◕「最後の芸術」1/4
Giudizio Universale
今にも消えてしまうのではないかと思うぐらい、影が足にすっぽり入っている。
時計がなくても今が正午だと分かった。
顔を上げて、空を見る。雲一つない快晴だった。
風が吹き木々が揺れる。木漏れ日が出来、カーテンのように男の目の前の景色を包み込む。
このまま男は今日もいつもと変わらぬ一日を過ごしていくのだろうなぁと心の中で思っていた。
男は島の離れに住んでいて、その日はたまたま仕事のない休息日であった。
家にずっといると気が滅入る気がして、気分転換に散歩をしていたのだ。
このままどこに行こうか迷っていた時だった。
(あの狼煙の数、何かあるな。)
方々から煙が上がっていたのが分かった。
幾ら鈍感、ものぐさな男でもこの事態に、いつものように無視を決め込むようなことは出来なかった。
(卬の役目を果たすとするか。)
そうして、男は近くの狼煙が上がっているところに向かっていった。
「おぉぉぉぉぉぉ~~~~~。」
ピザファットは川を流れている最中だった。
川の流れは思ったより早く、逆らって泳ぐことは出来ない。
ピザファットは諦めて流れに身を任せた。
「ん?何だ?」
突然の浮遊感に驚く。
そこが滝だと気づくのに時間はかからなかった。
「あぁーーーーーーーーーーー。ふぅーーーーー気持ちいいぜぇーーー。」
そのまま頭から突っ込んでいった。
(狼煙!?黒幕か?)
エドゥは跳んで近くの狼煙まで急いで向かっていった。
狼煙の元まで向かうと、戦士たちが機械兵と戦っているのが見えた。
そこは集落であったが、住民らしき姿は見えなかった。
(逃げたか、どこかに隠れているのか。いづれにせよ!)
重しを付けて地に足を付ける。
機械兵の背後まで移動し、息を吸う。
(落ち着け、しっかり呼吸をするんだ。くそっ!肩が上がる。)
疲労のせいか、腹式呼吸上手くいかない。
機械兵が戦士たちに追い込み、どんどん前に進んでいく。
(待てよ。重しを外した状態で、風を纏えれば。)
一瞬だけ、目を閉じた。
疲れなんて吹き飛ばす勢いで声を上げる。
「うあぁぁぁぁぁぁ。」
息を大きく大きく大きく
(まだまだ!もっと吸えるはずだ!)
これ以上限界という量を超えていく。
(今だ!)
重しを外す。
体が浮く。今までのようにただ浮いているわけではない。
纏った風で思うようにコントロールできていた。
足で地面を蹴り。後ろから風を送り込む。
追い風に身を委ね、そのまま移動する。
びゅうううっっと一直線に高速で移動する。
機械兵との距離が一瞬で縮まった。そのまま右手に風を集中させる。
ふわっ
風が途切れてしまった。
風の力なしで素手で機械兵を殴る。
当然全く効かなかった。
銃口が向けられる。
(しまった。ここまでか。)
「隙が出来たぞ、斬撃は効果が薄い!打撃中心の攻撃を行うんだ!」
力持ちの大男たちが後ろから思い切り棍棒を振り下ろした。
機械兵たちの勢いが収まっていく。
(くっ!やはり即席の技じゃ通用しないのか。)
戦士たちに助けられたエドゥは自分の不甲斐なさにほんの少しだけ嫌気がさした。
「おい、あんた次が来るぜ!怪我は?立てるか?」
屈強な男が手を差し伸べる。その手を握った。
ふわっと男の体が浮く。
「おぉ!何つう力だぁ。すげぇな!」
男がびっくりした顔をする。
(どういうことだ?風の力は消えたはずでは・・・。)
「あぁ、すまない。あと少しだ。協力する!」
エドゥは戦士たちと一緒になって機械兵に立ち向かっていった。
戦士たちが襲い掛かる。
瞬間、それは跳躍した。
そして銃を乱射した。
数人の戦士たちが負傷する。
「いたぞ!さっき見た黒幕だ!」
戦士の一人が声を荒げる。
(確かに、あれは黒幕と同一だ。だが、ピザファットの話を聞く限り遠隔で操られているだけだ。大元を見つけないとこの戦いは終わらない!)
エドゥが他の機体と戦っていると黒幕が一瞬でその機体に乗り移ってきた。そしてエドゥに話しかけた。
「ん?なぁ、お前さ~ん。こっち側か?ひょっとすると。少し時間、やるよ。我々の仲間にならんかねぇ。
こんのエルフ達、支配すんの手伝うってんなら、俺たちの仲間として迎え入れてやるぜぇ。」
「いきなり何言ってんだ!」
エドゥの言葉に黒幕は静かに反応する。
「人生ってのはいつも突然だ。ある日急に選択を迫られる。お前さんが何をしていようと・・だ。
どうしたよ、さっさと答えろ。協力するか。ここで果てるか。」
バ、キューン。
引き金を引いた。
頭を打たれたそれは両膝をつき、それ以上何も言うことはなかった。
(残弾は2発、いったん船にいって補充を・・)
「おい、しっかりしろ!」
遠くの方で声が聞こえる。向かうとそこには頭を打たれた戦士の姿があった。
(だめだ、即死している・・。)
エドゥは死体に話しかけている戦士を引きはがそうとした。
「やめろ!こいつはまだ死んでいない!今にきっと目を覚ます!」
戦士は現実から目を背けようと、必死に声をかけ続けていた。
エドゥは思いっきりそいつの頬をひっぱたいた。
「どうだ!目が覚めたか!覚めたなら今しなくちゃならない事をしっかりとその頭で考えるんだ。」
嫌な気分になる。血なまぐさい戦場。硝煙のにおい。
(誰一人無傷でなんてはなから無理だったんだ。)
イライラする。目の前にいるのにそこにいない敵。安全な場所に身を隠し他人の命を危険に脅かす卑怯者。
エドゥに機械兵が迫る。
『そこを退けー!!!!』
ただ怒りを込めて敵を殴る。
呼吸法も構えも何もかも滅茶苦茶。吸った空気は極少量。
しかし、逆に!逆にそれがヒントになった!
ほんの少しの空気が手に伝わっていくような感覚を覚える。
そして、機械兵の頭を殴る際に一瞬だけ手に風が纏わり付いた。
破壊、までは至らなかったが、パンチは大ダメージを与えることができた。
(ほんの少量で、この威力。俺は今まで何か大きな勘違いをしてきたんじゃないか。)
もう一度練習をする。今度は正しいやり方で。
(落ち着け、今ピザファットはいない。今度失敗すれば、命はきっと助からないだろう。)
「兄ちゃん、行ったぞ!残り一機!司令塔だ!」
その声が届く前に、既に黒幕が襲い掛かってきていた。
「はぁぁぁぁぁ。」
(息はしっかりと腹から思いっきり吸う。)
(!?ここだ。)
「コォォォォ」
(まだだ、風を逃がすな。)
空気を圧縮し息を吸っていく。
びゅぅぅぅっと風が体から少し抜ける。
黒幕が銃を構える。
弾丸が放たれる。
(今だ、)
風を体外に一気に放出する。
体を移動させ、直ぐに弾丸の軌道から外れる。
もう一度呼吸をし、空気を溜めなおす。
素早く風にのり黒幕の側に近づく。
「速い!だがね。これならどうだ!」
黒幕の操る機械兵の腕が増えた。それぞれの手にはやはり拳銃が握られている。
(一気に乱射し、蜂の巣にする気だな、だがこっちの攻撃の方が早い。)
弾丸が一斉に放たれる。それと同時に、エドゥの手から風が放たれた。
威力が拮抗する。
(まだだ、体の中にある空気を全て出し切らなければ死ぬ。)
「コォォォォ」
息を吐きだす。きっと今の自分の顔は真っ赤になっているのだろうとそう思えるぐらい吐き出した。
凄まじい威力によってエドゥの体は後ろに吹き飛ばされた。




