⚙︎「他愛ない日常」3/4
「「ご馳走様でした!」」
ナタリーとピザファットが朝食を済ませる。
「ピザファットさん、相変わらず物凄い食べっぷりで。」
「へへへ、こんなにうめぇ料理出されて食べるなって方が無理があるぜ!」
「まぁ、お上手なんですから。」
「ホーカンソンさん、騙されちゃだめよ。上手いこと言って、おかわりしようとしてるのよ。」
「ははは、にぎやかでいいですね。ホーカンソンさん。皿洗い手伝いますよ。」
「ありがとうございます、レオさん。じゃあ、お言葉に甘えて。」
「ご馳走様!さぁ、ピザファット。もう一回工房に行くわよ!」
「えぇ!食って直ぐかよ!」
ナタリーがピザファットを引っ張り、地下の方に向かっていった。
「あらあら、忙しないですわね。」
「そうですね。」
夫人とレオは皿を洗い、後片付けをした。
「ふぅ。終わった終わった。」
「ありがとうございました。あの……。」
「はい?」
「いえ……やっぱり何でもありません。」
夫人が何かを言いかけて、止める。
レオは直ぐにピンときた。
「あぁ、エドゥさんを起こして来ればいいですか?」
「すみません。あそこは光が強いので。」
「そうですよね。気付かなくてすいませんでした。」
「いえいえ、そんな。私がいけないんです。幽霊なのに皆さんをここに引き留めてしまって。」
「止めて下さい。僕も他の皆さんも、迷惑だなんて思ってないですよ。むしろ感謝してるんです。だから、遠慮せず、僕たちを頼ってください。」
「……ありがとうございます。」
レオは2階へ上がり、エドゥの部屋の前で立ち止まった。
コンコン、ドアをノックする。
しかし、何の反応も帰ってこない。
「エドゥさん?そろそろ起きて下さ~い!」
「……」
「もしもーし。」
「……」
「もう、開けますよ。」
ギギギギ―。
扉を開ける。
「あれ?」
部屋の中には誰も居なかった。
レオは夫人にこのことを伝える。
「どこかに出かけたんですかね。」
「何か急ぎの用事でもあるのかもしれませんね。朝食を冷蔵庫に入れておきましょう。」
「それじゃあ、僕は外に出かけてきますね。」
「はい、いってらっしゃいませ。」
「行ってきます。」
一方、ナタリーとピザファットは工房の机で話し合いをしていた。
「あたいが一番気になっているのはこの機械のことなのよ。」
そういうと、ナタリーはそれを机の上に置いた。
「あぁ、それって俺っちが家から持ってきた奴だろ?」
「えぇ、あたいが解析したらびっくりする結果が出たのよ。」
「ほぉ。いってぇどんな?」
「これと、あの"鎧"、全く同じ技術が使われているの。」
「?」
「つまり、これもジギュレム人が開発したものってこと。」
「なんで俺っちがそんなもん持ってんの?」
「知らないわよ。エルフの島にも遺跡があったんじゃない?」
「いやぁ、んなこといっても分かんねぇ。そのなんちゃら人のことなんてこないだ知ったばっかりだからよ。」
「まぁ、そうよね。ピザファットが知ってるわけないわよね。」
「むっきー!嬢ちゃん、俺っちのこと舐めすぎだぜ!」
「でも事実でしょ?」
「お、おう。そう……だけどよーー。」
「話を戻すわよ。この機械は能力をコピーする。」
「それって?」
「えぇ、エドゥさんみたいに。」
「この"Projection"って文字。4枠あってそのうちの一枠が埋まってるの。」
「"Gravity Fall"?」
「そう、これがあのエリアスっていう教会の人の能力。」
「ねぇ、これあたいが持ってて良い?」
「いや、それ俺っちの宝物……。」
ドン
ナタリーが机にお金の入った袋を置いた。
ピザファットは今にもこぼれそうな大金を前に……。
「おゆずりいたします。」
「ありがとう。」
成す術がなかった。
「でもよ、そんなの嬢ちゃんが持ってても使い道がねぇんじゃねぇの?」
「フフフ、よくぞ聞いてくれました。」
不敵な笑みを浮かべると彼女はまた何かを机の上に置いた。
ズシン
「こりは?」
「何だと思う?」
「手袋?」
そう、まさに手袋のようなものがそこに置かれていた。
「あたいの自信作!」
「ぷっ。アッハッハッハ!ヒーハッハッ!」
ピザファットは笑いをこらえきれずに噴き出した。
「ちょっと!何がおかしいのよ!」
「だってよ!ア―ヒャヒャヒャ!手袋って手袋って!」
ナタリーはピザファットを無視して手袋をはめる。
次の瞬間、ナタリーの周りに機械で出来た腕がどこからともなく現れた。
「オ―――――ウ。」
「これでもまだ、笑っていられる。」
「あはははは。」
ピザファットの乾いた笑いにナタリーはとても満足したようだ。
「見てて。」
ナタリーが右手を上げる。
ウィーン。
それと連動して右側のアームが上がった。
「名づけて!!"パワードアーム"。」
「かっちょえーー!!」
「でしょ!これにさっきの機械を組み合わせると!!」
「とても強くなる。ってわけか。」
「そうよ!ピザファットのくせに鋭いじゃない!」
「おいおいおい!俺っちは嬢ちゃんより賢いぜ!」
「じゃあ9+7は?」
「97。」
「……。」
「あってんだろ?」
「えぇ、そうね。別にいいんじゃない?」
「へへへ、俺っちが当てたから悔しいんだろ?」
「ごほん、とにかく!これで、あたいも戦うことが出来るってわけ。」
「ほーん。よく分かんねぇけど、気ぃ付けてくれよ。」
「大丈夫よ。心配しているようなことはしないつもりよ。あくまで自衛用よ。」
「とりあえず、動きに慣れる練習よ。ピザファット、鎧を着て。」
「よっしゃ。腹ごなしの運動ってわけだな。」
二人は工房の奥の部屋に入る。
「よっしゃ。いくぜ。」
「オーケー。こっちも行くわよ。」
カチッっとピザファットが起動スイッチを押した。
それと同時にナタリーも手袋をはめる。
シュワーーーー。
ウィ―――ン。
「変身!!!」
煙が立ち込める。
「いつでも来て良いわよ。」
ナタリーは既に準備が出来ているようだ。
「よっしゃ!!行くぜ!!」
ピザファットはナタリーに突進する。
ガチャン!!!
大きな衝突音が部屋に響く。
「やった。成功よ。」
ナタリーのアームがピザファットの体を掴んでいた。
「うぉっと、マジかよ。」
「ほらほら。もうおしまい?」
「ヌォォォォ!!」
ギギギギ。
「嘘!!」
ピザファットは無理やりあがいてナタリーのアームから逃げた。
そのままナタリーに再び突っ込む。
「きゃ!!」
「どうやら勝負あったみたいだぜ。」
ピザファットの拳はアームではなくそれを操っていたナタリーの手の前で寸止めされていた。
「全く、俺っちが手加減したからいいものの。」
「反応自体は出来たわ。でもアームとの連動にズレがあるみたいね。」
「さぁ、今日はもうこんなところで良いんじゃねぇの?」
「そうね。ありがとう、とりあえず今日はこんな感じで良いわ。」
「よっしゃあ!じゃあ、ギャンブル街にひとっ飛びだ。」
「早速お金使うの?貯めた方が良いんじゃないの?」
「へへへ、俺っちは相棒とはタイプが違うの。今を楽しく、未来は考えねぇ!」
「全く。エドゥさんの苦労が目に見えるわね。」
「待ってろよ。バーガー、ミステリン。今日こそは俺っちが一人勝ちじゃい!」
ドタドタドタ、バッタン!
そういうと、ピザファットは工房から飛び出していった。
ポツンと1人ナタリーは椅子に座る。
「一人か。さっきまで騒がしかった分、余計に静かね。」
静かになったせいだろうか、ナタリーは昔のことを思い出していた。
ーナタリエ、お前だけでもー
ポツン
ナタリーの頬に涙が伝っていた。
あぁ、良かった。誰にも見られないで。
彼女はそう思い、涙を拭くのだった。




