❂「青星の民」10/12
「でも、約束する。このレースに勝って――女王に君たちの意見を伝えると。」
「だから君たちも約束してくれ。レースが終わるまでは――戦争を起こさないと。」
しばしの沈黙があった。
その場にいた誰もが、次の瞬間の空気を固唾を呑んで見守っていた。
コーデリアは驚いたようだった。
眉がわずかに動き、その口元がほんの一瞬だけ、迷いを見せる。
「……一つだけ、条件を呑んでいただければ。良いでしょう。」
カリムは無意識に息を詰めた。喉がごくりと鳴る。
――来た。どうせ無茶を言われるに決まっている。
その予感が、心の奥で警鐘を鳴らす。
「ナディア、こちらへ。」
彼女の声が静かに響くと、一団の後列から、一人の少女が前へと歩み出てきた。
まだ若いが、芯のある目をしていた。
その足取りはためらいなく、しかし慎重で、砂を踏む音さえ計算されているかのような気品があった。
「彼女を、あなた方と同行させてください。」
言葉は穏やかだったが、否応なく“条件”の重さを感じさせた。
「レースの勝率を上げるための補佐、我々との連絡係――そして、あなた方が裏切らないかどうかの監視役、と思っていただければ。」
一瞬、カリムの脳裏にエドゥの顔が浮かんだ。
(エドゥのことも、当然ながら把握しているだろうな……)
少しだけ迷ったが、それ以上深く考えても意味はなかった。
選択肢は、初めから決まっていた。
「わかった。――呑もう。」
カリムはしっかりと頷き、ナディアに軽く視線を送った。
彼女は何も言わず、ただそのまま、静かにカリムの横に並んだ。
二人の影が、夕陽に長く引き伸ばされ、ひとつに重なる。
そしてカリムは、ナディアと共に、静かにその場を去っていった。
§
しばらくして、砂塵の向こうから人影が現れた。
遠目にも、見慣れた歩き方だった。
「エドゥ!」
カリムは声を張り上げ、駆け寄ろうとした。
「説明させてくれ!」
だが、その表情を見た瞬間に、言葉が喉で凍りついた。
エドゥの顔には、いつになく鋭い緊迫感が浮かんでいた。
「説明はあとだ! 急いで逃げるぞ! バギーに走れ!!」
「!? な、何が――」
言い終える暇すらなかった。
地面が、鈍く唸るように揺れた。
地鳴り――いや、何か“巨大なもの”がこちらに向かって突進してくる振動だった。
振り返ると、砂の地平線の向こうから、うねるように現れる無数の影。
二足で歩き、外骨格の鎧をまとった、昆虫のような異形の生物たち――。
その眼光は暗く、燃えるような殺意を宿していた。
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