●「あの日あの時あの場所で」2/2
あっ、補足するけど、生物って言ったけど、エルフで試したわけではないんだけどね。
まだ昆虫ぐらいの大きさの生物までしか試していないから、ここら辺は今後の課題ね。
私が能力の研究をしていたとき、あなたは私が絵を描かなくなったって心配してくれたわよね。
でも、言えなかった。
描いた絵が魂をもってキャンバスから離れていくなんて。
その能力はあなたの持ち物から得たなんて。
物を壊してほっといて謝りもしなかったってあなたに知られたら嫌われちゃう。
あなたに嫌われたくない。
私はそんな思いを今も抱いている。
……あぁ。意識が遠のいていきそう。
まだ、伝えたいことがいっぱいあるんだ。
そうそう、あなたは私の口調が変わったことを気にしていたわね。
もうあなたは覚えていないかもしれないけど、年上の女性を頻繁に口説いていた時期があったよね。
私ね、お姉さん達にどうすれば年上の色っぽさが出せるか教わってたこともあるんだよ。
口調はあなたのハートを射抜くためのものだったんだ。
まぁ、あなたにはあんまり効果がなかったんだけど。
ハァ、ハァ。ゲホッ、ゲホッ。
あとは何かあるかな?話したいことが多いはずなのに、いざとなると、あまり浮かばないね。
あぁ、一つあった。あなたに聞きたいことが。
なんで、いつも島の外に出ようと考えていたの?
あなたは、外にそこまで何を求めているの?
安全なここで、私と一生暮らせばいいじゃない。
それが、あなたが求める一番楽な道じゃないの?
普段、楽ばかりしようとしてる癖にどうして?こういうとこでやる気を出さないでよ!
あぁ、感情が抑えられないよ。
あなたを外に連れていこうとする、いかだを何度壊してやろうかと思ったことか。
いっそ、密告してしばらく頭を冷やしてもらおうか。
最終的には、あなたを私の家に監禁してしまおうか。
はぁ。
私は結局そのどの方法も実行しようとは思えなかった。
私は、あなたが好きだから。
あなたの夢を邪魔して、嫌われる危険を犯したくなかったから。
どうすればいいか分からなかった。
あなたは、ヘラヘラ笑って私にいかだのデッサンをお願いしてきたこともあったわね。
もし、私に能力がなかったとしてもそのお願いだけは聞かなかっただろう。
結局私は、悩んでばかりで、何もできなかった。
いかだが完成した時、私は本当に絶望したんだ。
もう、なりふり構っていられない。
そう思ってね、いかだに細工をしておいたの。
これなら、私がやったとは気づかないって細工をね。
今思うとやりすぎかもって思うんだけどね。
まぁ、杞憂に終わったんだけどね。
あなたは一つの作業が終わると、それがどんな作業でも必ず休みを入れる癖があったのを忘れていたわ。
完成したいかだを放って、丘で昼寝をし始めたのを見た時はあなたらしいなって笑っちゃったわ。
その後、会議があるのを忘れていたの?
まさか、島から出るから自分は関係ないって思ってたの?
適当な性格よね、相変わらず。
本当にあなたは昔から変わってないよね。
いや、変わってないのは、性格だけか。
昔はイケメンだったのにね!ハハハ。
まぁ、太ってても好きなんだけどね…
いや、今のは忘れて!ヒィー恥ずかひいー。
その後の会議で私にとって人生最大と言っても過言ではない出来事が起こったんだよね。
あなたが島の長になった。
私ね、黙ってたけど知ってたんだ。長に任命されたとき、ハンナおばあ様から長の「証」を受け継いだでしょ?あれはエルフの秘術なんだよ。
居場所が集会所で観察されるから、島から出たら直ぐにバレるようになってるんだよね。
あなたがそれを知らなかったっていうのが本当に幸運だった。
本当に興味のないものにはとことん興味がないものね。
海岸でのあなたには笑うことしか出来なかったわ。
これで、あなたはこの島から出るなんてもう考えないだろう。
このままずっと・・・
長になった翌日も心配してたけど、あなたは苦手な早起きもして、しっかり島の巡回をしていたわよね。
それを見て私は安心していたの。
だからかな。
暴風と共に現れた侵略者を始末したとき、死体の違和感に気付きながらもあなたを問い詰めなかったのは。
傷のことで気が気じゃなかったってのもあったけどね。
もしもあの時、問い詰めていたら。
また、違った未来があったのかな。
・・・
・・・
・・・
・・あぁ、どうしてこうなったんだろう。
体から熱が失われていく感覚があるの。
苦しい、わたしこれから死ぬんだわ。
奴が追ってくる。
ここから、移動しないと。
太陽が昇って明るいはずなのに、暗い。
上手く歩けない。
さっきから昔のことばかり思い出しちゃう。
これが走馬灯っていうやつなのね。
目に映る風景になつかしさを覚えるの。
例えばあの木。
あなたとエドガーがどっちが早く登れるかってよく競ってたわね。
二人とも無茶な登り方するから、滑って落ちないかいつもハラハラしたものよ。
たまに私も誘ってくれたよね。登り終わって見た景色は絵に残したいぐらい綺麗だったのを覚えている。
遠くにあるあそこの池は、昔は汚かったけど皆で掃除したのよね。
あの時はエドガーとフランコとあなた3人で誰が一番ゴミを回収できるか競ってたわね。
3人とも能力を使ってお互いを邪魔しあってよく長老におこられてたよね。
私はそんなあなた達をみて、いっつも楽しかったわ。
時には私も混ぜてもらったわね。
最初はアミュレットをもっていないからってフランコとエドガーからはあまり歓迎されてなかったけど、あなたのおかげでいつの日からか、私もあなた達の仲間になっていけたのよね。
向こうの森ではよく夏になると昆虫を取りにいったね。
樹液を塗って夜まで待ってたよね。
暗くなるのを虫取りおじさんの小屋で待たせてもらって、おじさんによくドリンクをご馳走になったね。
私はいつもお茶だったけど、男の子ってコーラが好きなのかしら、3人とも大抵コーラをもらってたわね。
暗くなって、懐中電灯で木を照らすと、クワガタが集まってたのよね。
いや、そういえばあなたの木だけ何か気持ち悪い虫ばっかり集まってたわね。
二人がクワガタをとってるのを羨ましそうに見つめてたから、見るに見かねておじさんから何匹かこっそりもらってたでしょ。
私は虫が苦手ではなかったけど、クワガタの幼虫は無理だったなぁ。あと、イモムシとかも。
育てたクワガタを戦わせてた時もあったね。
本当に何かあるたびに競ってるんだから。
そんな、あなた達を見ているのが好きだった。
秋は紅葉を見て、色々食べたね。
食欲の秋とか言って、好き放題食べてたあなたの姿をみて本当にほっこりした。
冬はこたつとミカン!4人で暖を取って、トランプで大富豪!
これは、毎年やらないと冬が来たって感じがしないのよね!
はしゃぎすぎってあなたは笑うけど、この瞬間があなたとゆっくり過ごせる時間だからしょうがないよね。
春が来て、夏になって、秋が来て、冬が来て、また春になる。
そうして、何年になったんだろう。
私はいまだにあなたに気持ちを伝えずにここまで来てしまった。
ハハ、思い出してみると大体あなたとの思い出だ。
もし、あの日あの時あの場所であなたに出会わなかったらこの思い出が全部なかったことになっちゃうんだね。
それは、想像したくないくらい辛い。
今、とってもあなたに会いたい。
会って好きって伝えたい。
もっと早く言っておけばよかったかな。
そしたら、今より楽しい思い出が出来てたはずなのに、
ぅぅ。嫌だよ。死にたくない。もっとあなたと思い出が欲しい!
あぁ・・。...ダメか。意識が遠のいてきた。あの足音が近づいてくる。
・・・これは?話し声?
そんなことが!まさか・・・




