燃やしたい燃やしたい燃やしたいんですのー
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週明けの三日後、月曜日、カトリーナのフラストレーションは再び爆発していた。
「燃やしたい燃やしたい燃やしたいんですのー!」
カトリーナが突如として立ち上がり叫んだのは青空晴れ渡るベンチである。
「どうしたカトちゃん? 週末に花火でストレス発散してたじゃん」
ゴクッ。購買で買った牛乳瓶を傾けながらベンチに座ったキトリーが問い掛ける。
「ええ! 確かにあの素晴らしい火の芸術によってワタクシの心に巣食っていたストレスは全て霧散しました! 久しぶりにワタクシの魔法を使えましたしね!」
「そうだね。帰り道メッチャ笑顔だったもんね」
「しかし、あの出来事によって新たなる問題が発生してしまったのです!」
ズビッ!
カトリーナがキトリーへ左の人指し指を向ける。
「どんな?」
「対抗心です! あれほど見事な炎を魅せられて黙っていられますか! ワタクシだって夜空を燃やしたいんですの!」
「いやいやいやいや。対抗の仕方違くない? せめて花火を作る方向に行こうよ。手伝うよ? 後は風魔術部の誰か連れてくれば、火、土、風で花火できるよ?」
「それも魅力的でしょう! でも、ワタクシは全力の炎であの花火に対抗したいのです! 具体的にはあの炎の横で爆炎を起こして観客の心を鷲掴みにしたいのです!」
「それで観客に伝わるのは純然たる恐怖と混乱だよ」
ぐぬぬ。カトリーナは歯噛みする。キトリーの言うとおりだ。
花火大会中の爆炎(六千℃)。観客の心を恐怖で鷲掴みする事間違いない。
そして、翌朝の新聞には〝カトリーナ・フェニックス逮捕!〟の一文が乗るのだろう。
へナッとカトリーナはベンチへ腰掛けた。
そして、「あー!」っと青空を見上げる。
雲一つ無い快晴。
しかし、眼を閉じれば思い出される、あの火の芸術。
忘れていた対抗心と向上心がカトリーナの胸中で燃え上がる。
キトリーはやれやれと笑った。
「燃やしたい燃やしたい燃やしたいんですのー」
カトリーナのぼやきは空へと吸い込まれ、同時に昼休憩が後十分である事を告げるチャイムが東コヤナカ製鉄所に響いた。