と呼ばれる車、何のために!?"

 "なぜ動く!?突如出現した謎の刑務所!!"


 そんな記事が、たくさん入っていた。


 その車は、刑務車といった。


 処刑の人が牢屋の中に入り、そこで最期を過ごすというものである。


 この刑務車は、先ほどまで一緒に話していた、あの人に向けてのものである。


 それを知っているのは、私やその周りくらいの人たちだけだろう。


 それを私は、まじまじと見ながら呟いていた。


 「いよいよか・・・いよいよか・・・」


 そう何度も、呟いた。


 最後に私は、今ここにはいないその人に向かって、言葉を投げた。


 「ごめんね。本当にありがとう・・・」と。


 その瞬間、私は何かの記憶が蘇ってきた。


 前にも、こんなことがあった・・・と。


 その時は、目の前で牢屋に入っていったのを見届けて、最後をその、だれか、と過ごした


 あの風景と同じ画が今目の前にあるような気がして、たまらなかった。


 誰だったか・・・全然思い出せない。


 そこだけすっぽりと忘れている。


 でも、大事な人だった気がする!!


 ずっと、考えていた。

 


 目を覚ますと、布団の上にいた。


 夢だとわかった瞬間、とてもほっとした。


 処刑なんてなかったんだ。


 同時に、少し寂しいような気もした。


 途端に、さっきさっき考えていた、前に見た風景の、だれか、が分かった。


 少し心のつっかえが取れたような気がした。


 そして、その日は夏休みにある部活を休み、家で休んでいた。


 

 その次の日、学校へ行くと、夢に出てきたその人はいた。


 いつもと変わらず、普通だった。


 私は深く胸をなでおろした。


 夢とは、恐ろしいものである。


 しかし、安らかなものでもある。


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