●「相棒」2/4
「長!仕事です!すぐに全員に指示を!」
「はぁ。分かった分かったよ。東にフランコ、南にエドガー、西にネミ、ここは俺であとは適当に好きな方角に行って増援、あとはテキトーに。」
指示を出すと、ピザファットは辺りを見渡す。
(ここからじゃ敵の姿が見えないな、少し移動すっか。)
ぷるぷるっと全身を震わせるスライムの姿がそこにはあった。
(なんだ、スライムかよ)
矢を放ち、ゼラチン状のその体に穴をあける。
パックリと割れ、スライムは動きを止めた。
東の海岸にて、フランコは数人の戦士と共にガブリン達と戦っていた。
「フランコ!矢が当たらねぇ!実体がねぇ!」
「幽霊っていうやつなのか?」
「あぁぁぁ」
ガブリンは戦士の一人の体の中に入っていった。
「うぅぅぅ。」
その戦士は急に失神し、痙攣を始めた。
ガブリンはその戦士の体から出ると再び空気中をさまよっていた。
「一旦退こう!祈祷師じゃないとこの手の相手は倒せん!」
戦士たちが口々にフランコに撤退を提案する。
「別に倒す必要はない、この島から追い出せれば、それでいい。」
フランコが構えをとった。
ガブリン達が一斉にフランコをめがけて飛び込む。
「その体が何で出来ていようと、俺には関係ない。」
フランコは次々とガブリン達をギュッと両手で押し込んだ。
「おぉ!」
「あれがアミュレットの力か!凄まじいな!」
戦士たちが口々にフランコを称賛した。
ガブリンは凝縮されたまま、海へと流されていった。
西側の海岸では、ネミ=シャンパティエが流れ者と戦っていた。
「fはdjkl」
「何言ってるか、分かんないよ。」
それは戦いとは呼べないくらい一方的な戦いであった。
「そこ、あと右に2歩行かないと死んじゃうよ。」
上から石錐が降ってきて流れ者の頭に突き刺さった。
「だから、言ったのに。」
「asdhjijheuh!」
「だーから!何言ってんのか分かんないって!」
苦しむ流れ者にネミはイラついた表情で追撃をかける。
頭を石で何度も何度も打ち付けた。
「ふぅ、やっと静かになった。」
その流れ者の顔はぐちゃぐちゃになり、完全に原型をとどめていなかった。
「敵は全員撤退しました。皆お疲れさまでした。」
アナウンスが入る。
「長!次は作物の様子をみてきてください。」
「長!次は水質調査です。」
「長!次は」
「長!」
「長!」
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
敵襲が終わった後、長としての激務が待っていた。
漸く仕事が終わると、日は暮れていた。
「ただい、まぁぁ。」
ヘロヘロになって家に帰ってくると、ピザファットは玄関で横になった。
「おぉ、帰ったか。どうじゃ長としての一日を終えた気分は。」
ハンナが居間から顔を出してきた。
「おばあちゃん、毎日こんなことしてたの?」
「どうじゃ、ババの苦労が分かったじゃろう。」
「もぉ、限界~!こんな生活がこれから続くとか嫌だ!ばぁちゃん、なんで俺を長にしたの?」
「ふむ。その話か。まぁ、こんなところじゃアレじゃし、居間で話すかのぉ。」
ハンナが手招きをした。ピザファットは、だるそうに、それについていった。
「わしがまだ100か200くらいの歳の話じゃ、我々エルフはここではない里で暮らしておった。そこでは外界との交流が盛んで、人や物が多く出入りをして、おったのじゃ。」
「我々エルフは外界の者を信頼して、各地に親善大使を送ったり、特産物を送ったりしたものじゃった。」
ーしかし裏切りが起こった。エルフは他の種族よりかなり長生きであることが知られていた。その理由はどこにあるのだろうか。多くの者がそれを思い、ある者が細胞分裂の限界が関係しているという説を唱えた。その説が出れば、エルフの細胞を研究しようとするものが出るのは道理であろう。法という概念がまだないこの世界でエルフを守ろうとするものはなかった。各地でエルフが拉致、時には殺害された。エルフを解剖しても、その長寿の理由が分からなかった。そのことに憤慨した者の中には、細胞を取り込めば長寿になれると過激な思想を抱き、実行する者がいた。かくして、エルフはその数を急激に減らし、里は炎に包まれ、生き残った者は孤島に流れていった。その孤島こそがこのキロネキシアなのである。エルフたちは絶滅しないように島から外に出ることも侵入されることも絶対にあってはいけないという掟を作った。ー
「そこまでは分かったけど、俺を長に選んだ理由は?」
「わしはその悲惨な事件で、娘とその夫、つまりお前の母と父を失ってしまった。」
ピザファットは言葉が出なかった。初めて聞いた衝撃の事実。自分の母と父、顔の知らない両親が殺されていたという事実。
「お前の両親を殺したのはエルフの同士なんじゃ。」
「は?どういうことだよ。それ」
さらなる事実にピザファットは混乱する。
「自分たちの命を守るために、エルフたちの中には、仲間を陥れる者が現れたということじゃ。」
「・・・」
「わしはたまたま、生き残った者の中で歳をとっていたから長という仕事に就いたが、わしが死んだ後に長は誰になるかを考えたとき、他の者に任せるのが怖かったんじゃ。もし、長が民を陥れるような者だったとき、またあの事件のようになるんじゃないかとな。わしが信頼できるのはお前だけなんじゃよピザファット。だからあの時、無理やりにでもお前を指名しておきたかったんじゃ。」
「・・・」
ハンナは過去の悲しみを思い出したのか、目に涙を浮かべていた。
たった数時間で多くの情報が入ってきたせいで、どうしていいか分からなかった。
「まぁ、今日は初日で疲れておるじゃろう。明日もはやい、ゆっくり休むがよい。」
こうして、ピザファットの長としての初日が終わった。
2日目の朝がやってきた。長の朝は早い。
「ふぁぁぁぁ。」
まだ、太陽が昇らないうちからハンナに起こされた。
「長として、何か異常はないか島中を点検するのじゃ、このぐらいの時間に起きれないと長としてはやっていけんぞ!」
「じゃあ、俺は失格で・・」
ピザファットはそう言いかけてやめた、昨日のおばあちゃんの顔を思い出したからだ。
(ばあちゃんの涙には勝てねぇな。)
「行ってくるよ、おばあちゃん。」
「おぉ、行っといで。」
「あれ、あんなに嫌がってたのに。やる気でたん?」
家を出て、しばらく行ったところでルカが話しかけてきた。
「お前、いつもこんな早く起きてんの?」
「あんたが、いっつも遅いだけじゃん。普通のエルフなら狩りとかの準備でこのくらいにはもう起きてるわよ。」
「へいへい、どうせ俺は怠け者ですよ~。」
「ナマケモノじゃなくて豚野郎っしょ。あんたは。」
「あぁ~また言った!昨日言うなって言ったのによぉ~。」
「うっさい!あんたなんか豚野郎で充分なのよ!」
ルカと喋っていると、フランコとエドガーがやってきた。
「相変わらず、仲が良いな、二人とも。」
「おい、長ともあろうお方がこんなところでお油をお売りになっておよろしいのですか。」
「おい、エドガー!なんでも`お`ってつければ良いってもんじゃねぇぞ。」
「おぉ、わりぃな。知ってってやってんだ。いいか、お前を長とは、俺は認めねぇ。認めて欲しかったら俺より強いって証明してみせな!」
「悪いな、こいつ昨日からこんな調子でな。すまない、仕事の途中だったんだろう?」
「あぁ、そうだな。じゃあ俺は行くよ。」




