鑑定さんと仇
……おそらく鑑定さんは視認出来ないといけないのであろう。見えたもの。それはやつの名前。
『ダークアクイラ』
どんな意味をもっているかは私の脳ではわからんがそれ以上に恐ろしいことがわかっている。
Lv89、私とのレベル差はざっと88。勝てるわけがない……。私に出来ることはただひとつ。見つからないよう音をたてずにひっそりと隠れることだ。走って来ていたものの、どうやら私には気がついていない様子。……しかし、
「キュエェェエェェェ」バキバキ
あのやろう、これ見よがしに兄弟(卵)を殺しやがって……。私に力があったらな……。
全ての卵が壊され、産まれてくるはずだった生命を喰い尽くす。喰われている兄弟達は、皆少し原形が出来ていたため、よけい苦しく目を逸らしたくなった。
しかし、逸らさない。いつか仇を討つためと言うカッコいい理由もあるが、単に逸らして草に当たって音が出るのを避けるためでもある。
目の前の糞鳥は少々不満げにキョロキョロと辺りを見渡している。お願い、どうか私に気づかないで!そんなとき、
がさがさっ
私の後ろで何かが動く音がした。グリンと糞鳥はこちらに首を向けた。そして……目があってしまった。
(まただ。恐怖でまた動けない。動け、動け、動いて私の身体!)
しかし、糞鳥は私に狙いを定めて、突撃してきた。
(もう、ダメだ……。)
そっと目を瞑った。
「シャアァァァァァ!」
「キュイィィィィィ!」
何かと思い目を開けると、糞鳥の首もとに大蛇が噛みついていた。流石の糞鳥も苦しそうに暴れている。
私は直感的にわかった。
(あれは、私の……母蛇……お母さんなんだ。)
一見優勢に見える。私はマザーの存在に安心したのか動けるようになっていた。ただ、何故か嫌な予感がする。私の嫌な予感はよく当たるんだ。
「ごめん、マザー。鑑定!」
『マザースネーク Lv37
その他の鑑定に失敗しました。』
やっぱりだ。あのダークアクイラは格上で、マザーは私を守るために死ぬ覚悟で攻撃しているんだ。
『鑑定のレベルが上がりました。二重鑑定が出来るようになりました。(二重鑑定、鑑定後の内容にたいして鑑定を行う鑑定。)』
何で今さら……シリアスな雰囲気ぶち壊しだよこの脳内アナウンス。でもせっかくなので、マザーにでも……
「二重鑑定!《マザースネーク》」
『マザースネーク
下位種の蛇。一般的な蛇の中でも繁殖力が非常に高い蛇。鋭い痛みを与える毒牙を持つが、命に関わるほどの毒性はない。
基本的に臆病で攻撃的ではないが、ベビースネークを襲うと子を守るためにどんな強者にも襲いかかることからマザースネークと呼ばれるようになった。』
……マザーに勝ち目がないことがわかった。と、とりあえず糞鳥もしておこう。
『ダークアクイラ
上位種の鷲。闇属性に長けた鷲で主に生きた動物なら何でも補食対象とする。強さに関係なく襲いかかる狂暴性を持つが、草むらなどでは慎重に行動しているところもみられる。
くちばしを真っ赤にしているのは強者の証。そして雄の証でもある。』
……これ、誰がこんなの作ってんだろう?ともかく、マザーの思いをこれ以上無駄にしちゃいけない。
「……ごめんね、マザー。」
私は全速力でこの場を後にした。
私が今いる場所は岩壁の隙間。現状、最も安全だと思う場所だ。さすがにヘトヘト。もう死ねそうってくらい疲れた。
逃げている最中、あの糞鳥にマザーが死体となって運ばれている姿が見えていた。つまり、私には何も残っていない……母も、巣も、兄弟達も。
「これから先、どうすればいいの?……私に生きていくすべはあるの?」
そう思う理由は、鑑定さんが教えてくれた真実。
『ベビースネーク
最下位に位置する蛇。マザースネークから産まれてくる全ての蛇の幼体。力も毒性も非常に低いが、近くにマザースネークがいる可能性が高いため、注意が必要。』
この結果からわかるように、マザーが近くにいることが脅威なだけであり、私の力はほぼ皆無といっていいのだ。
「……みっちゃん。」
ふとみっちゃんの顔を思い出す。涙がポロポロこぼれ落ちる。みっちゃんがいればそれでいい。そんな軽はずみにここに来た。
でも、みっちゃんは勇者(だと思う)、私は蛇。今のまま会ったところで気づかないで殺されるだけだろう。……だったら、
「……ごめんね、みっちゃん。今はあなたのことを忘れる。」
私は決心する。どんなに泥を食い、血を啜ろうとも、
「絶対に……生き残ってやる。」
後に蛇姫と呼ばれる小さな蛇の物語はここから始まったのであった。
これからユンちゃんはどう生きていくのか、期待していただければ幸いです。
ただ、最近まじで忙しくて遅れてる……。
すみませんσ(´・д・`)