オシャレサブカル糞野郎
窓枠についたシミが黒いフラミンゴに思えた。ボイラー室の天井にはゴキブリが走り回り、1979年という時代は加速する。透明よりクリアなスピード、快感、焦燥感。
「ジャッキーミリガンの3rdアルバムはどこ?」
そう呟いたタータンチェックを着たモノトーンのフランス女はカナリアの首を掴みながらステップでトルコ絨毯を踏み潰した。壁にかかった印象派くずれのモダンアートが振り子の様に女の粗暴さを訴えた。
「次の日曜日には教会に行こう。この街が黒い海水に飲み込まれる前に。」
僕はエーテルについて書かれた60年代のサイケデリックな装飾が施されたペーパーバックを読みながらフランス女の首筋めがけてある一定量の高音を投げかけた。テーブルの上には昨日の冷めたフランクフルトがマスタードによってグショグショに濡らされている。
「昨日夢を見たの。北欧の森が真っ白な炎を上げて焼けているの。その中から老婆が出てくるのだけれども、彼女には顔がないの。でも彼女は私を見ているの。あるはずのない眼で私を見ているの。」
僕はああ、それはフロイトで言うところの不確実性への信頼の喪失だね、と適当な返事をした。彼女は何かをやっているはずなので何をいっても、素敵としか言わなかった。
僕の頭。そこから数センチ上から伸びる階段は少し影の色が寂しさを帯びていて秋の日の夕暮れには知らない大人達が会議をしにやってくる。
最近思い出すことはサーカスの楽屋でライオンに食い殺されたピエロの青年の死体を運ぶポニーテールの少女。陰鬱な瞳は涙に濡れている様で、もう何も映さないと誓ったかの様な漆黒のガラスだった。
僕は部屋の隅を見た。フランス女はそこにはいない。
「そろそろか。」
僕はゆっくりと立ち上がりソファをずらして更にその下の絨毯を畳んだ。
絨毯の下から紫色の拳銃が出てくる。
銃口は僕が考えていたよりもずっと小さかった。
最期に見た空は曇っていた。灰色というにはずっと白い。