✟「受け継がれる意志」4/4
【相棒!】
エドゥはハッとピザファットの方を見る。
「あぁ、何でもない。」
「本当か?冷や汗かいてるぜ。」
「何でもない。」
エドゥは椅子に座る。
(大丈夫だ。今はちょっと疲れているだけだ。)
「ん。」
エドゥは机に突っ伏し少し目を閉じる。
「この野郎!」
「死ね!っぐわぁ!」
「殺す!ぶっ殺してやる!」
「いたぞー!追い詰めろ!」
「こっちには聖剣があるんだ、殺せ!」
「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」
「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」
バッとエドゥは体を起こす。
一瞬だが血まみれの手が映っていたような感じがしていた。
(何だ、今のは。俺は知らない。知らないぞ。)
エドゥはピザファットとオクタビアから距離を取り、少し横になった。
(大丈夫だ。大丈夫。)
エドゥは死んだように深く眠った。
やがて辺りが騒がしくなった頃、エドゥは目を覚ます。
「おぉ、嬢ちゃん帰って来たんだな。」
【えぇ、どうしてそんなに小さな声で喋ってるの?】
「おいおい、そんな大きな声出しちゃだめだ。実はな…。」
ピザファットがナタリー達に事情を説明する。
「オッケー、任して!」
ナタリーは鞄から材料を取り出すと、能力を発動する。
ナタリーの手にはイヤホンが握られていた。
「エドゥ、これを右耳につけて後これを左耳に。」
ナタリーに言われた通りにエドゥは右耳にイヤホンのような機械をつけ、今度は左耳に耳栓のような機械をつけた。
「どう?」
ナタリーから声を掛けられる。
「普通に聞こえる。」
「すげぇ、嬢ちゃん普通に喋ってたぞ!」
「これは一体?」
「あたいの住んでいたところ騒音がひどいから遮音性の高いイヤホンをよく作ってたのよ。その右耳に付いているのが本体、それが左のイヤホンに無線で信号を送っているの。」
ペラペラぺラ
ナタリーが早口で解説を始めていく。
「へぇー。」
「ほぉ。」
「なるほど。」
「すごいな。」
エドゥは適当に相槌を打ち、その場をやり過ごした。
「あ、いけない。」
ナタリーが突然話を中断する。
「皆にやってもらわないといけないことがあるのよ。」
「何かな?」
「あたい達は今襲撃を受けているの。」
「何?」
「今、ダークエルフの人が足止めしてくれているんだけど直ぐにここまでやってくるわ。皆今からあたいが言う通りにしてね。」
ナタリーがエドゥ、ピザファット、オクタビアのそれぞれに指示を出していた。
「あたいも手伝いたいんだけど、足をくじいちゃって・・・。」
「大丈夫よ。ナタリーちゃん、私たちに任せて!」
「あぁ。やってみせる。」
「おうよ。任せな!」
3人はナタリーの指示通りに動く。
しばらくして準備が整う。
カタカタカタと肋骨が動く音が聞こえ始めていた。
「いよいよね。」
「よっしゃあ。いつでも来いってんだ!」
「……来るぞ!」
エドゥはジンの出現ポイントを確認する。
上から来るパターンが2つ、そのまま来るパターンが3つ、地面からこちらに向かうパターンが1つだった。
(対処できないのは地面から突然現れるパターンだけだ。ここを防がないと。)
5秒が経過した。
「皆!来るぞ気を付けろ!」
ガバッっと地面からジンが現れた。
次の瞬間。
「気来風獣掌!!」
ドゴンとジンが吹き飛ばされた。
背中が地面につく。
ズシンと衝撃がきた。
「すげぇ!よく分かったな相棒!」
「ピザ、動き出すぞ。」
「分かってるぜ、嬢ちゃんの計画通りにいくぜ!」
「来るぞ!」
ジンが体を起こす。
エドゥの目にはジンのヴィジョンが映し出された。
鎌を持ち出してピザファットの胴を切り裂こうとしていた。
すかさず、ピザファットを蹴って攻撃を避ける。
ブン
予定通りの経路で鎌が空を切った。
「危っねー!助かったぜ相棒。だけどもう少し優しくできねぇか?」
「お前の巨体を動かすんだぞ、あれぐらい強くしないと駄目だろ?」
再びエドゥの目にヴィジョンが浮かぶ。
ジンが九つの手に鎌を持ち全方向から自分を切り刻もうとするヴィジョンが。
次に自分が取れる行動を見ていく。
これは5秒間の戦いだ。
間違いなくこのままでは死ぬ、自分が助かる道を5秒という短い時間内で模索しなければならない。
右、左、上とあらゆる未来を見る。
(どれだ?どの未来を選択すればいいんだ。)
残り2秒。
(くそ!どこもだめだ!)
「気来風獣掌!」
ザクッ
9本の鎌のうち3本を吹き飛ばした。
防ぎきれなかった6本の鎌がエドゥの身を切り裂いていく。
「相棒!大丈夫か?」
「あぁ、掠った程度だ!」
エドゥの体から血が垂れてくる。
「皆!準備が出来たわ!」
オクタビアの声を聞き、エドゥとピザファットがジンから背を向け走り出した。
「行くぜ!相棒!」
「あぁ!」
バッ!
「ナタリーちゃんしっかり摑まっててね!」
「ごめんなさい、迷惑かけちゃって。」
オクタビアがナタリーを抱え山から飛び降りた。
バッ!
パラシュートが開く。
「皆離れすぎないで!指定した場所に向かって!」
「了解だぜ!」「分かった!」
里にはジンともう一人マクシモヴィッチが残っていた。
「それにしても信じがたいな。お前いつからそんなんになったんだ。」
彼の問いかけには答えずジンは肋骨を広げる。
「喋れんのか?不便だな?」
ガガガ
マクシモヴィッチの背後から尖った肋骨が襲い掛かる。
「ちょっと近いな。」
彼は迫る肋骨をはじくと銃を構える。
「もう一度くらえ。」
バー₋₋ン
銃弾が放たれた。
バーー₋₋ン
「おっと!」
ジンに当たるはずの銃弾がマクシモヴィッチの背後から現れた。
「長い付き合いだ。お前の戦い方は知っている。」
カタカタカタ
ジンは鎌を取り出した。
「だからなのか。彼女の発想を聞いた時、これならいけるって思えたんだ。」
全方向からくる鎌を剣ではじいていく。
「さぁ、お喋りもこれくらいにしようか。」
マクシモヴィッチは地面に触る。
「じゃあな。出来れば二度と戦いたくねぇな。色々な意味でな。」
マクシモヴィッチが崖から飛び降りる。
バッ
パラシュートが開く。
カタカタカタ
ジンはマクシモヴィッチを追うために空間に潜ろうとしていた。
その瞬間。
バコ――ン、ドカー―ンとけたたましい音が鳴る。
激しい光と熱がジンを襲った。
「そろそろね。皆爆風に気を付けて!」
ナタリーが里を見ながら警告する。
ズシャアア――――――――――――――ン
山が吹き飛ばされた。
(彼はちゃんと脱出できたかしら?)
「うおぉぉぉ。相棒!すげぇ風だぜ!落っこちそうだ!」
「大丈夫だ。お前の重さならこんな風びくともしないだろ?」
「俺っちが標準なの!皆痩せすぎだぜ!」
「ピザくん、エドゥくん大丈夫?」
「大丈夫だ。少なくともこいつは!そっちは大丈夫か?」
「えぇ!大丈夫。それよりバビチェフくんは大丈夫かしら?」
「今は信じるしかないわ。予定した場所まで降りましょう。」
エドゥ達は激しい風に揺られながら目標の場所に向かう。
「いててて……少しタイミング、ミスったかな。」
マクシモヴィッチは爆発の煙から出てくる。
幸いパラシュートに引火はせず、何とか滑空することが出来た。
(さて、これで少しはダメージになったか?)
彼は後ろを振り返るが、煙で中の様子はうかがい知れなかった。
ガタガタガタ、ガタン
爆風の中、ジンは起き上がろうと何とか体を動かしていた。
その体は煤だらけになりボロボロになっている。
ガタガタ、ズコッ
損傷がひどく上手く立ち上がれないようだ。
ジンは再び立ち上がろうと試みる。
ガタガタガタ
「グォオオオオオオオオオオ!!」
ジンは咆哮した。
それは彼が死んでから初めて見せた感情というものなのだろう。
脳内設定㉔
ジン=バルエラ 種族ーダークエルフー
サルート名「One directional tube」
「空間の点と点を繋げる能力」




