❦「探偵業 始めました。」2/4
そんな状況の中、ピザファットは目をウルウルさせながら手当たり次第に声をかけていった。
女性限定だったが……。
「へーい!そこの綺麗なお嬢さん!俺っち達今雨宿り出来る場所を探しているんだけど、良い場所知らなーい?」
多くの女性が無視するか、ピザファットに一撃お見舞いするなか、一人の女性がピザファットに話しかけてきた。
「あの、よろしかったら私のお屋敷に泊まりませんか?」
女性は見た目が若かったが、その雰囲気は既に大人の女性のそれと大差なかった。
「え、良いんですか!!!」
ピザファットがその女性の手を握った。
「えぇ、そちらの相棒さんもよろしかったら。」
「ありがとうございます。助かります。」
エドゥは深々と頭を下げる。
女性の案内されるまま歩いていると街はずれの廃屋に着いた。
「着きました。どうぞ。」
不意にピザファットがエドゥの肩を叩く。
「なぁ。」
「どうした?」
ピザファットが女性に聞こえない様にひそひそと話す。
「なぁ、あんま選り好みできる立場じゃねぇってのは分かってんだけどよ。これはあんまりだぜ。」
「バカ、屋根があるだけマシだ。」
「すいません。外見はひどいですけど、中はちゃんとしてますので。どうぞ、おあがりください。」
2人の会話が聞こえたのかどうかは分からなかったが、女性は自嘲気味に笑っていた。
その笑顔はどこか儚げで、妖美だった。
ーポータム・ポート ビーカーストリートC番地ー
女性の話ではそれが住所なのだとか。
「さぁ、雨が強くなってまいりました。たいしたお構いは出来ませんが、どうぞお上がり下さい。」
「ありがとうございます。」「ありがとう!!!」
二人は廃屋・・・ではなくボロボロの民宿といった方が良さそうな建物に入っていった。
「え!?」「はいっ!?」
建物の中に入ると外見からは想像できないぐらい広く、豪華な空間が広がっていた。
「さぁ、どうぞ。自由にして下さって構いませんからね。」
女性は紅茶を入れ、テーブルの上に置いた。
2人は椅子に座り、紅茶を飲む。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は、エドゥ=ベレンです。」
「そして、俺っちは、あぁ~イケメンのピザファット様だぁ!」
「クリスティーナ=ホーカンソンと申します。」
しばらく3人は色々な世間話をしていた。
2人が世俗に疎いこと、金がまったくないこと。
この建物は民宿で、クリスティーナさんの亡き夫が経営していたこと。
そして、今は客足が遠のき経営難になっていることなどを。
「申し訳ない、ホーカンソン夫人。困っていたところを助けていただいたのに。」
「くそ!あの時大勝ちしていたらなぁ!」
「いいんですよ。私の主人がよく言っていました、困っている人がいたら利害を無視してでも助けろと。
まず縁を大事にしたいんだと。」
二人は必ずこの夫人にお礼をしようと心に決めた。
さて、会話に夢中になっていると、窓から雲一つない青空の光が入り、部屋を照らした。
「きゃ。」
丁度、紅茶のおかわりをホーカンソン夫人が運んでいた時だった。
パリンとカップが割れる音がした。
「大丈夫です・・・・か?」
慌てて夫人のもとに駆け寄ったが、そこで信じられない光景を見ることになった。
「手・・が・・・、ない!」
先程まで確かにあった手が消え、トレイに乗せていたカップが床に落ちていた。
「はっ!」
夫人の表情が変わった。彼女は慌ててカーテンを閉め、光を遮った。
「おっ!」
ピザファットの丁度後ろに位置していたカーテンが自動でしまった。
「あぁ、なんということでしょう。こうなったら仕方ありません。」
「相棒!危ねぇ!」
食器棚から、配膳台から、ガチャガチャといったけたたましい音が鳴り響いた。
鋭利な刃物が二人を目掛けて飛んできたのだ。
「ピザファット!一旦外に出るぞ!」
「OK!先に行ってくれ!」
「すまない。助かる。」
エドゥはピザファットに守られながら、飛んでくるナイフやフォークを掻い潜っていく。
そして民宿の扉を思いっきり開けた。
「よし!...ってあれ?」
エドゥは扉を確かに開けた。扉の先は路地裏に繋がっている、はずだった。
だが、そこは先程の民宿の一室と変わらない場所であった。
いや、正確に言うと内装は変わらない。しかし、そこに夫人とピザファットの姿はなかったのだ。
慌てて今開けた扉に戻り、もう一度あの部屋に戻ろうとする。
ドアノブに手をかけ、扉を開ける。
「うぉ。」
今度は、中庭らしき場所に着いてしまった。
(どうなっているんだ。ワープさせられているのか?夫人にもやはり能力がある?)
エドゥは1回、深呼吸をし辺りを見回した。
(今度は、窓が6つ、扉が今来た場所1個、向かい側に1個か…。)
エドゥが思案に暮れていると、窓から人影が見えた。
「ちょっ、待った。冗談だって。おばさんって言ったの怒ってんの?」
ピザファットだった。
「おい!何だよ、さっきこんな中庭無かっただろ!ん?おーい、相棒助けてくれ!」
窓枠にぶら下がっているピザファットが、エドゥに助けを求める。
「お前なら大丈夫だ。落ちてこい。」
「ひでーな。もうちょっと俺っちを大切にした方が良いぜ。」
ドスンとピザファットが地面に落っこちる。
「言った通りだったろ?」
エドゥが笑いながら、ピザファットに手を差し伸べる。
「全く、調子の良い野郎だぜ。」
ピザファットも一緒に笑って、その手を取った。
「で、相棒よ。こっからどうする?」
「夫人と話をしないといけないな。」
「よっしゃ。俺っちに任せな!夫人を捕まえれば良いんだな。」
「おい!どうするつもりだ?」
「こうするのさ!!!」
ピザファットが、思いっきりその巨体で突進していった。
ピザファットの姿が消え、エドゥは一人取り残されていた。
(意外とああいうやり方が良いのかもしれないな。俺も総当たりするか。)
そして、エドゥもピザファット同様に目に入る全ての扉を開けていくのであった。
バン、バンっと次々と扉を開けていく。
(ここにもいないか。)
エドゥは、たまたま他の部屋とは異なった雰囲気の部屋へと入り込んだ。
(この部屋だけ、異様に綺麗だな。)
ぐるっと部屋を一周してみる。
壁いっぱいに本棚を敷き詰めていて、中心にはマホガニー材で出来たニーホールデスクが置いてあった。
引き出しを開けてみる。
そこには書類が綺麗に並べられていた。
(エドワール=コクトー、連続殺人犯…か。本業は医者、治療と称して非道徳的な実験を繰り返してきた、実験に選ばれた者は必ず死に、その数なんと120名にも及んだ。か。)
パラパラとファイルをめくる。
(ヴラジュアル=ヴァインレッド、吸血鬼としては最も古くから確認されている一体か。吸血鬼!?いやしかし、エルフといいファンタジーのような惑星だな。そのうちドワーフ、妖精、ドラゴンなんて出てきたりして…。)
エドゥはファイルをしまう。ふと、部屋の中が煙に包まれているのを感じた。
「!?」
後ろに気配を感じる。
振り返ると何者かが、椅子に座っていた。
「……」
その者はエドゥに顔を向けることなく煙を吹かしていた。
(この感じエドガーから力を受け継いだときと同じ感覚だ。)
「あの。お邪魔してます。」
「……。」
相手からの返事は来なかった。
エドゥとその者の間に沈黙が流れる。
「君のその右手…」
ようやくその者の口が動いた。
まぁ煙のような姿であったからそう見えたという方が近いだろう。




