✟「腐った果実」3/4
ゴォォオオオ
この森に入った時に感じられた新鮮で清涼な空気というものは既になかった。
「何だよ。本当に‥‥‥。」
田畑や木々で緑一色に染められていた集落の影は今はなく。
それらは全て焼かれ、赤一色に染め上げられていた。
息を吸えば、肺が燃え上がるような熱い空気が入ってくる。
ガタガタガタ
上にある大きな建物が全焼し、崩れ落ちるのが目に入った。
「はっ!?相棒達は無事か?」
ピザファットは上の建物に通じる階段を駆け上がる。
焦りからか、上から降りてくる人影に気付かなかった。
「あれ?なんでここにいるんだ?」
ピザファットは目の前に突然現れた存在に驚きを隠せなかった。
逆光でよく見えなかったが、それでもその正体を理解した。
今日という一日しか喋っていなかったが、その少しおちゃらけた口調に少なからず共通点があると感じた
その正体は。
「ジンじゃねぇか。おい、お前達の大事な建物燃えてんぞ!」
「ハハハ、そうだな。」
「ハハハって…。呑気なこと言ってる場合じゃねぇだろ!」
「まぁ、あんたにとっちゃ好都合だろ?厄介なダークエルフ族が勝手に滅ぶんだから。」
「何を言って…。」
「古臭い老人はいつもいつもエルフ族エルフ族といつまでもお前達に固執する。」
「ジン?」
ジンは徐々に口調を強めていく。
「どうでも良いんだよ!俺にとっては!お前達との過去なんざ!」
「おい、落ち着けよ!」
「俺は認めてもらうんだ!そしてあの楽園で永遠に生き続けるんだ!」
ピザファットは顔に手を当てる。
(こいつラリッてんな。それにしてもなんか、このパターン多くねぇか?)
「さぁ、"山の老人"よ!俺は供物をここに捧げよう。俺に洗礼を施してくれ!」
「ハッハーン。お前、暗殺教団って奴だな!てことはつまり仲間を裏切ったんだな!」
ジンはピザファットを睨む。
「仲間・・・ね。あいつらは仲間じゃねぇよ。ただ同じところにいた他人だ。」
「そうかよ‥‥‥。」
ピザファットはジンとある人物を重ねていた。
(こいつを見てると、どうしてもラルフが重なっちまうぜ。)
ラルフ=ビョルケル。エドガーを殺した裏切り者。
(もしかしたら、あいつも最初から俺っちたちを仲間って思ってなかったのかもな…。)
「お前なんか気に入らねぇぜ!上手く言葉に出来ねぇけど!気に入らねぇ!」
「そうか。どうでも良いが、そこをどいてくれないか?」
「うるせぇ!仲間だろうが、なかろうが!他人の命を平気で奪える奴を野放しに出来っかよ!今度は俺っちがお前を牢屋にいれてやる!」
ピザファットがジンに向かって、殴りかかった。
ゴンッ
「痛ってぇー!」
ピザファットは自分の頭に衝撃が来たのを理解した。
ジンがカウンターをしたのかと思ったが、彼が手を動かした様子はなかった。
「てめぇ!能力使ったな?」
「なぁ、止めようぜ。お前は何をやっても死なないだろうし、俺はお前の攻撃なんか絶対食らわない。
時間の無駄だ。だいたい何でダークエルフをエルフが気に掛ける必要がある?」
「お前は分かっちゃいない!種族がどうとかそういう話じゃねぇんだよ!心の問題なんだ!」
はぁ、とジンはため息をつく。
「しょうがねぇ。面倒は嫌いなんだが。」
ジンがどこからか武器を取り出した。
「死ななくてもバラバラにしちまえば、しばらくは起き上がれねぇだろ?」
「やってみろよ!俺っちはお前に倒されるほどやわじゃねぇぜ。」
ピザファットはジンの手元に目を向ける。
ジンの武器は鎌のような形をしていた。
(少なくとも、こいつの能力が分からないうちは距離をとった方がいいな。あの武器じゃ遠くまでは届かねぇだろ。)
ピザファットはゆっくりと後退する。
「なんだ?来ないのか?」
「うるせぇ作戦があんだよ。」
「あっそ。じゃあこっちもとっととやりますか。」
ジンが鎌を振り回す。
(次は何をしてくる?)
ピザファットはジンの動きをよく観察する。
「はっ?」
思わず口からこぼれてしまった。
ジンの鎌から真っ赤な血が零れ落ちていたのだ。
ピザファットは自分の体に目を向ける。
「嘘だろ…。」
ピザファットの体に深い傷が切り刻まれていた。
その場に倒れ込む。
「やっぱり死なねぇよな。」
ジンが近づく。
傷口が回復する様子をまじまじと観察していた。
「俺ちょっとひとつだけ気になることがあるんだよ。」
「・・・何だよ・・・・。」
「例えばお前さんの体を真っ二つにするだろ?例えば上半身と下半身といった感じに。」
「随分猟奇的な発想だな・・・。」
「そうするとどうなるんだ?上半身と下半身、それぞれから新しく体が生えてくるのか?」
「んなことやってみなくちゃ・・・って嘘嘘!冗談だよな!?そんなの時間の無駄ってやつだよな。」
ジンの鎌が振り下ろされた。
「うぐぅ。」
ピザファットの意識が薄れていく。
(なんで上から振り下ろしたのに、横から切られたんだ・・・。)
ピザファットの巨体が地面に倒れた。
「さぁさぁ。どうなるかな。」
ジンは近場の石に腰を下ろす。
しばらくすると、ピザファットの体が再生を始めた。
「ふーん。再生が始まるのは上半身からか…。」
ジンは続けて下半身へと目を向ける。
「うっ、やっと回復したか。」
しばらくして、ピザファットの回復がようやく完了した。
しかし、下半身から上が回復することはなかった。
「ほう。意識がある方が回復するって思っていいのかな?」
「知らねぇって言ってんだ。」
「今度は脳を破壊する。ひょっとすると、お前さんの能力は脳が関係しているかもしれない。」
「へへっ。」
ピザファットは突然笑い始めた。
「どうした?まだ頭を破壊した覚えはないぞ。」
「ちげぇよ。ピンチとチャンスが同時に来たから可笑しくて笑ったんだ。」
「まぁ、いいや。お遊びは本当に終わりだ。」
ジンが鎌を担ぐ。
「じゃあな。」
ガシ
突然ジンの足を何かが掴んだ。
「あぁ、お別れだ!だけどよ!今度会ったら必ずてめぇの過ちを認めさせてやるぜ!」
ピザファットの脚がジンを放すまいと絡みついていた。
「こいつは、さっき切り離した体か!?」
「行け!爆発しろ!」
体が膨張していく。
「爆発だと!!」
ジンが絡みつく足を解こうとするが、間に合わなかった。
ドーン
激しい爆風が二人を襲う。
ピザファットは風に押されて近くにあった民家に突撃した。
ジンも同様に吹き飛ばされた。
彼の近くには障害物はなく、そのまま山から落とされた。
はぁはぁっと息を荒げながらピザファットは体を起こす。
「やったぜーーーーー!ふぅうううう!!」
ピザファットは両手を上げて、そのまま倒れ込んだ。
(だいぶ、血がなくなっちまったな。まぁしばらくすりゃ治るか‥‥‥。)
一方落とされたジンの方も少なからず怪我を負っていた。
(くそっ。ちょっと、舐めてたな。完全に回復特化だと思ったのに・・・。)
ジンは木の枝に手を伸ばす。
ズシリと枝がしなった。
(よし、このまま着地すれば怪我を最小限に出来る。)
ピキ。
ピキピキ。
ジンが地面に向かって降りたと同時に、空間にヒビが入る。
彼はそのまま吸い込まれていった。




