✟「受け継がれる意志」1/4
Future eyes
エドゥとオクタビアは聖剣の台座に近づく術を模索していた。
「例えば、何かを投げるとするだろ。そしたらそれは何所に行くのかな?」
「んー。そこにある石で試してみましょ。」
オクタビアは石を拾ってくると、思いっきり投げる。
石は勢いよく弧を描き飛んでいったが、あるところで垂直に落ち始めた。
「やっぱり空間が歪んでいるんだな。」
「次はどうするの?」
エドゥは頭を悩ませる。
(ウィリー、何か良い手はないか?)
(さぁ?聖剣なんて今まで聞いたことなかったからね、さっぱりだよ。)
エドゥは自分の手札を確認する。
左手のサイコメトリー、右手の獣化、後は炎の能力。
(どれかを使えばこの状況を打開できるのか?)
半信半疑だが、長老の言葉を信じるなら出来るはずだ。
とりあえず地面に左手を付けてみた。
〰〰〰過去の記憶が呼び起こされる。〰〰〰
一人の青年が聖剣へと手を伸ばしている。
「これが、聖剣。これさえあれば……。」
剣に触れた時、青年の頭上から大きな音が鳴り響いた。
「?^◇!”#%$&」
「何だ?何者だ!」
上から大きな手が男に近づいてくるのが分かった。
男は剣を抜くと、その手から逃げるように走り出す。
男は剣を里へと持ち帰ると民衆を集めた。
「聖剣を持ち帰った。今こそエルフ族を滅ぼすときだ!」
オォ オォ オォ オォ オォ オォ オォ
オォ オォ オォ オォ オォ オォ オォ
沸き上がる民衆たち。
男たちはその強大な力を使い対立するエルフ族を次々と殺していった。
〰〰〰〰〰
エドゥは左手を離す。
(だめだ、全然関係ない記憶だ。)
オクタビアがエドゥに声を掛ける。
「どう?何か分かった?」
「一つだけ言えるのは、昔はこんな歪みはなかったってことだ。」
「そうなの?」
「僕は触れたものに関係する記憶が見えるんだ。」
「そんな能力まであるの?」
「まぁ一応ね、借りてると言うべきなのかもしれないけど。」
エドゥは台座の方に手を伸ばしてみる。
「悪いけど、無理そうだ。ひとまずナタリー達のところに戻ろう。」
エドゥが諦めかけていたその時だった。
風に揺られていた葉っぱの音が消え、辺りが静まり返った。
「オクタビア?」
エドゥは近くにいた彼女に声をかけたが返事がこなかった。
オクタビアは石像になったかのように、その場に立ち尽くしていたのだ。
「無駄ですよ。今、あなたと私以外の時は完全に止まっている。」
エドゥの後ろから声が聞こえた。
「誰だ?何故こんなことをする?」
エドゥは振り返るが、そこにあるのは森の木だけだった。
「そこにいるなら出てこい。」
それからピッタリと声が止んだので、エドゥは自ら声のする方へと歩いていった。
すると明らかに周りの木と違う一本の木があるではないか。
その木には人の顔が浮き出ていた。
「さっきの声はあんたか?」
「はい。気付いていただけて良かった。御覧の通り自分で歩くことが出来ないもので。」
「何か俺に言いたいことがあるのか。」
「えぇ、私はその聖剣を手に入れる方法を知っているのです。」
「何!?」
エドゥは驚く。
「本当の話か?」
「えぇ、元々私は教会の信徒だったのです。ある方に付き従い任務についていました。」
「ある方とは何者だ?」
「教会にその人の名を知らぬものはいないほどの有名人です。エリアス=サージェントという名を聞いたことはありませんか?」
聞いたこともなにもその人物にエドゥは一度会っていた。
ポータムポートでナタリーを追っていた能力者だ。
「重力を操る能力者のことか?」
「知っていましたか!ならば話が早い。」
木の男は嬉しそうな声を出す。
しかし、顔は一ミリたりとも動いてはいない。
「エリアス様に伝言をしてほしいのです。そしたら聖剣を手に入れる方法を教えます。」
「待て、伝言があるなら必ず伝える。だが、聖剣は今手に入れないとダメなんだ。」
「こちらも確実に伝えてもらわないと困るんです。聖剣は伝言をしてからでないと渡せません。」
「今の状況が分からないのか。聖剣がないとこの森からそもそも出られない。」
「どういうこと・・・うっ。」
木の男が急に苦しみだした。
「くっ、限界なのか。」
木から魂が抜けだしかけているのがエドゥの目に映る。
「どうした!?」
「私は正確には死んでいるんです。任務の途中に襲われて、私は仲間を逃がすためにこの体に火を放った。」
「何を言って…。」
「火事の後に種子が発芽するバンクシアという木を知っていますか?」
エドゥは首を横に振る。
「私が倒れたところにたまたまその木が生えたんです。私は必死にもがいてこの木に取り憑くことが出来た。」
「そんなことが。」
「私は一時的ですが、ドリュアスという別の存在になりました。」
(ドライアド、またはドリアードともいうね。なるほど、時を止められたのにも納得がいく。)
ウィリーが補足をしていく。
「この場でダークエルフ以外の種であるあなたに会えて本当に良かった。」
魂の形がはっきりと見えるようになってきた。昇天しかかっているのだ。
「待て、色々言われても困る。」
「いいですか?よく聞いて下さい。」
木の精霊、ドリュアスになった男からエリアスの伝言を伝えられる。
「分かった。絶対に伝える。」
「聖剣は山の守り神によって守られています。まずは・・」
男が何かを言いかけたが、その言葉はエドゥには届かなかった。
「何だ?最後に何を言いかけたんだ。」
エドゥの問いかけにもう返事は帰ってこなかった。
魂はそのままエドゥの中に入っていく。
【エドゥくん!エドゥくん!】
時が動きだしたようだ。
「大声出さなくても聞こえてるよ!」
オクタビアの大声に驚き、エドゥは耳を押さえる。
【そんな、大声出してないわよ。】
エドゥは先程、魂が自分の中に入ったことを思い出す。
(これは、超能力なのか!)
ズキズキとエドゥの頭が痛む。
【ザワザワザワ】
木々が揺れる音が鳴り響いていた。
(痛い!頭が割れる!)
【エドゥくん?大丈夫?】
オクタビアがエドゥの異変に気付く。
「待った。そこで止まってくれ。」
近づかれると困るので、エドゥはオクタビアにそう伝える。
【本当にどうしたの?】
「しっ、静かに!」
オクタビアはエドゥの強い口調によって気圧された。
風も止み周りが静かになると、ぼそぼそと声が聞こえる。
「まだ、諦めてないよ。」
「無駄なのにね。」
耳を傾けるとそのようなことを言っている。
「無駄ってどういうことだ!」
エドゥはそれらに語りかける。
オクタビアは余計なことをしないように息をひそめ、ことの成り行きを見守っていた。
「聞こえてる?」
「まさか?こんな小さな声聞きとれる訳ないよ。」
「聞こえてるよ。それよりどうすれば台座に辿り着けるか知ってるのか?」
ザワザワザワと木々が揺れる。
それは彼らが動揺しているからのだろうか?それともただ風に流されているのか。
どちらかは分からなかった。
「知ってるよ。山の守り神様がみだりに聖剣をとれないようにしてるのさ。」
「サンシャシャ様は聖剣を良からぬ者に渡すことを危惧しているんだ。」
「その守り神と会話は出来ないのか?」
「出来ないこともないよ。」
「どうすればいい。」
しばらくの沈黙の後、返事が返ってきた。
「笛。」
エドゥは耳を疑う。
「笛?」
「ただの笛じゃない。神様の笛。神笛。神様と対話できる笛。」
「そんなものどこにあるんだ。」
「さぁ?なにせ神笛だからね。ただの笛のようにそこらにあるわけじゃない。」
エドゥは膝をつけた。
(だめだ、今から笛を探す時間はない。終わりだ。)
額から流れる汗が地面に落ちていた。




