❂「青星の民」8/12
空を切る風が、彼女の髪を揺らす。
黄昏の陽が、赤く地平線を焦がしていた。
「女王は国力を強化することにしか関心がなく、怪しげな兵器に大量の投資をしていました。」
その声は、まるで記録された歴史の断片を淡々と読み上げるかのようだった。
感情を排し、それでも言葉の奥には拭えぬ怒りと哀しみがわずかに滲む。
「度重なる増税に人民の暮らしは貧しくなるばかり。」
「耐えかねた者たちは国を出て、組織を作りました。」
「それが我々、“青星の民”なのです。」
カリムは目を伏せた。
乾いた砂の地面に、影が長く伸びていた。女王の政治が、すべての民に幸福をもたらしていないことは、彼自身痛いほど理解していた。
王宮に生まれながら、彼は幼い頃からこの国の「歪み」を目にしていた。
差別。貧困。腐敗。
それらは、王家の煌びやかな天蓋の影で、誰にも気づかれぬまま静かに、確実に広がっていた。
スラム街に沈殿した絶望を、彼は知っていた。
だからこそ、名もない市井の人々にこっそり手を差し伸べていた。
見返りなど求めず、ただ、その苦しみを少しでも和らげたかった。
――だが、それでも。
目の前にいる彼ら――この“青星の民”には届かなかったのだ。
「私たちは安心して暮らしたいだけなのです。」
静かに語られたその願いには、装飾も誇張もなかった。
あまりにも素直で、あまりにも切実だった。
コーデリアの瞳には、一片の偽りもなかった。
少なくとも、今のカリムには、そう見えた。
カリムはゆっくりと顔を上げ、彼女の方を見つめた。
そのまなざしは、まるで真実を見極めようとする審判のようだった。
――その願いが、間違っているとは思えなかった。
だが、一つだけ。
どうしても、引っかかるものがある。
「君は以前、僕が真の王様だと言ったよね。」
問いかけると、コーデリアはその長い睫毛をわずかに伏せ、静かな敬意をにじませて頷いた。
「えぇ、その言葉に嘘偽りございません。」
「理由を聞いても?」
「そうですね、大きく2つあります。」
その声には、まるで預言を語る者のような確信があった。
それは単なる忠誠心ではない。
理性によって形作られた、強固な信仰だった。
「1つは、弱者の気持ちを理解できるということです。」
「そして理解だけではなく、実際に行動にも起こしていらっしゃった。」
言われた瞬間、カリムの胸に、淡い震えが走った。
誰かに認められたいと思ったことはなかった。
善意は、ただ目の前の悲鳴に反応した結果にすぎない。
――それでも。
心の奥に潜んでいた何かが、確かに報われたような気がした。
ほんのひとときだけ、彼は目を細めた。
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