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ダイヤモンド・ダスト・トレイル「斜陽へと羽ばたく鳥」   作者: 白山 遼
❦薄明光線ー超大陸バンギア北西部ー
62/506

❦「鍛」1/4

Can't survive without fighting .

 神鎧との戦闘が終わった次の日、エドゥとピザファットは事務所の掃除をしていた。


ガチャっと扉が開く音がする。


「おい、わりぃけど今準備中なんだよ。また後で来てくれねぇかなぁ。」




ピザファットが扉の方へ声を掛ける。


扉の方にはびしょぬれになっているナタリーの姿があった。




「うぉ!大丈夫だったか?」




ナタリーは濡れた服を絞り、事務所へと入っていった。


「えぇ、何とか。それよりも・・・。」


そう言うと彼女は辺りを見回した。




「どうした?」


エドゥが手を止め、何かを探しているような動作をしている彼女に質問をする。


「ホーカンソンさんに話があるの。」




「私ならここにいますよ。」


夫人が、部屋の奥から姿を現す。




「お願い、あたいにも部屋を貸して下さい!」


ナタリーは夫人に頭を下げた。




「おいおい、ここは宿だぜ。これがねぇとな!」


ピザファットは親指と人差し指で円を作り、お金のジェスチャーをする。




ナタリーは鞄から袋を取り出し、机に置いた。


袋の中には大量のお金が入っていた。


「これで、足りる?」




夫人がお金を数える。


「えぇ、5年以上は住めますわ。」




2人が机に積まれたお金を眺める。


『おい、相棒。俺っちたちはあとどれくらい住めるんだ。』


『-1か月。』


『マイナス!?どういうことだよ!マイナスって!』


『しょうがないだろ、仕事始めたばかりなんだから。お金が足りないんだよ!』




2人のひそひそ話にナタリーが割って入る。


「そういえば、私あなた達に依頼したのよね。」


「あぁ、確かそうだったな。相棒、書類を正式に作らねぇと。」


「ねぇ、条件を付けさせてもらえない?」


「どんな条件かな?」


「何も聞かずに、あたいの命を守って。・・・そうね、5年間は守ってもらいたいわ。それと、あたいがここにいることはここにいる人以外には秘密にして。」




ナタリーの突拍子もない提案に、2人は困惑していた。


「なぁ、相棒。どう思う?怪しさしかねぇけど。」


「教会は彼女に用があるみたいだしね。」


「じゃあ、断るか?」


「待った。仕事がないんだ。見た感じ報酬はしっかり払ってくれそうだし。…それに。」


エドゥはナタリーを見る。


『相棒、ひょっとして。惚れてんのか?』


「何!?」


『いやぁ、そんなにむきになるなよ。OK、俺っちに任せな。』


「おい、違うからな。」




エドゥの弁明を聞かずにピザファットがナタリーに話しかける。


「OKOK。その条件で受けるぜ!報酬は月にこれくらいでどうだ。」


「分かったわ。それで良い。条件を破ったら契約は破棄させてもらうから。」


こうして契約が正式に交わされた。




ナタリーは今度は夫人の方に向かうと、何かが書かれた紙を手渡す。


「部屋の感じなんだけどこんな感じに出来るかしら?」


「分かりました。完璧は無理かもしれませんけど、可能な限り近付けてみせますわ。」




「あっ、そうだ。」


ナタリーは何かを思い出し、ピザファットの方に顔を向けた。


「鎧、しばらく貸すから。改善点とかあったら報告して。」


「おいおい、何だよそりゃ。」


「それも条件に加えとくわ。」




部屋が出来るとナタリーは早速荷物を持って入っていった。




「ホーカンソンさん、一体どういう部屋を頼まれたんです?」


「それが、部屋というより工房に近いんですよね。」


エドゥとピザファットが紙を見る。


「凄いな。」


炉が置かれていたり、金床もおかれているのが分かった。


(彼女は恐らくドワーフという種族だろう。聞いたことがある。南大陸に彼女たちの種族の村があったはずだ。ピザファットの言う通りやはり君は彼女に惚れているのかい?)


ウィリーがエドゥに語り掛けてくる。


(いや。なんだろう。何かなつかしさを感じるんだ。そう、彼女のように・・・。)




ガチャとナタリーが扉を開ける。


「2人とも、中に入ってくれる?」




二人は言われるがままナタリーに従った。




「はい、これ。」


ナタリーは小型のガジェットを手渡す。


「これは?」


ピザファットは不思議そうにガジェットをクルクル回している。


「携帯?」


エドゥはガジェットを開いた。


「ケイタイ、かー。いい名前つけるじゃない。っは!もしかしてもうあるの?」


ナタリーはエドゥに掴みかかった。


エドゥに凄まじい力がかかる。


「痛い、痛い。放してくれ!」


「っは!ごめんなさい。あたいの自信作だったから、つい。」


「今はスマートフォンっていうのが主流だけどね。」


はっとエドゥが気付いたときには、もう遅かった。


先ほどまで残念がっていたナタリーが、スマートフォンという聞いたことのない名前に興味をもっていた。




「えっ!?何!何?す、、何?何それ?」


エドゥはナタリーに揺らされている。




エドゥは昔を思い出す。地球の頃の記憶。


(彼女も、好奇心の塊のような人だった・・・。)


エドゥの脳裏に過去の記憶が呼び起こされる。



「まだ、調べものをしているのかい?」


「えぇ、まだレポートの提出まで1日あるわ。」


「でももうレポートの結論は出ているんだろう?」


「これは、昨日の私の結論なの。今日の私はもっといい結論が出せるわ。」


大学の図書館で閉館時間ギリギリまで調べものをしていた彼女の姿を僕はよく見ていた。


サークルの活動もあるというのに、彼女は時間を見つけては図書館で調べものをしていた。


彼女は頭がよかったが、それをひけらかすことなく謙虚にふるまっていた。


なるほど、そんな人がモテないはずはない。


彼女は常に輪の中心にいて・・・。



「ちょっと、聞いてる?」


はっと、エドゥは我に返る。




『相棒!そんな調子じゃだめだ!もっとクールにいけ!』


ピザファットが耳打ちする。




ピザファットの顔を押しのけ、エドゥはスマートフォンについて語る。


「なるほどー。そんな高度な機械を作れる職人がいるのね。あたいもまだまだってことかー。」


ナタリーは落ち込んだが、直ぐにエドゥの話から得たアイデアを書き留めていた。




「でもそれってよぉ多分、地球の話だろ?」


ピザファットがフォローをいれた。




「ちきゅう・・?また、あたいの知らない言葉が出てきたわね。」


ナタリーがメモを取る。


ピザファットがエドゥから聞いた話を得意そうに喋った。




「星。・・・考えたこともなかったわ、そんなこと。」




話が終わると、ナタリーはピザファットの時と同じように感動していた。


「じゃあ、このケイタイっていうのはこの星であたいが初めて作ったものってことで良いの?」


「あぁ、多分な。」


「それで間違いないと思うよ。」


「何か、引っかかるわね。ピザファットはあたいと同じ星に住んでいるんでしょ。大陸の情勢ぐらい知っているんじゃないの?」


「いやぁ、俺っちも相棒と似たようなものだと思うぜ。ずっとある島にいたし。」


「え?何て名前の島?」


「言っても分かんねぇと思うけど。」


「キロネキシアって名前さ。」




エドゥが放った言葉でナタリーは言葉を失う。


「キロネキシアって、あの?」


「一応聞くけど、どんな風に聞いてる?」


「間違ってもその島に行っちゃいけない。島に近づくと狂暴なエルフに襲われ、骨も残らないとか。」


(あながち、否定できねぇのがつらいな。)


ピザファットの額から脂汗が垂れる。

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