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ダイヤモンド・ダスト・トレイル「斜陽へと羽ばたく鳥」   作者: 白山 遼
❦薄明光線ー超大陸バンギア北西部ー
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❦+Another Story2「太陽は月を照らす」1/4

stomachache

 私は普通に生き、普通に死んでいければそれでよかった。


幸福でもなく、悲惨でもない。普通の人生があればそれでよかった。


私の産まれた村は特に何か名産品があるというわけでも、有名人がいるというわけでもなく、ただ農業や畜産をする他の村と何一つ変わらない、ただの村であった。


私はその村で生活し、その村で結婚し、その村で死んでいくはずだった。


それだけで本当に良かったんだ。




私が物心ついた頃、私は家の手伝いで小麦を収穫し、それを売り歩いていた。


これで生計を立てていたのだ。




この頃世間では、王政を廃止し、教会という名の組織が立てられていた。


勿論様々な問題が起こっていたようだが、私のような一般人はその日その日を生きるのに必死だったので、さほど関心を持っていなかった。


今思うとこれが悲劇の始まりだったのだろう。しかし、この時点で興味をもっていたとしてもおそらく結果は変わらなかっただろうけど。




しばらくすると、村に教会からの使者がやってきた。


この村を統治するといった一方的な通告だった。


当然村の人々は反発する。


しかし、教会の統治宣言から数日で村の治安はとても良くなったのだ。


村を襲う盗賊、作物を荒らすTeDeumテディウム、あらゆることへと迅速に対処してくれた。


始めの方は反発していた人々も、やがて感謝をするようになった。




教会は統治する際に、毎月の年貢を要求した。


それは当然私も例外ではなく、私の家も小麦を納めた。


月の収入が少し減ったが、それでも何とか生計は立てられていた。




問題はその後に起こった。


教会の天使と悪魔軍の衝突によって、遠い地で過去に類を見ない大戦争が起こった。


戦争によって食料などの物資がいつもより多く取られるようになったのだ。




そして悲劇は重なる。


謎の水質汚濁によって、作物が取れなくなってしまった。




私たちは、綺麗な水を運ばなければならなくなった。


今までのようにはいかないので、当然小麦の収穫量は減る。


しかし、教会へと貢ぐ量に変更はなかった。




世界の秩序のためだとかなんとか大義を語り、人々の食料を掻っ攫っていく。


私にはどうでもいいことに思えたが。




村の大人たちは教会の使者に掛け合った。


徴収する穀物の量を減らして欲しいといった要望を伝えに言ったのだ。


しかし、取り付く島もなかった。


仕舞いには悪魔に協力していると疑いを掛けられさらに多くの収穫高を要求された。




やがて教会のやり方に怒りを覚え、反抗するものもあらわれた。


私の父もその一人だった。


だが、そういうことをすればどうなるか皆考えていなかったのだ。


私だってそうだった。




私たちは離散させられた。


教会の正規軍とやらに追い詰められたのだ。


反抗した男は、アジカトラルという監獄を作るために強制労働に出され、女はエンジェルフォールという滝を作るために河川を引かされた。




残された私たちの生活は最低なものになっていく。


父はおそらく二度と帰ってこれないだろう。


度重なる重労働で母は病気で倒れてしまった。


私は一人で作物を育て続ける。




水を取りにいこうと村を出ようとしたときだった。


教会からの伝令だと言い、村に出るのには許可が必要になった。




皆体力の限界だった。


パンを影で取引したもの、月のノルマを達成できなかったもの、落穂拾いをしたもの。


苦痛に耐えかねたあらゆる人々が捕らえられていく。




私ももう限界に近かった。


ろくな食事をとらず、母の世話をする。




次の日私は晴れやかな気分で目を覚ます。


私は畑へと向かう。


途中で死体を見かける。


だが、そんなことを気にしている場合じゃない。


小麦を収穫しなければならない。生きるために。


また、家族皆で過ごすために。




私は病にかかった。


診療所へと向かったが、医者の口から「飢え」という言葉は決して言われることはなかった。


助けて欲しい。


あぁ、だれか。




私は村の出口にいる教会の人へと助けを求める。


しかし、彼らは隠しているパンでも食べていろと一蹴し、それ以上私の言葉に耳を傾けもしなかった。




一日一日がとても長く感じた。




次の日になるとまた私は晴れやかな気分で目覚める。


睡眠が私を癒してくれているに違いない。


あぁ、飢えもしない夢の中で過ごすことが出来たら・・・。




次の日も、その次の日も何とかその日その日を生きていく。


足りない。足りない。足りない。足りない、足りない、たりない、たりない、たりない。たりない、タリナイ、タリナイ、タリナイ、タリナイ、たりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりないたりない。




気付いたら私は家にいた。


なにやら辺りから香ばしい匂いがしているのが分かった。


あぁ、ひょっとしたら私は死んだのだろうか。


もはやどっちでも良い。


せめて、たくさん食べたい。




私は体を起こし、匂いの元へと向かう。


そこにあったのはこの間まで母とよんでいたものだった。


私は涙を流した。


あぁ、自分は随分前から母を食していたのだろう。


これが夢ならどれだけよかっただろうか。


私は肉をくらう。


旨い。旨い。


手が止まらなかった。


もう止められない。


理性は既に母と共に食らいつくした。




私は狂ったかのように笑う。


私のことを悪魔と呼ぶものも出てくるだろう。


だが、そんなことはどうでもいい。


生き残るのだ。私をこんな目に合わせた世界に復讐するまで。




そこからはよく覚えていない。


ただ私は二度とあのような辛い思いはしたくない。


その思いだけが強くなっていった。




あぁ、そんな私にも遂に罪を償う時が来たらしい。


体中に詰め込まれたもので私の体から弾ける。


そこで漸く私は正気に戻れた。


違うのだ。私は腹いっぱい食べたかったわけじゃない。


いつからかおかしくなっていた。


私はただ。




「わたしはただ普通に生きたかっただけなのに・・・。」




 そこで記憶は終了した。


エドゥが手を離す。


色々な感情が渦巻いていた。


彼女の最期の言葉はエドゥ一人にはしっかりと伝わった。




エドゥの目に涙が浮かぶ。


するとエドゥの周りを煙が囲んだ。


(これは!?)


エドゥはこの現象に既に2回遭遇していた。


一回目はキロネキシア島で、二回目はこの場所で。




少女の魂がエドゥの目の前に現れる。


「ありがとう。涙を流してくれて。」


「感謝なんかしないでくれ。もっと早く君のことを知れれば、別の未来もあったかもしれない。」


「ううん。私の未来はあの時決まっていたんだ。」


「今からでも何か出来ないか?」


「叶うなら、私たちの墓を建てて欲しい。それから二度と同じことを起こさないように教会に頼んで欲しい。」


「分かった。必ず、必ず。叶えてみせる。」


エドゥの言葉を聞くと少女は涙を流す。


「ありがとう。もう私が出来ることはないから。私の力をあげる。遠くから見守らせてね。」


「最後に名前を聞かせてくれないかな。」


「ガーブリエ-ン=クシュシュだよ。ありがとう、本当にありがとう、エドゥさん。」




ガーブリエ-ンの魂がエドゥの中に入っていく。




(ウィリー。)


(どうしたんだい?)


(僕はこれで3度もこの現象にたちあったが、何となく仮説を立ててみたんだ。)


(探偵見習いの君の意見を聞こうじゃないか。)


(能力者でこの世に未練を持った魂が僕に助けを求めているんじゃないか?)


(確かに、僕と今の少女はその条件で一致するかもね。)


(僕はエドガーも何か未練が残っていると思うんだ。)


(まぁ、そうかもしれないね。よく分かんないけど。)


(まだまだこの星でやらないといけないことが多そうだ。)


(ハハハ、律儀な性格で苦労するね。)


(自分ではそう思わないんだけどね。心残りがあるとモヤモヤするだろ?)


(あぁ、君にお願いして本当に良かったと思うよ。)




エドゥはウィリーと会話を終えるとそのまま仮眠をとった。


数分後、エドゥは体を起こし、先に休んでいたピザファットを叩き起こす。


「ピザファット、教会に行くぞ。」


「おぉ、何か分かったのか相棒。」


「あぁ、出来るだけ能力者を多く集めるんだ。」



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