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拓け! 岩モグラ!

 *




 シロガネがこの石を拾ったのはヒヒイロ鉱山を散歩している時だった。


 場所はアカガネ達が発掘していた地点からそう遠くは無く、やや崩れた岩肌が見える場所だった。


 時刻は夕暮れのピークを過ぎ、空は紫色。逢魔が時。


 光魔術師が居ないミチガネマテリアルは発掘作業を終え、即座に帰宅しなければ成らない時間。


 それでもアカガネは岩モグラをUターンさせ、ヒヒイロ鉱山へと戻って来た。


「お兄様。私が持っていた石には本当にコバルトが埋まっていたのですか?」


「ああ、間違いない」


 シロガネが投げ、そして割れた石の断面にあった六角形の花。


 銀白色と銅灰色の二つの色を持つ、これは〝輝コバルト鉱〟。コバルトの砒素硫化物である。


 まさにアカガネ達が捜し求めていた鉱石だった。


 逸る心臓を押さえ、アカガネは岩肌へと近付き、右手の中指に茶色い魔法石で出来た指輪を取り付ける。


 これはアカガネの専用魔法石の一つ、〝ドリュウ三式〟。刻まれた魔術式は『破砕』である。


 魔力を込め、ドリュウ三式が褐色に輝く。


「セイヤァ!」


 そしてアカガネはドリュウ三式を付けた右拳を全力で岩肌へと殴り付けた。


『破砕』は拡散して伝わる衝撃を一点に集中させる魔法である。


 瞬間、岩肌の一部が拳大に割れ、ゴトッと地面へと落ちる。


 すぐさま、アカガネは破断面を見た。


 薄暗い夕闇の中では見難いが、その破断面には確かにシロガネが拾ってきた石と同じ、多角形の鉱石の花がある。


 色は銀白色が主で、所々が銅灰色。


 その鉱石の部分へ触れ、アカガネは『材質調査』の魔法を発動した。


 体感時間にしては数秒。だが、実際には一分近くアカガネは眼を閉じて沈黙していた。


「お、お兄様。どうだったですか?」


 シロガネの声にアカガネは瞳を開ける。


 そして、こちらを見つめるシロガネ、カガリ、リュウジ、ハヤテ達の顔を見渡し、笑った。


「俺、今日はここで野宿するわ。お前達、明日の朝一、出来るだけ早くここへ来い」


「え?」


 シロガネは戸惑っていたが、他の三人は「「「了解!」」」とだけ短く答え、岩モグラへと乗り込む。


「え? お兄様は帰らないのですか?」


「ああ、この場所を誰かに取られるわけには行かない」


「え~と?」


 シロガネは未だ分かっていないようでその様が愛おしく、アカガネの感情の箍がそれで外れた。

 アカガネは肩の震えを抑える事無く、シロガネを全力で抱き締める。


「大当たりだ!」




 *




「「「「かんぱ~い!」」」」


「か、かんぱーい!」


 翌日の夜。アカガネ達はエクウスにある大衆居酒屋〝サクラバ〟にて祝杯を上げていた。


 結論から言えば、大当たりも大当たりだった。


 シロガネが石を拾ったというあの場所には輝コバルト鉱が大量に埋まっていた。


 量は今までアカガネ達が見たことの無いほどで、不純物を取り出し嵩が減ったとしても、得られるコバルトの量は岩モグラを新調し、新しい社員を雇っても釣りが出るほどだ。


「シロガネ! 良くやってくれた! 本当に良くやってくれた!」


 ガラスコップに注がれた炭酸麦酒を呷り、アカガネは隣でチビチビと麦酒を飲んでいたシロガネの方を抱く。


 アカガネは酒で顔が真っ赤で、シロガネもまた顔を赤くした。


 その様子にカガリ達が「「「ヒュー!」」」と口笛を吹く。


 最早この場で正気を保っているのはシロガネだけだ。


 口数の多くないハヤテでさえ「店員さーん! ここの馬刺しちょうだーい!」とキャラ崩壊を起こしている。


「お兄様、お兄様。楽しいのは結構ですが、水も飲みましょう。さあ、私の水上げますから」


「お、サンキュー!」


「って、それは私の麦酒です!」


 ハッハッハ! 爆笑が起こり、アカガネはシロガネの麦酒を一気に飲んだ。


 体が熱く脳がフワフワとしている。


 楽しかった。


 アカガネはその楽しさに身を任せ、シロガネに呆れられながら、新しい酒を注文した。




「う~い」


「ほらお兄様、ちゃんと立って。足と腰に力を入れてください。脊椎動物なんですから!」


 一頻り騒いだ宴会の帰り道。アカガネは半ばシロガネに寄りかかるようにエクウスの町を歩いていた。


 薄らと開かれた瞼の先に、ミチガネマテリアルが見える。


「ほら! 着きましたよ! 鍵は何処ですか!?」


「右の尻ポケット~」


 やれやれと呆れたように、けれどどこか楽しそうに鼻を鳴らし、シロガネはアカガネのズボンからポケットを鍵を取り出し、裏口のドアを開けた。


「よいしょ、よいしょ」


 という声と共にシロガネがアカガネの体を二階へと運び、二つの布団が並べられた寝室用三畳間へとアカガネの体を放り込む。


「シロガネ~! 強くなったなぁ! 兄は嬉しいぞぉ!」


「はいはい。私は寝巻きに着替えてきますから。お兄様はどうしますか?」


「このまま寝る~」


「……でしょうね」


 シロガネが寝室から出て行く音を感じながら、アカガネはずるずると眼を瞑ったまま自分用の布団の方へと体を這わせる。


 程無くして、シロガネが寝巻き姿で返って来た。


 格好はいつも通りの白い浴衣姿なのだろうが、顔を上げるのも億劫なアカガネは「お~帰ってきたか妹よ」と枕に顔を突っ伏したまま声を出す。


「はいはい。帰ってきましたよお兄様。私ももう寝ます……が」


 そこでシロガネは何故か沈黙した。


「どうした~?」


「いえ、別に。さあ、寝ましょう」


 シロガネは慣れた様子で部屋を照らしていた『発光』の魔法石を取り外し、近くにあった箪笥へと入れる。


 途端に部屋は暗くなり、アカガネはすぐさま眠気に襲われた。


「それでは、おやすみなさい、お兄様」


「ああ、おや、すみ」


 布ずれの音が聞こえ、アカガネはすぐ近くに覚えのある温もりを感じたが、それが何であるのかを判断する前に眠りに付いた。




 *




 四日後。


 アカガネ達ミチガネマテリアル四人は今日も今日とてヒヒイロ鉱山へ来ていた。


 岩モグラのドリルはまだ回転しておらず、アカガネの号令を待っている。


 昨日、シロガネはツチミカドマテリアルへと帰った。


『お兄様、いつか必ずツチミカドへ帰って来て貰いますよ』


『ミチガネマテリアルと一緒に凱旋してやるよ』


 そんな短いやり取りと共にシロガネはクスッと嬉しそうに、寂しそうに笑い、グリーンクロウの運び屋に乗せられティグリスへと飛んで行った。


 果たしてあの妹は土産に気付いただろうか?


 アカガネは今回採掘されたコバルトの一部をガラス屋に依頼して、コバルトが混ぜられたガラス製のモグラの人形を作らせたのだ。


 コバルトブルーと呼ばれる美しい色のモグラが入った箱は今、シロガネのキャリーバックの中にある。気付いた時が楽しみである。




「気合入れるか」


 アカガネは頭の中で金勘定をする。


 今回のコバルトで得られた資金をどの様に使う?


 とにもかくにも社員を増やす必要がある。土、火、水、風の四属性の魔術師、それとできれば夜間作業を可能にする光属性の魔術師もだ。


 求人はもう出してある。人員が集まり次第、新しい岩モグラも購入する。


「やってやるさ」


 未知の金属を発掘し、それを世界に届ける会社。


 蒸気から電子へと移っていくこの文明の革命期。


 この革命の土台に成る。


 それが、アカガネが掲げるミチガネマテリアルの野望なのだ。


 まずは、目の前の新しいポイントでの採掘だ。


 何かが取れるかもしれない。


 何も取れないかもしれない。


 それが分かるのは岩モグラが道を拓いたその後だ。


 スーッ。


 アカガネは大きく息を吸い、『共鳴』の魔法石へと号令を出した。


「採掘開始!」


≪≪≪了解!≫≫≫


 カガリ、リュウジ、ハヤテの返答と共に、蒸気と共に岩モグラのドリルが回転し、岩盤へと突撃する。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


 そして、ドリルが岩肌を砕く音が鳴った。

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