❦「第2の人生」2/2
私はそう誓い、街を目指した。
私は捕まる以前はパピルスという町で診療所を開いていたが、顔が知られている以上戻ることは出来ないだろう。
あの町は患者の病気具合でどこの地区に送るかを決めている。
その際に必ず細かなチェックを受けるのだ。
となると、別の場所に移動しなければいけない。
私がそう考えていると、後ろから声が聞こえた。
「おいおい、死刑囚の遺体がここにあるってどういうことだよ。しっかり墓場に埋葬してやらねぇと。」
声の主はどうやら私が生きていることに気付いていないらしい。
まぁ、気付く方がおかしいというものだが。
私の頭が持ち上げられた。
それと同時に私は声の主の首元にガブリと噛みつく。
その主は完全に油断しきっていたらしい、隙だらけだった。
私はてっきり、声の主がゾンビになるとばかり思っていた。
が、実際にそうはならなかった。
私に触れられた首の部分が、粘土のようにペコっとへこんでいたのだ。
声の主は、夜で姿はよく見えないが、声と大きさから中年の男性のように感じられた。
男はびっくりして私に背を向けて逃げ出そうとしていた。
だが、どうやら気道が押しつぶされていたらしく、しばらくすると苦しそうにその場でうずくまった。
私はじっくりとその様子を観察していた。
なるほど、私の仮説はどうやら間違っていたようだ。
まぁ、仮説が当たることなど、そんなに起こりうることでもないから問題はないが。
なら、別の仮説を立てればいいだけのこと。
先程からずっと比喩で粘土、粘土といってきたが、本当に粘土にしているのではないだろうか。
私はうずくまっている男の背中を噛み始めた。
皮膚が簡単にボロボロ取れ始めた。
今度は当たっているのではないだろうか。
私はさらに道端にある石を噛んでみた。
うん、あらゆるものを粘土のように出来る能力といった線で良いだろう。
私は再び男の方へ頭を転がした。
男は既に息がなかった。まぁ別にそこに興味はないのだが。
放せるということは、逆にくっつけることも出来るはずだ。
私は男の皮膚を自分の首にくっつけていった。
こうして私は体を手に入れた。
少し動かしづらいが、この辺は今後の課題としておこう。
今度は男の荷物を漁った。
男の名前、住所、職業を徹底的に洗い出す。
色々な情報が手に入った。
ここは、アジカトラルという監獄で、男は死体の洗浄、汚物処理などをしていること。
そしてここから出るには門をくぐらなければ行けないということも分かった。
しかし、この男が私と同じ精霊でよかった。あまりにもかけ離れた種族の体だったら上手く動けなかったに違いない。
私は残っていた男の顔で型をとり、精巧に男の顔をコピーした。
最期に男の顔と証拠となりそうなものを全て土に埋め、門へと向かった。
それからはもうおかしいのなんの。
誰も私を不審がる者はいないし、中にはいつもどおりといった感じで話をしてくる門番までいた。
こうして、私はアジカトラルの外へと出ていった。
さて、この後どこへ向かうべきか。
門番の話によるとここからまっすぐ進めばパピルスに着くらしいが。
東の方に教会と見られる集団がいるのが目に入った。
私の脱走がばれたのかどうかを確認するいい機会かもしれない。
私は野次馬に紛れて話を聞いてみることにした。
だが、それは全く関係ないローブ男の噂だった。
何でも、その男のせいで何百もの教会の仲間が殺され、森の大部分が破壊されたとのことだった。
少しだけ森の入り口の方を眺めてみた。
私はそのローブの男を知っているわけではなかったが、能力の予想は容易だった。
ジギュレムの遺跡にあった壁画で見たことがあった。
酸性雨とかいう現象だ。
それに違いない。
つまり、ローブの男の超能力は酸性雨を降らせるといったものだろう。
まぁ、関わることはなさそうだが。
それから、しばらくすると私はその場から離れ、パピルスの方角をながめていた。
様々な思いが頭を巡った。あの果実について記したレポートや実験器具、その他いろいろなものを回収したい。だが、今ラボに行けばすぐに正体が割れるかもしれない。
パピルスに住む医者の中には教会に属する能力者も少なからずいる。
迂闊なことはしたくない。何か大きな事件でもあれば、騒ぎに紛れて色々回収できるのに。
空を見上げる。
今日は満月だった。
今日は何かとツキがある。
・・・なんちゃって。
私が馬鹿なことを考えていると、急に背後に何かの気配を感じた。
私はゆっくりと後ろを向く。
そこにいたのは体が膨らんでいる、何ともおぞましい生き物だった。
私はその化け物を観察する。
xx0259。
そう皮膚に刻まれていた。あとは、鱗らしき後が見られた。
魚人か?はたまた半魚人か?
私は化け物を前に考え事をする。
この化け物は一体何故私の前に現れたのだろう。
さっきの教会の関係者の話から察するに私が実は生きていたことはばれていないはずだ。
そう考えると、教会からの刺客という線はなくなった。
大体こんなものを作ろうなんて、神に背く行為だ・・・こりゃ。
・・・では何だ?全く心当たりがない。
私がしばらく動かなかったからだろうか。
化け物がこちらに向かってきた。
巨大な爪が私を襲う。
誰が見たって、一発当たっただけでも大怪我する大きさの爪。
私は爪を避け、化け物の腕を掴んだ。
化け物は腕を直ぐに引っ込めようとした。
私はそれとは逆の方向に力をこめる。
綺麗に腕がもげた。
私は感慨にふけっていた。
たしかに研究というものは面白い。
飼っていたカブトムシの首がもげ、中身が見えた時から私は色々なものの中身に興味を持ってきた。
だが、それ以前の子供の遊びというのも以外と捨てたものではないかもしれない。
粘土遊び、昔は色々なものを作っていたっけ。
私は昔の事を思い出す。
その度に涙が出る。
あぁ、もしかすると。もしかすると。
長年叶わなかった、そして捕まらなければ決して叶うことのなかったであろう願い。
そのことばかりを考えていた。
その願いを叶えるためにも、仲間を作らなくてはならない。
私は四肢をもがれ動けなくなった、化け物を見下ろした。
最後の抵抗といったところだろうか、化け物が皮膚から高圧の水を噴射した。
私の顔にそれがかかると私の顔は一瞬で吹っ飛んだ。
これは、強さも申し分ない。
私はワクワクしながら、もぎ取った化け物の四肢を小さく千切り血管に詰めていった。
化け物はピーピー叫んでいたが、やがてしばらくすると何もしゃべらなくなった。
当初の予定では、顔を奪った男の家に潜伏するつもりだった。
しかし、その顔も吹き飛んでしまい元の形に戻せない。
私はとりあえず、顔をましな形に整えていった。
これからは、常に鏡を持っておこう。
そう心に誓った。
ところで、魚人の怪物だが。そのままの形で持っていくにはでかすぎたので、いくつかに切り分けて鞄につめたり、靴に詰めたり、体の見えないところにつけたりして運ぶことにした。
しばらく歩いていると村を見つけた。不思議なことにその村には誰も住んでいなかった。
ところどころ地面が沈んでいたり、破壊の後があったので夜盗にでもあったのだろう。
わたしは特に気にすることもなく、一番近くにあった家に入りそのままぐっすりと眠った。
処刑された次の日がやって来た。
本来私がこの世に存在しない日。
不思議な気分だ。
私は再び村を回った。誰かいるとまずいからだ。
昨日は暗くて気づかなかったが、この村、いたるところに血の跡がある。
しかし、生きているものはおろか、死体すら見かけなかった。
つまり、誰かが死体を片づけた。ということになる。
では一体だれが?
私はもっとこの場所で起こったことを調べなければならない。
しばらく歩いていると布の切れ端が落ちているのを見つけた。
布にマークが刺繍されていたようだが、切れたり焼けたりして全体像が見れなかった。
どこかの組織間の抗争か?
それとも能力者の仕業か?
いずれにせよ、ここで何かがあった。
それだけは揺るぎない事実だ。
ここに居続けていいものか。
私は思案に暮れた。
私以外誰もいないというのは凄く良いのだが、不確定要素があるというのも辛いところだ。
この事件を引き起こした能力者が戻ってくることも十分に考えられる。
しばらく考えて、私はここに残る選択肢を選んだ。
私だって既に能力者だ。何を臆することがある。
何ならこの村に来た者全てを制圧してみせよう。
私は村の中で一番大きな建物を見つけ、そこを拠点とすることにした。
昨日分解したxx0259の体を再びつなぎ合わせる。
とはいっても暴れられないようにサイズはかなり小さくしたが。
私に千切られてもどうやら痛みはないらしい、つまり私の能力による殺害は不可能。
この点は不満だ。
まぁ、今後の課題としておこう。
少し観察していたが、この化け物はどうやら学習というものをしないらしい。
記憶が出来ていないというか・・・。
・・・スコポラミンか?
だとすると実に効率的な兵の作り方だ。
数年前から度々話題に上がっていた振りかけられたものをゾンビのように扱える“悪魔の吐息”と呼ばれる粉がある。
その粉の成分がスコポラミンというのだが…。
もし本当にスコポラミンなら、AH社とかいう新興組織の仕業に違いない。
その存在を知られる前から色々仕込んでいたみたいだが。
まぁ、急いで結論付けることでもないか。
こいつの他にも化け物はいる。いっぱい捕まえて研究していけば、いずれはっきりすることだろう。
化け物のことはいったん置いておいて、私は自分の能力の訓練を始めることにした。
いくら仲間を集めても私自身が弱くては話にならない。
私は村から少し歩いたところにある洞窟へと入っていった。
こういう場所には恐ろしい化け物などが巣をつくることがあるのだ。
私の読み通り、何か所か目ぼしいところを見つけた。
世界よ、待っていろ。私が頂点に立つその日を。
こうして私の第2の人生がはじまっていくのだった。




