✟「三つ巴の戦い」1/4
a triangular struggle
ジンは周りを見回す。
あたり一面にあるブドウの木。
近くに流れる小川のせせらぎが今いるこの場所まで聞こえてくる。
彼は笑う。
「ハハハ!やった!再びここに来れた!俺は洗礼を受けられるんだ!」
「"山の老人"よ!俺はここに長老たちの魂を捧げよう!」
ジンは天に鎌を掲げる。
「この鎌に流れた血が証拠だ!さぁ俺を早く不死の存在にしてくれ!」
トントントン
杖が地面をつつく音が聞こえる。
(来る。"山の老人"の姿、是非とも一度この目に入れておきたい。)
ジンは音のする方へと目を向けた。
トントントン
杖の音が大きくなる。
確実に近づいてきているのが理解できた。
だが、姿が全くといっていい程見えない。
トントントン、チャリン。
ジンは自らの背後に何かがいる気配を感じ取った。
恐らく振り返ったところで何も見えないだろう。
しかし、振り返らずにはいられないのだ。
ジンは振り返ってみた。
やはり、何者もそこにはいなかった。
「うっ!」
ジンは突然苦しみだす。
(何だ、苦しい…。)
ポトッ
自身の皮膚がただれていくのを眺める。
不思議と痛みは感じていなかった。
次いで中身が零れていく。
だが、やはり何も感じない。
「はははは!おれは遂に不死身になれたんだ!」
ジンは笑う。
口から色々なものが零れていくのを感じたが、痛みがないことを感じると幸福感に満たされていく。
「ハハハhahahahaha,,,
カタカタカタカタ
やがて声も出ず。
最後に目が零れると彼は何も見えなくなった。
カタカタカタ
骨となった男は、顎の骨をけたたましく動かし依然笑っていた。
トントントン
トントントン
トントントン
チャリン
音がジンだった物から離れていく。
だが彼には最早そんなことはどうでも良かった。
笑い終わると彼はブドウに手を付けようと歩き始める。
パリン
手がブドウに触れた瞬間。
ジンは元の空間へと戻されていった。
「おい何だ、これ?」
ジンの目の前には偶然通りかかったダークエルフの戦士が一人いた。
カタカタカタカタ
ジンの肋骨が開く。
ダークエルフの戦士は突然現れた禍々しい存在に恐れをなしていた。
彼はジンに背中を向け逃げる。
「うっ!?」
ジンの鋭い肋骨が戦士の体を貫いていた。
衝撃波が発生する。
(何なんだよこいつ・・・。早く逃げないと・・・・。)
ボロボロの体を戦士は無理やり動かす。
(透明化の解除まで約5秒…それまでに奴に気付かれない場所まで逃げ切るんだ。)
ガシッ
「はっ。」
自らの体が掴まれているのを戦士は感じていた。
(見えてるだと!)
ギギギギギギ
そのままジンは手に力を籠める。
彼の握力は既にダークエルフ族のそれとは大きく異なっていた。
ギュー
握られたものは一溜りもなく、断末魔を上げることなく四散する。
掌に付着した血液を眺めるとジンは何事もなかったかのように歩き始めた。
暗殺教団の拠点にナタリーを閉じ込めた箱が現れた。
カチャカチャと鍵を開ける音が鳴る。
「はっ!やっと開いた!」
ナタリーは箱から吐き出された。
解放されたことをまず喜んだが、直ぐに不安が彼女を襲う。
(ここはどこなの?)
見たこともない場所に連れてこられたナタリーだったが、大体の見当はついた。
恐らくここは奴らのアジトなのだろうと彼女は考える。
(でも誰もいないのはどうしてなの?)
彼女は箱から離れ、物陰に隠れながら周りを確認する。
すると、一人の老体がこちらに背を向けているのが見えた。
「"山の老人"よ!我らに次の指示をお与え下さい!」
(あたいの存在に気付いていない?今なら倒せるかも‥‥‥。)
ナタリーは拳銃を組み立て、老体に向かって銃口を向けた。
依然、老人は動かなかった。
(やるなら今だ!)
ナタリーの額に汗が流れる。
なにしろ自身の手で他人を殺めたことなどないからだ。
彼女はただの鍛冶師だ。
自衛の銃は持っているにはいたが、これだって脅し以外で使ったことはない。
しかし、目の前にいるのは暗殺教団の一員。
生かしておけば、今日会ったダークエルフ達の命を奪うだろう。
手が震えている。
息も少し荒くなってきた。
彼女は深呼吸をする。
正義とは何か。
ここで動ける自分が動かなければどうなるか。
ー「逃げろ、ナターリエ。お前だけでも。」-
ナタリーは冷静になる。
(冷静になれ、あたい。こんなことで躊躇してたら、世界は壊せない!)
不思議と先程までの恐怖はなかった。
彼女は自分でも驚くぐらい冴えていた。
銃口は上へと向けられた。
バー―ン
ヘッドショットが決まった。
老体が纏っていたフードに穴が開く。
「いやはや。中々の暗殺センスですな。よろしかったら我々の仲間になりませんか。」
老人、その正体はハーシュ=フジャだが、彼は頭に銃弾を食らったにも関わらずナタリーに話しかけ始めた。
「嘘っ!」
ナタリーは思わず声を出してしまう。
「まぁ、そんなところに隠れておらずに出てきたらよろしい。」
彼女は警戒しながらも、物陰から姿を現した。
ハーシュ=フジャがナタリーの方へと振り返る。
ナタリーは驚いた、そして同時に理解した。
何故、頭を撃ったのに生きていたのかを。
彼は既に死んでいたのだ。
リビングデッド、かつて生命を失ったのにも関わらず生命活動を続ける生命体のことだ。
ハーシュは自らの頭に手を突っ込み、弾丸を取り除いた。
「フォフォフォ。生きていたら死んでいた。あるいは死んだから生きているというべきなのですかな。」
「あんたが何者だろうが、どうでも良いのよ。なんで罪のない者を殺すの?」
「全てはあのお方の復活のため。」
「山の老人…か。本気でそんなのがいると思ってるの?」
「あの方は今衰弱なされているのだ、我々は高潔な魂を捧げる。そして復活を遂げられた暁には楽園へと誘われるのです。あなたもその手伝いをしませんか?より多くの魂を捧げれば・・・
バー―ン
ナタリーはハーシュの口を弾丸で撃ち抜いた。
「神様がどうとか、山の老人だとか。あたいは勝手な大義を語って関係ない多くの人たちを巻き込む奴らが大っ嫌いなのよ!」
バーン、バーン、バーン!
ナタリーはハーシュに怒りをぶつけて発砲する。
銃の反動なんか彼女はものともしない。
確実にハーシュの頭を撃ちぬいていった。
「はぁはぁ。」
カチ、カチッ
弾が切れた。
「気は済みましたかな?」
ハーシュは全くの無傷だった。
「駄目だ。勝てるわけがない。」
ナタリーは銃を手放した。
(お父さん、あたい。ここで終わるかも…。今からそっちに行くね。)
「残念、あなたは才能があったのに判断を誤った。だが、安心しなさい。あなたの命は無駄にはならない、山の老人の元へキチンと送って差し上げましょう。」
ハーシュがナタリーの首元に手を掛ける。
「とうとう突き止めたぞ!なんちゃらなんちゃらのアジト!」
ダークエルフの男の声が辺りに響いた。
「ほう、面白い。お前のことは知っている。錬金術を操る戦士だな。」
「俺のことを知っているのか!なんでもいいけど、その女の子から手を離しな。」
ハーシュはナタリーを突き飛ばす。
ダークエルフの男は拾ってきた枝を握った。
枝は剣へと変化する。
すかさず男はハーシュへと切りかかった。
ガキ――ン
剣と剣が衝突する。
男とハーシュの間に割って入ってきた者の仕業だ。
それは男を追跡していた宮本だった。
「何だ、お前もなんとかの仲間か?」
「悪いが拙者、ただの飛び入り故。遠慮なくかかってくるといい。」
「次から次へと、別のところでやってもらいたいものだ。」
ハーシュ、ダークエルフの男、宮本がそれぞれを牽制する。
ナタリーは離れたところからただそれを眺め、事の行く末を見守るしかなかった。




