✟「受け継がれる意志」2/4
「時間がない、何か他に方法はないのか?」
エドゥは必死に食いつく。
声が返ってくるまで心臓がバクバク鳴っていた。
「んー。何か他の方法ねぇ。」
「ほら、あの子がいただろ。」
「あぁ、ダークエルフの坊主か。」
「大分昔の話だからね。今は老人だろうよ。」
木々の会話が盛り上がっていく。
「話がみえない。そのダークエルフの老人がどうした?」
「サンシャシャ様が最後に姿を見せた人物です。」
「彼とサンシャシャ様は非常に仲がよろしかった。」
「その子ならサンシャシャ様を呼ぶ方法を知っている。」
「その人の名前は?」
「何だったけ?バビテブー?」
「◦◦デバビデブー♪」
木々が謳いだす。
「待て待て、バビデブって名前なんだな。」
「いや、たしかそんな名前だったって気がするだけ。」
「あぁ、あんまり詳しくは分かんないよ。」
「もっと、細かく教え‥」
エドゥがそう言いかけた時だった。
「あぁ、だめ。お昼寝の時間。」
「そう、俺たちにはなくてはならない時間。」
「たのむ待ってくれ!もう少しなにか。」
「伝えられることは伝えたよ。後は自分で何とかしな。」
「そうそう、またいつかお話をしよう。」
「おい!返事をしてくれ。」
それからエドゥは何度も語りかけたが返事は帰ってこなかった。
「それで何か分かった?」
オクタビアが話しかけてきた。
普通の声量で聞こえてくるということは恐らく小声で喋ってくれているのだろう。
「ダークエルフ族の中で、バビデブに近い名前の老人はいるか?」
「バビデブ。んーー。」
オクタビアがしばらく唸る。
バビデブ、バビデブと彼女は脳裏で反芻する。
【あっ!】
エドゥは急な大声で耳を塞ぐ。
「あぁ、ごめんね。バビデブは知らないけど、バビチェフなら知っているわ。」
「バビチェフ、多分その人だ!」
エドゥは心の中でガッツポーズをする。
「どこにいるか分かる?」
「えぇ、さっきナタリーちゃんと一緒にいた人がバビチェフくんよ。」
「つまりその人のおじいさんが守り神と交流していたってことか?」
んー、とオクタビアが首を傾げる。
「でも彼の家族の話って聞いたことないわね。」
「ここで考えたってしょうがない。いったん皆のところに行こう!」
「えぇ、そうね。」
エドゥとオクタビアは再び霧深い森の方へと引き返す。
ラルフとハルトムートが二人がいなくなったのを見計らって姿を現す。
「どうやら何か手掛かりを得たようですね。」
「いいことだ。こっちはただ待つだけで良い。」
「‥‥‥」
ラルフは少しの間何かを考えていた。
「すみませんが、少し単独行動をさせていただけませんか?」
「何?命令にないことは極力するな。」
「えぇ、もちろんそれは分かっています。ですが、目的を達成するためなら手段は多い方が良い。違いますか?」
「ラルフ、私が不確定要素を好まないことは、ここ数か月の付き合いだが理解できているはずだ。」
「えぇ。」
「それを承知で言うということは、しっかりとした理由があるのだな?」
ラルフは首を縦に振る。
「いいだろう。お前の提案を認める。だが、」
ハルトムートはラルフの胸に手をかざす。
「わかっているだろうな。失敗は許されない。もしお前が不確定要素になるなら私はクイーンとしてお前の命を奪う。」
ラルフはハルトムートの手をどける。
「もちろんです。期待以上の成果を上げて見せますよ。」
そして彼はそのまま森の中に入っていった。
ハルトムートは一人聖剣の台座を見つめていた。
(全く、目の前にあるのにとれないとは難義な代物だ。)
ピロリロリロ
彼女は懐から機械を取り出した。
「はい。こちらハルトムート。」
「ハルトムートか、宮本はどうした?」
「申し訳ございません。今別行動をとっています。」
「まぁ、お前でもいい。状況を報告しろ。」
「はっ。」
ハルトムートは電話の相手にこれまでの出来事を説明する。
「ほぉ。にわかには信じがたいが、まぁそんなことがあってもおかしくないか。」
「聖剣は必ず私が手に入れてみせます。」
「当たり前だ。出来なきゃ待っているのは死のみだと知れ。」
電話の相手は一息入れる。
「お前は完璧主義者だからこそ、この任務に就かせたのだ。俺の顔に泥を塗ることだけはするなよ。」
「はい。必ず期待に応えて見せます。」
電話が切れた。
【ドンドンドン】
エドゥの耳に足音が鳴り響く。
「オクタビア、こっちは駄目だ。」
「分かったわ。それならこっちはどう?」
エドゥは耳を研ぎ澄ます。
「大丈夫。こっちには誰もいない。」
「先を急ぎましょう。」
エドゥの耳を頼りに二人は集落へと戻っていく。
霧深いおかげで暗殺者たちから姿が隠せるのは幸いだった。
同時刻、ナタリーとマクシモヴィッチもまた里に戻ろうと歩いていた。
「待った。何かが近づいてくる。」
「何?あたいには何も聞こえないわよ。」
「危ない!」
マクシモヴィッチがナタリーを突き飛ばす。
ナタリーがいた場所に鎌の刃が通る。
「ありがとう……。」
「まだだ、次が来るぞ!」
「そんなこと言われても……。どうすれば良いの?」
「こういう時は走るのが一番だ。ダッシュダッシュ!」
ナタリーとマクシモヴィッチが森の中を走る。
二人の前に分かれ道が現れた。
片方は上り坂、もう片方は下り坂になっていた。
ナタリーは上りの方を指さした。
「こっちでいいの?」
「止むを得ん。こっちだ!」
しかし、マクシモヴィッチは下り坂の方に進んでいった。
「ちょっと!?山を目指すならあっちじゃないの?」
「こんな状況で得体のしれん敵を引き連れてどうする。安心しろ、こっちから里に上がれる裏道がちゃんとある。今は敵を攪乱するのが先だ!」
「敵の名前はなんていうんだっけ?」
ナタリーはマクシモヴィッチを揶揄する。
「ハハハ、舐めるな。いつまでも覚えられないわけじゃないぞ。」
「じゃあ、言ってみてよ。」
「いいだろう……。」
マクシモヴィッチはしばらく沈黙する。
そして漸く口を開く。
「逃げるのに集中しろ!」
「あっ、今誤魔化した!ねー、誤魔化したでしょ!」
マクシモヴィッチが全速力で走りだす。
「あ、ちょっと!」
ゴソゴソゴソ
ひとり取り残されたナタリーに近づく音がする。
「あたいそんなに速く走れないわよ!」
ナタリーは必死に走る。
カタカタカタ
骨の鳴る音が辺りに響く。
ブン
「きゃあ!」
ナタリーの頭上に再び鎌が振り下ろされ、空を切る音が聞こえる。
彼女は風圧でバランスを崩す。
「ちょっと、あたいを一人にしないでよ。」
ズリッ
「きゃっ!」
ナタリーの足場が崩れる。
カタカタカタ……ブワッー!
倒れるナタリーの前に巨大な骨が姿を現した。
その巨体の素早い動きで霧が吹き飛ばされ、全身が露になる。
全体のシルエットはキングコブラ。
肋骨は胸骨が外れ、ブラブラしていた。
先程から聞こえていたカタカタという音はどうやらこのせいのようだ。
手は3対に増え、鎌が握られている。
カタカタカタ
骨が突進してくる。
ドヒュ――₋₋₋₋₋ン!!!!
ナタリーの背後からロケットランチャーがぶっ放された。
骨にロケット弾が直撃する。
骨は大きく後ろに飛ばされる。
「ちょっと!あたいに当たったらどうするのよ!」
「大丈夫だ。弾は木から作ってる。本物の威力には到底及ばない。」
「それって、倒せてないってこと?」
「あぁ、ただ押し戻しただけにすぎない。だから早く立ち上がれ!」
カタカタカタ
遠くから骨の鳴る音が聞こえる。
「こっちだ。こっちに抜け道がある。」
「ちょっと待って。足が‥‥‥。」
マクシモヴィッチはナタリーに駆け寄る。
「どうした!?」
ナタリーは足を押さえていた。




