❂「Walking on thin ice」1/12
問い詰めるようなエドゥの声に、ナディアは一度だけ瞬きをし、それから静かに頷いた。
「問題ない。この武器で──邪魔者、排除する。」
ローブの隙間から、鋭い金属音とともに銀色の刃が覗いた。一本は細身の短刀。もう一本は、それに対してあまりに長大な太刀だった。鞘に納められたままでも、尋常ではない重みと存在感が伝わってくる。
「二刀流か……短刀は分かるが、その太刀は──引き抜けなくないか?」
カリムの懸念は当然だった。背丈とほぼ変わらぬ長さの太刀。常識的に考えれば、戦いの場では無用の長物だ。
「それも問題ない。──説明できる、けど、見た方が早い。」
ナディアの目に、かすかに光が宿った。その直後──
ドドドドドドド……ッ!
地面が震え、空気が裂けるような振動が走った。荒野の奥、砂を割って現れたのは、うねるような巨大な影──サンドワーム。鋭く伸びた顎が、獲物を探すように空中を舐める。
「おあつらえ向きだな……お手並み拝見といこうか。」
エドゥは息を呑んだ。ナディアはすでに身構えていた。風が止む。次の瞬間、少女の影が一閃する──。
(はやい──! もう、あの巨体の間合いに…!)
砂煙の向こう、ナディアの姿が風のようにすべり込んでいた。見上げるサンドワームの口元が大きく開くと同時に、内部で砕けた岩が吐き出される。
「ボゴォワシャー!!」
咆哮とも爆音ともつかぬ音とともに、鋭い石礫が空を裂いた。
シャキン!
鋼の閃光。ナディアが左手の短刀を抜き放ち、刹那、宙を飛ぶ石を正確に一刀両断した。断面はまるで紙を裂いたかのように滑らかで、地面に落ちる音さえも遅れて聞こえてきた。
(すごい……! 一本だけで、ここまでやるなんて……)
カリムは無意識に息を飲んだ。
そして次の瞬間、ナディアの右手が太刀の柄に触れる。その長大な刀身は、どう見ても彼女一人の力では抜けないだろう──そう思った、刹那。
ふわり、と。
ナディアの背中で風が渦巻くように、ローブの裾が舞い上がった。そして、生き物のように動いたそれが、まるで意志を持ったかのように太刀の鞘を後ろから支えた。
(……ローブが、動いた!?)
まるで協力者のように彼女に寄り添う衣。人智を超えた何かを見たような気がして、カリムは思わず背筋を正した。
(──これなら、抜ける。)
静寂を切り裂くように、太刀が鞘を離れる。瞬間、刃が太陽の光を鋭く反射し、辺りに閃光をばらまいた。
眩しさの中、ナディアは軽やかに跳躍した。その足は、まるで翼でもあるかのように、宙に舞い上がったローブの肩へと乗る。風を蹴り、雲間を裂くように、彼女はサンドワームの上空へと躍り出る。
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