✟「受け継がれる意志」3/4
「しょうがない。負ぶってやる。ほら。」
ナタリーの前に中腰になる。
「ごめん。ありがとう。」
マクシモヴィッチにナタリーは負ぶさった。
カタカタカタ
骨の音が近づいてくる。
ボワン
音が鳴りやんだ。
「撒いた?」
「多分な。この抜け道は俺たち以外知らない。」
「前!前!」
ナタリーが突然叫ぶ。
マクシモヴィッチの前に骨が現れた。
「何?」
パチンッ
マクシモヴィッチが吹き飛ばされる。
「きゃあ!」
「しっかり捕まってろ!」
マクシモヴィッチはナタリーを背負いながらバランスをとり着地した。
「一旦降りるわ。」
「悪い。あれは倒すしかないな。」
ナタリーを降ろすとマクシモヴィッチは剣を握る。
「さぁ、こいつは本物だぞ。かかってこい。」
カタカタカタ
マクシモヴィッチと骨が距離を詰める。
「やぁ!」
カキン、ガチガチ
剣と骨が衝突する。
「おら、おりゃ!」
マクシモヴィッチの剣に骨が押されていく。
カタカタカタ、ドゴーン
骨が地面に潜る。
「どこから来る。」
マクシモヴィッチは地面を注視する。
「上から来てるわ!上!上!」
「上?」
マクシモヴィッチは上からズシンと叩きつけられた。
「うっ!」
手から剣が滑り落ちる。
そのまま体を握りしめられた。
肋骨が開いていく。
「俺を食らうか。やってみろ。」
マクシモヴィッチは肋骨の中に押し込められた。
グググググ
「グォオオオオ!!!」
マクシモヴィッチは骨を押し抵抗する。
骨の尖った部分が彼の手に刺さった。
「能力を使って!骨を液体に変えればいいじゃない。」
「駄目だ。そんなやり方はかっこよくない。」
「何いってるの!?」
「見てろ!こんな状況すぐに抜け出して見せる。」
そういうと、マクシモヴィッチは骨を押し返した。
それから足で肋骨を蹴り、脱出する。
「はぁ、はぁ。……どうだ!」
「凄い。けど、やっぱり能力使った方が良いわよ。」
「ロマンがないね。ロマンが。」
「はぁ。」
マクシモヴィッチは地面に落ちた剣を拾った。
骨が再びマクシモヴィッチに襲い掛かる。
骨は手に持っていた鎌を振り下ろした。
「そんな離れてたら当たらないぞ。」
大きく後ろに飛びあがる。
バリンッ
剣の刀身が折られる鈍い音がする。
ポタポタと地面に血が滴り落ちていた。
剣が握られていた手に切り傷が刻まれていたのだ。
(この戦い方、そうか。)
マクシモヴィッチはしばらく立ち尽くしていた。
「随分姿が変わったな。お前も。」
「どういうこと?何いってるの?」
「いやこっちの話だ、気にしないでくれ。」
ふーっと大きく息を吐く。
ナタリーを再び背負うとマクシモヴィッチは骨、いやかつてジン=バルエラだったものに背を向ける。
「今アレに構っている場合じゃないな。」
「ちょっと!怪我してるじゃない!」
「大丈夫だ、これくらい。それよりアレの能力は空間転移だ。いくら走っても距離を詰められる。」
「じゃあどうするの?」
「はっきり言って手段がない。厄介な奴が敵になったな。」
「待って!あたいに良い考えがあるわ。」
ナタリーが耳打ちをする。
「おいおい、随分過激なことを考えるんだな。」
「そう?でも良い手じゃない?」
「あぁ、俺が考えられなかった良い手だ。」
「じゃあそれでいきましょう!」
「分かった。振り落とされないようにしっかりと摑まれ!」
マクシモヴィッチは走り出した。
襲い掛かる鎌をナタリーが目視で確認し、マクシモヴィッチに伝えていく。
二人はこうしてジンから逃げながら里へと向かっていった。
「皆まだかよー。俺っち一人は寂しいぜ。」
その頃、ピザファットは一人日向ぼっこをしていた。
自らの怪我を確認しながらピザファットは欠伸をしていた。
「それにしても大分、治りが悪いぜ。全く俺っちに似て能力も怠け癖がついたか?」
そのままピザファットは眠りに入った。
太陽が丁度真上に来る頃だっただろうか、周りがうるさくなるのを感じて目が覚める。
「何だ何だ?騒がしいぜ。っておい、相棒じゃねぇか!」
ピザファットの前にはエドゥとオクタビアがいた。
「何だ!?今まで寝てたのか!?」
「どうした?そんな遠くじゃ聞こえずらいぜ。」
「あら、ごめんなさいね。エドゥくん今すごい耳が良くなっちゃたらしいのよ。」
「おおぅ。素敵なお姉さんじゃねぇか。俺は相棒の相棒のピザファットだぜ!」
「うふふ、私はエドゥくんのお嫁さんです!よろしくね。」
「何~。相棒のお嫁さん!?相棒捨てて俺っちに乗り換えない?」
「うふふ。」
「おい、二人とも馬鹿なこと言うな。」
「なんだ、相棒恥ずかしがってんのか?」
「照れてるのよ。」
二人の笑い声を聞きながらエドゥは空を眺めていた。
「やはり儂の見た通りになったか。」
「その声は長老か。」
エドゥの周りに煙が立ち込めていた。
「見た通りっていったか。」
「あぁ、その通りじゃ。誰かの裏切りで儂は死に、お前さんに能力を授ける。」
「これも確定された未来ってわけか。」
「そうじゃ、だがそろそろ動かなくてはならない。」
長老は話を続ける。
「エルフ族の者に聖剣を握らせることだけは阻止しなければならぬ。」
「分かった。あんたの見た最悪の未来を回避してみせる。」
「ありがとう。そしてどうか民たちを救ってくれ。」
「あぁ。全て任せろ!」
長老の魂がエドゥの中に入った。
「絶対に守って見せる。」
エドゥの周りの霧が晴れる。
「相棒!」
「どうした?」
「いや、急に姿が見えなくなったからよぉ。」
「何でもない。」
エドゥは何か変化がないか体を動かしてみた。
「エドゥくん。やっぱり長老から力を。」
オクタビアがエドゥに話しかける。
「あぁ、これも確定していたらしいな。」
「力は感じる?」
「まだ分からない。確か長老は未来を見る能力だったはずだ。」
「何か見えない?」
エドゥは目を凝らす。
「いや、何も見え・・・ちょっと待った。」
エドゥの視界に何か3D映像のような赤と青のヴィジョンが浮かんできた。
それも一つや二つではない。
あらゆる角度にそれは存在していた。
(何か酔いそうな映像だ。)
エドゥは一旦目を瞑る。
「何かヴィジョンが見える。赤と青の。」
「ヴィジョン?」
再び目を開ける。
エドゥの目には先程のヴィジョンは移っていなかった。
「今は何も見えない。」
「おい二人とも何してんだ?俺っち腹減っちまったぜ。」
ピザファットがこちらに向かってくる。
「!?」
その瞬間、先ほどのヴィジョンがエドゥの目に飛び込んでくる。
ピザファットの姿があらゆる方向に現れたのだ。
(もしかしなくてもこれは。)
エドゥは歩き出すピザファットと目に映る一つのヴィジョンが重なる時間を数える。
(1、2、3、4、5)
丁度5秒後。
ピザファットと一つのヴィジョンが重なりあった。
そして再びあらゆる方向にヴィジョンが広がっていく。
「ピザファット、動くな!」
「ん?どうした相棒。」
ピザファットが歩くのを止める。
すると今まで広がっていたヴィジョンが消えた。
「分かったぞ。この能力の使い方が!」
「ほんと?凄いわ!」
抱き着いてこようとするオクタビアを難なく躱す。
「おいおい、ひどいんじゃねぇの相棒?」
「前も言っただろう?僕は既に結婚してるんだ。」
とはいえエドゥも男である、かなりドキドキしていた。
エドゥは必死に理性を保っていた。
頭の中で地球の頃の妻との記憶を思い出そうとする。
(あれ?)
エドゥは違和感に気付いた。
妻の顔が出てこないのだ。
(嘘だろ……。)
それどころか知らない記憶までが頭に入って来ていた。
「相棒?」
ピザファットはエドゥの動揺に気付いたのか声をかけていた。
しかし、その声はエドゥには届いていなかった。




