旅の始まり レベルアップ
一瞬の出来事だった。
目の前のサハギン5匹が倒された。
それも、「スライムすら倒せない普通の人」にだ。
いや、スライムに負けていたリラク本人と、今ここにいるリラクは別人なのかもしれない。
もしくは、夢を見ているのかもしれない。
すでに、私自身は、サハギンにやられていて、天国で素晴らしい景色を見ているだけなのかもしれない。
そうだ、きっとそうなんだ。
あのリラクが、サハギンを倒せる訳がない。
「私、そっか、死んじゃったのか・・・」
「???」「何を言ってるの?」
「だって、ほら、リラクがサハギン倒せるだなんて、夢かあの世での出来事以外ないでしょ?あはは・・・・」
乾いた、寂しげな笑い声だ。
『ティラリラッタラ―』
『リリィ・中級魔法使い
レベルが上がりました。』
『レベル12 魔力アップ 新たな魔法が使えるようになりました。』
首から下げていたアイテムがレベルアップを知らせてくれた。
この世界では、不思議な能力と職業を授けてくれる種の欠片を使って、アイテムに加工することで、旅のレベルアップなどを知らせてくれる。
リリィは今、サハギンをパーティーであるリラクが倒したことによって、経験値を積んでレベルが上がったのだ。
「あれ?私、生きてるの?レベルもあがっちゃったし」
「そう、生きてるよ。それに、僕とはパーティーを組んだままだよ。」
「僕はそう簡単に、僕の命の恩人を、僕のちょっとクセのある女神さまを見捨てたりはしないから。」
「ねぇ、リラクさん、昨日はごめんなさい。つい、出来心で・・・」
急に丁寧語に変わっている。命を助けられたことと、昨日お金を盗んだことで、うしろめたさがあるのだ。
「僕が弱いからだよね。分かってる。スライム倒せないし、普通の人だし、お金はあってもまぁ、得することないもんね。」
「僕みたいな普通の人が旅していたら、命がいくつあっても助からない。だから、君は僕に旅をあきらめさせようとして、こういうことをしたんだと思う。」